ライブ中

 みすてぃーずはトリなので、みすてぃーずの出番までに他のアイドルグループの歌と踊りを見る。わたしは環菜のマネをしてペンライトを振ったり左右に動いてみたり「ほー!」と叫んだりした。大きな声を出したり踊ったりする機会はあまりないので楽しい。予習してきたらよかった。

 三組が三曲ずつ、入れ替わって披露していく。二曲目と三曲目のあいだにトークパートがあった。開演前には「ずっと立ちっぱなしなのかなあ」と不安になっていたけれども、このトークパートでは座っていいらしい。周りがフロアに座ったのに合わせて、わたしも座る。

 トークパートでは、それぞれのアイドルたちの自己紹介のあと、女性限定ライブできる『女子会の話題』をテーマに、ステージ上で話し合ったり、客席に質問したりしていた。

 このライブに来ていなかったら、この子たちのことを知らずに生きていただろう。一生懸命歌って踊る姿を見ていたら、全員を応援したくなってくる。

「環菜環菜」

 三組目のアイドルたちがお辞儀しながら舞台袖にはけていった。わたしは環菜を呼び寄せる。

「おねえ、どうしたの? 次がみすてぃーずよ?」

「アイドルの応援って、具体的に何をすればいい?」

「何って、うーん……チェキを撮るとか、物販でグッズを買うとか?」

「破産しちゃうなあ」

 やっぱりお金かあ。まあ、そうだよねえ。今なら、CDをファンの心理が理解できる。これまでは「投票券だとか握手会の参加券だとかがCDに付いているのはわかっているけれども、同じCDを山ほど買わなくてもいいじゃない」と首を傾げていたが、ファンは自分の好きなアイドルを応援したいのだ。

「おねえ、推し変しちゃう?」

 会場が暗くてもわかる環菜のニヤニヤ顔。環菜はわたしよりもいろんなアイドルを見ているだろうに、かのしぃ一筋なのね。

「推し変?」

「かのしぃのファンを辞めて、別の子のファンになっちゃう?」

じゃなくてかなあ。推し増し。だって、みんな可愛いし、かっこいいし」

「DDってこと?」

「でぃーでぃー?」

だれでもDaredemoだいすきDaisuki。頭文字を取って、DD」

 本当にいろんな用語があるんだねえ。おねえの知らなかった世界。


「まっ、見てなって。アイドルとしての雨量カノンを」


 *


 わたしは“俳優”としてのかのしぃを『仮面バトラーフォワード』で知って、その後に出演したドラマや映画を見ている。“アイドル”としてのかのしぃは、新曲が出たときのMVや、みすてぃーずのメンバーとしてバラエティ番組やラジオに出演したときしか知らない。歌番組には、あんまり出演していない気がする。……わたしが知らないだけかもしれない。

 かのしぃは三人組のアイドルグループ・みすてぃーずのリーダーにして、立ち位置がセンター。歌唱スキルとダンススキル、ともに秀でたオールラウンダー。

 みすてぃーずの出番が始まって、あっという間に三曲が終わる。かのしぃに目が釘付けだった。香歩にゃんも鈴萄ちゃんもステージ上にいるのに、かのしぃを目で追ってしまう。サビの部分で香歩にゃんや鈴萄ちゃんがセンターの位置につき、スポットライトを浴びていても、暗がりのかのしぃを見てしまっていた。


「みなさーん、こにゃにゃちわー!」

 あっ。トークパートだ。香歩にゃんの挨拶で、周りが座っていく。

「今日は、女の子オンリーの『ひなまつりライブ』だにゃん! 男の子は紛れ込んでいないかにゃ?」

 香歩にゃんが目を凝らして、客席を見渡した。

「いたー!」

 指差した先には大きなカメラを背負ったスタッフの人。環菜曰く「女性限定ライブの開催は今回が初めて」ということだし、取材に来ているのかなあ。

「こらこら、香歩にゃん。あの人は特別っ」

 ステージの前方、客席からはスピーカーで見えない位置に置いてある水を飲んでから、かのしぃが香歩にゃんにツッコんだ。フォワードで“お嬢様”役を演じていたときよりも、地声は高いんだよなあ。

「そうですよぉ。これから『みすてぃーず』からの大事なお知らせがあるんですから。それっ!」

 鈴萄ちゃんが舞台袖から持ってきた巻物を広げる。裁判の結果を知らせるようなその紙に書かれていたのは『新メンバー募集!』の文字。

「わたしたち『みすてぃーず』は、このたび、オーディションを! します!」

「えぇー!? そうにゃのー!?」

 香歩にゃんだけでなく、客席もざわついている。デビューから三人組でやってきたみすてぃーずの新メンバー募集は、インパクトのあるニュースだった。

「環菜、どう?」

 わたしは環菜が小学生の頃、それこそみすてぃーずに憧れて、ダンスクラブに加入していたのを覚えている。そう考えるとみすてぃーずの活動歴って長いなあ。今や環菜も高校生だし。

「……考えてみる」

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