第39話 衣装を決めよう!①

【宮城翔】


 仮装行列のテーマが決まった2年1組は、

 「優勝できる」という自信が持てたからか、


 「俺、どんな役になるのかな。」


 「かわいい服がいいね。」


 「あたし、器用じゃないけど衣装作るの楽しみだな。」


 「何作るのかも決まってないのに気が早いよ。気持ちはわかるけど。」


 衣装の話をしながら、4限目の家庭科の授業に向けて、休み時間に、教室を移動していた。

 

 2組の教室の前で、今朝、具志堅さん(おばぁ憑依中)とトラブルを起こした徳田さんという女子が、

 「1組、うるさい。本当に優勝するつもりなの?馬鹿じゃないの!?」

 とわざと、俺たち1組に向かって、聞こえるように大きな声で話しかけてきた。

 

 真っ先に反応したのは、真だった。

 「徳田てめぇ!具志堅はな・・・!」

 

 そこまで言うと、佐川が真をどけて、

 「そうですよ!具志堅さんは・・・!」

 

 と言った瞬間、末広さんが、

 「このバカ二人がごめんね、徳田さん。こいつらがムキになって。二人とも来い。」

 そういうと、二人の制服のシャツの襟を掴むと、ズルズルと引っ張っていった。

 

 「みんな、すぐに家庭科室に。」

 と、1組の全員に号令をかけた。

 やっぱり、末広さんが委員長だ。

 

 徳田さんは、家庭科室に急いで向かう末広さんを、ずっと見ていた。そして、具志堅さんを見ると、舌打ちをしながら顔を背けた。

 家庭科室に全員入ると、末広さんが教壇の前に立ち、

 「いい!みんな!他のクラスは、1組が勝てるなんて、まったく思っていないの!分かる!それなのに、相手が警戒するような情報を、こっちから与えてどうするの!?特に、そこのバカ2人組!!」

 

 「はい!すみませんでした!」

 

 「けどよ。佐川と一緒にするのは…。」

 

 「何か言いたいことがあるの。」

 

 「何もありません。」

 いつの間にか、末広さんの頭の中では、真と佐川は、コンビになっているらしい。

 

 「みんなも、こっちの情報は流さない。特に、具志堅さんと宮城君が、速いことは言ったらだめ。分かった。」

 末広さんは、全体を見渡しながら、そして、最後は、真と佐川を睨んで言った。

 

 「この佐川大志!一条さんにかけて誓います!!」

 

 「ほかのクラスに情報は出さねぇ!!おばあちゃんにかけて誓う!!」

 そうか。真はやっぱり、「おばあちゃんにかけて」なんだ。


 そのとき、ゆっくりと家庭科室のドアが開いた。入ってきたのは、家庭科担当の岩田先生だ。いつも、穏やかなやさしい笑顔をしている人だ。

 「さ、みんな、席に着いて。あ、もう席についているね。今日の一組は、一体感があるね。」

 

 いつものように、人のよさそうな顔をしながら話し始めた。

 「毎年、2年生は、運動会で仮装行列をします。そこで、これからの家庭科の授業は、仮装行列の準備の時間とします。」

 「家庭科室にあるミシンやその他の道具は、使っていいですよ。ただし、家庭科室で使ってね。家に持って帰ってはいけません。また、家庭科室を使いたいときは、私に予約をとってください。」


 「皆さんも分かっていると思いますが、仮装行列で着るものは、コスプレなどの衣装を購入してはいけません。すべて、自分たちで作ってください。」

 「例えば、仮装で着る服を作るときは、家にある布や古着を持ってきて、仕立ててください。布を購入してもいいけど、あまり高いものは買わないでね。」

 

 真が

 「日本刀とかも、自分で作るんすか。」

 一瞬、みんなが、真を見た。佐川までも。


 「そうです。玩具の剣を買ってきて、そのまま使ってはいけません。」

 「他に、質問はありませんか。もし、個別の衣装や小道具で聞きたいことがあるときは、私に尋ねてください。」

 みんなは、首を縦に振ってうなずいた。

 

 「では、私は、職員室に戻ります。もう、ミシンの使い方は、みんな分かっているよね。ま、1組には工藤君がいるから、大丈夫よね。工藤君、よろしく。」

 

 「誰に言ってんだ。このオレ、だぜ。」

 とドヤ顔をしていた。

 

 女子の一人が、

 「工藤って、家庭科得意なの?」

 と、近くの藤田に聞いてきた。

 

 「工藤は、裁縫と料理がめちゃくちゃすごいんだぜ。」

 

 「以外。」


 「うそでしょ。」


 「工藤のイメージからは想像できない。」

 他の女子からもいろいろな反応が出ていた。

 

 黒板の前に立っていた末広さんは、このことを知っているようだった。俺は、知らなかったけど。

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