第33話 団結する2年1組

【宮城翔】

 ホームルームが終わると、真が俺のところに来た。

 

 「あのさ。真。」

 「江上君って誰?」


 「翔、知らねぇの?」


 「うん。知らない。」


「そう言えば翔は転校してきたばかりだもんな。まあ、その、なんだ。江上っていうイケ好かないイケメンヤローが2組にいるんだよ。」

 

「ふーん。そうか。」

 

 俺が関心なさそうに答えると、真は少し不満そうだった。

 江上と何があった、真。


「あ、1限目は、国語か。ゲッ!粗根田そねだかよ。なあ、翔。性格の悪さってさ、髪型に出るよな。」

 

「何のことだよ?」

 

「国語の先生で、2組の担任の粗根田そねだだよ。クレオパトラカットのババァのことだって。」

 

「そうかな?」

 

 ふと気が付くと、クラスメイトの目が教室のドアに集中していた。そこには、粗根田そねだ先生が立っていた。

 その目は、ゴキブリに今すぐ殺虫剤をかけるように、真を睨んでいた。

 

「やばい!あ、そうだ、授業の教科書の準備しないとな。」

真は、今言ったことをごまかすように三文芝居をしながら、俺から離れていった。

 

「さ、授業始めるわよ、工藤君、早く席に着いた。」

 この日の授業は、いつも以上に、ピリピリした雰囲気になった。

 

 藤田が、教科書を読むように指名された。藤田は、

 「御釈迦様は地獄の容子ようこ・・・」

 

 「『ようこ』ではない、『ようす』と読むのよ。前の授業でも教えたわよね。」

 藤田は、少し涙目になった。

 

 「1組は、本当に!」

 クラスの一部は、なにか親の仇でもみるような目で、粗根田そねだ先生を睨みつけていた。

 

 粗根田そねだ先生は、

 「そういえば、1組は運動会の仮装行列のテーマ決まった?決まっていないでしょ。」

 「どう、佐川君決まったの?」

 

 「決まっていません。」

 

 「やっぱりね、1組ではすぐには決められないでしょ。運動会まで、時間がないのよ。準備の期間を考えると、今日で決めておかなくちゃ。今村先生では、こういった指示もできないでしょうね。」

 

 粗根田そねだ先生の勝ち誇った声だった。

 更に、「ふん」と言う声も聞こえた。

 自分が出るわけでもないのに。

 佐川は下を向いて、肩を震わせていた。


 粗根田そねだ先生は、続けて、

 「2組は、RPGをテーマに決めたわよ。勇者はね、もちろん江上君ね、当然だけど。」

 

 粗根田そねだ先生は、まるで、佐川が江上より完全に劣っている、と言いたげだった。

 「ま、1組は、他の競技でも勝てないでしょうけど。」

 粗根田そねだ先生は、言い放った。クラスは静まり返っていた。

 確かに、自分たちでも認めていたことだ。


 でも、先生だからといって、そこまで言ってもいいのだろうか?

 (ここまで言う必要あるか。いくら何でも言い過ぎだろ。)

 でも、その言葉を口に出すことは俺にはできなかった。

 

 そのとき、俺の左前の窓側の席から

 「そうとは限らんさ。」

 と、粗根田そねだ先生を馬鹿にした涼しげな声が聞こえてきた。

 

 「誰が、言ったの?」

 

 「私さ。」

 

 「具志堅さん?」

 粗根田そねだ先生にとっては、意外だったのだろう。

 その声には驚きと戸惑いがあった。みんなも、驚いて具志堅さんを見ていた。

 

 おばぁだ。おばぁ、かなり怒ってるな。

 

 「今、国語の授業だよね。先生だから、何でもしていいということでは、ないよ。」

 「それにさ、いくら自分のクラスが好きだからって、中学生に対して、そんな言い方はないさね。まだ、子供だよ。」

 おばぁ、具志堅さんも中学生。

 

 「勝負はやってみないと分からんさ。それに、私は、優勝するつもりだよ。」

 具志堅さんは、粗根田そねだ先生に向かってピースサインをした。まるで、小娘を挑発するように。ま、確かに、おばぁよりかなり年下だけど。

 

 真が、椅子から勢いよく立ち上がって、

 「俺も、負ける気はないぞ!2組なんかに。特に江上なんかにはな!!絶対に勝ってやる!!」と言い放った。

 

 そして、

 「佐川、お前もなにか言え!」と言った。


 「ワタシは、江上君には負けません!我ら1組も2組には、負けません!必ずや優勝します!」

 クラス全員が、佐川に大きな拍手をした。

 

 国語の授業の途中だったが、粗根田そねだ先生は、バタンとドアを思いっきり閉めて、1組の教室から出ていった。

 

 俺の頭の中で、

 「戦は、勝つべし。」

 と言う気持ちが湧き上がってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る