ひなまつり

!~よたみてい書

第1話

 もふみちは一室の中心で笑みをこぼす。


「ここまで長い間大切に温めてきた。今日がきっと誕生の日になる予定だ」


 彼は前方に広がっている、親指の半分ほどしかない大きさや握りこぶし程の大きさ、さらに足二個分程の大きさの楕円形の物体が並べられている景色を見渡した。


 幸継ももふみちと同じく、辺りに広がる楕円畑を眺める。


「本当に長かったです。今まで何度か彼らの生命が絶たれるかもしれない事故がありましたが、まさか卵が一個も割ることなく、全員で誕生を迎えられるとは、僕、幸せです」


彼は今にも泣きそうな表情でもふみちの様子を窺う。


 もふみちは卵群に視線を巡らせた。


 卵群に小さな亀裂が出来ていた。


「おや。卵に割れ目が」

「ついに、ついに誕生の瞬間が!」


 卵の一部に小さな穴が出来上がり、中の様子が少し見えた。


『うぴぅぴぅ』

『がぴょぴょ』

『ひよぴよ』


 もふみちは満面の笑みを浮かべて声を漏らす。


「あぁ、みんな。おはよう」

「もふみちさん! やりましたね!」


 幸継は徐々に笑顔を消し去っていき、広場の中心で静かに佇んでいる頭ほどの大きさをした卵に注目した。


「あの、もふみちさん? あんな卵、僕たち管理していましたっけ?」

「ああ、あの卵?」


もふみちは腕を組みながら誇らしそうに幸継を見つめる。


「トリだよ。実は、密かに珍しい卵を仕入れていてね。こっそり温めていたんだ」

「何の鳥ですか?」

「きっと、トリに相応しい愛くるしい姿を俺たちに見せてくれるはずだよ」


 すると、最後の卵にピキッと音と共に小さな割れ目が生じた。


 もこみちは卵に視線を戻すと、目を見開いて息をのんだ。


「おい、来るぞ。トリの降臨だ」

「はい! しっかりと見届けます!」


 卵の割れ目は何度もパキパキと鳴らし、蜘蛛の巣上の亀裂を殻に刻んでいく。

そして、楕円の上部部分がまるで蓋のように外れると、中から白い体をした生物が姿を見せた。


『ピィ、ピィ』


 もふみちと幸継は歓喜した様子を見せる。


「生まれた!」

「やりましたね!」


もふみちは足元を見渡しながら言葉を漏らす。


「なんて素敵な、ひな祭りなんだ」


 生まれたばかりの小さな生命たちは、もふみち達に会えたことに喜んでいるかのように、か弱くも元気な声を鳴き続けた。

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