3月3日に祝福を

鋼音 鉄@高校生

10年前の今日と今に祝福を…

3月3日……それは一般的にひな祭りのことを指し、女の子の成長と幸福を祈る日だ。


俺にとっては、親戚の子や姪…それらに祈りを捧げる日でしかなかった。

そんなモノがいつの間にか大切なものになった。


10年前の3月3日、それを思い出せば心臓が普段の何倍かの速度で鳴り響く。

思い返せば分かる。あの日からの俺は、あの日からの高校生活は。間違いなく俺の思い出で、人生の中で最高に楽しい日々であった。


もちろん今が最高じゃないとは言わないが、あれは今とは何か違う最高だった。


人生初の初恋を狙い撃ちされ、人生最後の恋心を縛られている。


それに悶々とし、何回忘れようとしたか。何回諦めようとしたか。

当時の気持ちを思い出そうとしても、明確な回数は思い出せなかった。

それが頭の中に叩き込まれ、理解できたよ。

俺はその日々を……記憶から消去できないほどに愛していた。


どれだけ自分のことをバカだと呼んでも。愚かしいと罵倒したとしても。

記憶に染み付いているんだ。永劫に忘れることはなく、緩やかに体を抱きしめるように。


「本当、楽しかったな。文化祭とか、体育祭とか。バレンタインとかも良かった。あぁ、どれもどれも楽し過ぎた…」


本当、良くないぜ。ひな祭りの飾りの準備してたら思考がどっかに飛んでいってしまう。

取りかかろうとしていた事柄に対して何か結びつく代物があれば飛びついちゃうんだもの。


良くない悪癖だとは知ってるんだが、なかなか治せるもんじゃない。


こういう癖がついたのはお前のせい、とか言ったらどうなるんだろうな。

呆れた目で張り倒されるのだろうか。それとも、軽蔑したような視線で見られるのだろうか


それとも…


「私は!笑顔ではにかみますよー!」

「美穂…いつの間に来たんすか…。足音とか聞こえなかったんだけどなー」

「雄大さん、知ってますか。抜き足差し足忍び足という言葉を」

「忍者ですかアナタ」


呆れたように呟けば、美穂は更に笑みを強める。

ほんと、毎回毎回思うことだけど……ずるいと思うんですよね。初恋の人の満面の笑顔なんて耐えられる訳ないんだわな。


「どうせ昔のこと思い出してると思って見に来たんですけど、やっぱり見てましたね」

「悪かったよ」

「ほんとです。美雨が待ってるんですよ!可愛らしい娘が待っているんですよ!」

「ごめん。さっさと準備するから待ってて」

「待てません。私も手伝います」

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