第29話 報告
「よし、午前中には帰って来れたな」
「おぉ? 何だか久しぶりに見た気がするなぁ……」
「いやいや、一日しか経ってないだろう」
町の一つしかない門を通ると、必ず門番のダールと顔を合わせることとなる。ここ最近は、指導をする関係から毎日門を出入りしていたからか、ダールとも随分打ち解けて話をするようになった。
馬屋へ馬を返した後、わずかに緊張を
途中でバックパックを背負っていたことに気付いて、一度居候先へと寄り道をする。
「おぉ、お帰りなさいレオさん。娘から事情は伺っております」
「ただいま帰りました」
一階が店舗になっている薬屋へ帰ると、カウンターの後ろでゴリゴリと薬草を押しつぶしていたクロエ父がやや緊張した様子で声をかけてきた。
「こうして戻られた、と言うことは……?」
「ええ、一旦事態は収束しました。今後も経緯を見守る必要はありますが」
「良かった……ブラヴァンスは、ロンブリエールに薬草を多く
ホッと胸をなでおろすクロエ父。クロエ父の話を聞いて、ゾッとした。
あのまま森の異常が長引けば薬屋、ひいてはロンブリエール全体にまで
「では、今日は帰ってこられるのですか?」
「あ、はい。それなんですけど、そろそろロンブリエールで家を借りようと思っていまして」
「おぉ……それは、また。何と言ったら良いのか。しばらくはこの町で暮らすということですか」
「ええ。ありがたいことに、ギルドで指導役のお仕事を頂けて町の雰囲気も、俺好みです。腰を
俺は良い機会だと、以前から考えていた話を切り出した。
今まで居候として三か月くらい過ごさせてもらったけど、月の収入も安定しているしいつまでも厄介になるわけにはいかない。
「しかし、家を出て行くとなると娘が悲しみますな」
「出て行くにしても家を探すところからですから、もう少しだけお世話になってもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんですとも」
にこやかにクロエ父が
割り当てられた自室へ戻ると、一日空けただけなのに随分ごちゃごちゃした印象を受ける。そこで気付いた、物が増えたなぁ……と。
これまで、バックパックに収まる程度にしか物を持たなかった俺が、ロンブリエールに流れ着いてからたった三か月で、ここまで物を買うことになるとは思ってもみなかった。
クロエが成長したように俺もまた、何かが変わり始めているのだろうか。
「さて、と。ギルドに行くか」
ズシリと重量感あるバックパックを床に下ろすと、俺はその足でギルドへ向かった。
町の中心へ向かうにつれて次第に歩みは速くなる。
そうしてギルドへ入ると、そこはもぬけの殻であった。中に居たのは、相変わらずカウンターの奥で魔物を素材ごとに選別しているアシルのみ。
いつもであれば、カウンターにいるはずのシャルリーヌを始め、『ブヴールズ』のメンバーも見当たらない。それにギルドに入った瞬間、どこからか良い匂いが漂ってきて、俺の胃を刺激する。
一体何事だ……?
もしや、何か異常事態が起きているのではないか。いや、それだとダールのあの態度は腑に落ちない。ギルドの入り口に立ち尽くして色々な可能性を考えていた時、カウンターから身を乗り出したアシルが手招きしてきた。
「おぉ、帰って来たか。残念だが、今日のカウンターは俺だぞ」
「アシルさん、今日はアシルさんお一人なんですか?」
「午前中だけな」
アシルはニヤリと不気味な笑みを浮かべて言う。
しかし、それにしても
「アシルさん、救援要請は無事に終わりました。後日、ブラヴァンスから報告があると思いますが、森の外周にパラライズスパイダーが出現しました。念のため、ロンブリエール周辺でも異常が発生していないか確認すべきだと思います」
「分かった。すぐにギルマスへ報告をあげておく」
「よろしくお願いします……ところで『クロー』の昇格試験はどうなったでしょうか。昇格ですか?」
「そりゃ、本人たちから聞いたらどうだ?」
アシルは俺の背後を指さしながら言う。
振り返ると、クロエたちがギルドに入ってくるところだった。
「――師匠!!」
「おぉ、クロエ。どうだっtぁおお!?」
声をかけたら返って来たのは、クロエのボディタックルだった。
二か月前とは大違いな瞬発力で飛びついてくる。慌てて受け止めている間に、『クロー』の面々が近くまでやってきて言った。
「師匠! 俺たち、やりました!!」
「『クロー』はDランクの冒険者パーティーになりました!」
口々に感謝を伝えてくるメンバーに、俺はホッと胸をなでおろす。
良かった。クロエたちは怪我もないようで、無事に昇格に必要なゴブリン五体を討伐したらしい。
「おめでとう、皆」
『ありがとうございます!!』
ギルドは少年少女たちの喜びの声で満たされた。
今まで何をしていたのかと聞くと、ジョエルの店――居酒屋『カルム』で昇格祝いをしていたのだという。
ロンブリエールでは、本当に久しぶりのDランク冒険者パーティーが誕生したようで、特別に店を開いてくれたのだそうだ。シャルリーヌたちもそちらに居るらしい。
「なるほど、だからお昼まで……だったんですね?」
「おう、まだまだパーティーは続いてるはずだ。指導役も行ってきたらどうだ?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……アシルさんは行かれないのですか?」
クロエたちに手を引かれながら、カウンターからこちらを見守っていたアシルに尋ねると、カウンターの下から皿に乗った料理を出してニヤリと唇を吊り上げる。
なるほど、アシルはもうパーティーに参加した後だということか。
ならば気兼ねなく参加させてもらおう。
「そういうことですか」
「ああ、そいういうことだ」
「師匠ー! 早く行きましょう!」
「ドニたちに置いて来た肉を食われるかもしれないんだ! 師匠のために残してあるんだぜ!」
クロエとエリクに手を引かれながら、こういうのもアリだな……なんて柄にもなく思った。穏やかな町に、賑やかな子供の声が
この日を境に、ほんの少しだが、ロンブリエールの雰囲気が変わり始めた。
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