第34話 カッコいい!具志堅さん

 【宮城翔】

 

 粗根田そねだ先生が、教室を出ていくと、女子たちが具志堅さんの周りに集まってきた。

 

「具志堅さん、カッコよかったよ。」

 

 真っ先に、具志堅さんを褒めたのは、末広さんという副委員長だった。

 

 「末広さん、ありがとうございます…。」

 かなり戸惑った声だった。今、具志堅さんだ。

 

 「でもあの粗根田そねだ先生に、言い返すなんて。」


 「一瞬、誰かと思ったよね。」

 

 「まさか、誰も具志堅さんとは思わなかったよね。粗根田そねだもね。」

 

 「粗根田そねだに、ピースサインだよ。すごいよね。」


 「あの粗根田そねだ先生が、何も言い返さすことをできずに、教室から出ていったよね。」


 「すっきりしたよね。」

 

 盛り上がっている女子の真後ろで、佐川がチラチラと、具志堅さんを見ていた。

 

 「佐川、あなたも具志堅さんにお礼を言ったら。」

 末広さんが、佐川に言った。


 佐川は、お辞儀をするように手を前に置いて、背中を丸めながら、恐る恐る前に出てきて、

 「具志堅さん、ありが…。」

 

 ドスッ

 佐川は、後に吹き飛ばされていた。そこには、興奮した真が立っていた。

 

 「具志堅、さっきすごく格好良かったぞ!」

 

 具志堅さんは、戸惑った笑みを浮かべながら、周りに集まっているみんなを見ていた。

 

 末広さんが、

 「具志堅さん、さっきまでと違うね。今が、いつもの具志堅さんだよね。」

 

 (さすが、副委員長。するどい。)

 

 「何を言っているのですか!末広さん!具志堅さんは、元々こういう人なのです!そうに決まっています!何せ、あの一条さんのご友人であらせられるのですから!!」

 

 自分は前から知っているという顔で両腕を腰に当てて、佐川が、真の後ろから、大きな声で叫んだ。

 佐川は、なんでも一条さんだな。

 

 末広さんが、

 「佐川の言っていることは、まったく理解できない。」

 と言い放った。


 続けて

 「具志堅さんが、強い意志を持っているということは、分かった。具志堅さん本当にありがとう。クラスのみんなの思うことを言ってくれて。」

 

 末広さんの方が、委員長らしいな。なぜ、佐川が委員長で、末広さんが、副委員長なんだろ。

 

 末広さんは、思い出したように、

 「そういえば、佐川、仮装行列のテーマはどうするの、悔しいけど、粗根田そねだ先生の言うことも一理あるよ。いい具合に、時間ができたから、みんなで話し合おうよ。」

 そういうと、委員長佐川と副委員長末広さんは、黒板に向かって行った。

 

 具志堅さんが、俺の方に振り向いた。俺は、両手を合わせて、具志堅さんに謝った。

 具志堅さんは、首を横に振って、顔を少し赤くしながら、ピースサインをした。

 具志堅さんが、おばぁ化している。

 

 クラスは、仮装行列のテーマ案で、ハイテンションになってきた。

 

 末広さんが、切り出した。

 「それでは、仮装行列のテーマがある人、いますか。」 

 

 真が、いの一番に手を挙げた。

 「はいはいはーい!!オレ、いいアイデアあるぜ!!」

 「戦隊もの!!もちろん、女子には女幹部のコスプレをしてもらう!!」

 

 女子からは、

 「却下!ダサい!」

 「よく分かんないからやだ!」


 男子からも、

 「この年でやりたくないよ!」

 「工藤がリーダーとか、言わねぇよな。それはないぜ。」


 「なんだよ!お前らグダグダ言いやがって!」


 「戦隊ものね。他に意見がある人いますか。」

 末広さんが真の意見を黒板に書く。反対意見が多いのに、律儀な人だ。

 「ゴーストハンター」

 「ナツと海の女王」

 「トランプカード」

 「花の妖精」

 「アンドロイドパレード」


 末広さんが黒板に意見を書いていく。

 あれ?最初から、末広さんが仕切っている。委員長って佐川じゃなかったか。


 真が、

 「なんか、『これだ!』って意見がねぇな。」


 「確かにな。」


 「出尽くした感じがあるよね。」


 その時だった。佐川が立ち上がって、

 「そんな時こそ!委員長たるこのワタシの出番です!」


 「…何よ。佐川。」

 末広さんは、凄く嫌そうな顔をしている。


 「運動会と言ったら、祭り!祭りと言ったら、神輿みこし!」


 「そこで!!」

 佐川が大きく息を吸った。


「そして神輿の上に乗る大工方だいくがたは、まさしく委員長!すなわちクラスの顔たる、このワタシ!佐川大志が乗れば完璧です!!」


 真が、

 「一番ねぇよ!!絶対負けるぞ!」


 他の男子からも

 「そもそも、佐川がこのクラスの顔なわけないだろ!」

 「お前の乗った神輿を担ぐなんて絶対嫌だぞ!」


 女子からも

 「そうだよ!佐川にそんなことされたら、私恥ずかしくて学校に行けなくなる!」

 「そもそも、佐川って委員長だっけ?末広さんじゃないの?」

 皮肉も混じっていた。


 末広さんが

 「佐川のこの意見だけは何があっても却下!!」


 「異議なし!!」

 クラス中に声が響いた。


 佐川の案は、黒板に書いてすらもらえなかった。

 このクラスでの佐川の立場ってどうなってるんだ。

 

 結局、国語の残り時間では、仮装行列のテーマは、決まらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る