第3話

恐らく私は今日死ぬ。なんとなくわかる。

幽かに燈り続けていた命のロウソクがもう消えかかってる。


だから少しでもロゼに側にいてほしかった。

そして、ロゼも私が考えてること全てをわかっていると思う。


「わかった。しょうがないからこうしといてやるよ」


なんてぶっきらぼうな言い方をしつつも、その手は優しく私の手を握る。


「ねぇそういえば、」

「“吸血鬼の殺し方”はなんなのか、って?」

「そうそう」

「そうだな~もうそろそろ焦らすのも飽きたし教えてやってもいいかな」


「人に血を分けることで俺たちは死ぬ」

「…え、そんなことで?」

「ただしそれに加えもう1つだけ条件がある。普通にあげるだけじゃ死ねない。ただちょっとその人間が強くなるだけだ」

「そう、なんだ…」


じゃあもし私が“生きたい”と彼に告げることがあれば、彼は私に血を分け与えてくれてたんだろうか。

言わなくて正解だった。彼の、愛する人の血をもらってまで生き抗いたいとは思わない。


「なんだと思う?」

「なんだろ…死んだ人にあげるとか?」

「死んだ人間は俺達でも生き返らせられない」

「同性、もしくは異性にあげる」

「そこは関係ない」


関係ない、のか…。もしかしたら女の私に飲ませたら死ぬからくれなかったんじゃ、と思ったところで、考えるのを辞めた。そもそも彼が私の寿命をのばすことはなんのメリットもない。


「全然わからない。本当に死ぬの?吸血鬼って」


「死ぬよ」


「それなのにロゼは今まで死ねなかったのね」

「そのたった一つの条件を満たすことができなかったからな」

「そっかぁ…じゃあ、結局死ねるのは私だけだね~。ごめんね、お先です」

「先越されたか~残念だなぁ」


「でもロゼが死ねないなら、私ももうちょっと生きたかったかな」


って、ロゼがまだ一緒にいてくれるかもわからないのに、何言ってんだろ、今の無し。


1人で照れていると、ロゼは今まで見たことのない表情をしていた。


「雫、生きたいのか」

「ん?…ロゼと一緒にこのまま過ごせるなら、病気がわかったとき諦めないで頑張ればよかったな、って。でもあそこで諦めてなかったらロゼと出会えてなかったんだよなー」


ロゼは、じっと私を見つめて、それから自分の両の掌を見つめて、5分ぐらいの沈黙を破って話し始めた。


「吸血鬼が死ねる唯一の方法は、“愛する人間に血を飲ませること“だ」


突然の答え合わせに、虚を突かれた。


「吸血鬼は愛する人に血を飲ませて、漸く死ぬことができる。そうやって旧友たちは死んでいった」

「俺は今までそんな感情をもったことがないから、ここまでだらだらと生き延びてしまった」

「だから、すぐにでも“生きたい、欲しい”って言ってくれそうなお前は、俺にとって都合がよかった」

「ねぇ、待って、それって」


「そういうことだ。あの満月の晩、死のうとしている雫をみて恋におちた。一目ぼれだったんだ」

「だって今までそんな素振り……」

「……俺が少しでも長く一緒にいたくなってしまったから、言い出せなかった。ごめんな、本当はもっと早く楽にさせてあげられたんだ。こんなに細くなることもなかったんだ」

「違う、ロゼは何も悪くないでしょ?死にたかった私にいろんなものを与えてくれたんだから。それに私はロゼが死んでしまうなら、この先生きることができたとしても意味はない。だからごめん、もう少し生きて。きっとまたすぐに他の好きな人を見つけることができるから」


涙があふれてくる。この数か月どんな気持ちで一緒にいてくれたんだろう。



「ねぇ、ロゼ。なんでそれを今私に言ったの?」


「…雫、わかってるんだろう」

「いやだよ。分かりたくないよ。このまま死なせて?ロゼが私を愛してくれていたことを知って死ねるんだから、幸せだよ」


「俺はこの数か月、雫の“生きたい”を聞くために一緒に過ごしてきた」

「ねぇ、やだ、やめて」

「お前は、生きろ。生きればまた幸せになれる」

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