第25話 行方不明の冒険者

 異常発生に備えて、フル装備で待機していたのが功を奏したか。

 俺は立ち上がってシャルリーヌとジルの下へと歩いて行く。


「村で何が起きたのかを聞かないと、動くにも動けないぞ」

「あ、アンタは……?」

「俺は冒険者のレオ。一応、このギルドでは一番ランクが高い冒険者ってことになるな」


 俺に飛びつこうとするジルを制止して、状況の説明を求めるとジルはまくし立てるように話しだした。

 事の発端は今から一か月前。

 村の猟師が、森の外周で動物の変死体を発見した。外傷もないのに、目や口から血を流した動物の死体だ。

 森に異常が発生していると判断した猟師は、即座に村へと帰り村長に報告。事態を重く見た村長は領都セリエールへ救援要請を行ったらしい。


「ご領主様ならば、我々のこともお助けくださると思った。実際、助けはやってきた」


 待つこと二週間。救援要請を受けて、調査のために村へ一人のDランク冒険者がやってきた。

 これで村の周辺で起こっている異常事態も解決するかと思ったが、これが難航。一週間経っても解決せず、五日前、森へ調査に出ていた冒険者が村へ帰ってこなかったそうだ。


 そのむねを領都へ伝えたところ、たまたま近くへやってきていたCランク冒険者が派遣されてきたのだが……。


「――その冒険者も昨日から姿が見えない、と?」

「ああ……それで今日、領都から伝令がやってきてロンブリエールを頼れ、と……」


 ジルは村長から命じられて、ロンブリエールまで馬を飛ばしてきたそうだ。

 まさかのロンブリエール名指し。これは確実にアルフォンスが絡んでいるな。全く人使いの荒い……。


「とにかく、話は分かった。村へ案内してくれ」

「そ、それじゃあ……!」

「ああ、救援要請を受けよう」


 ジルに準備をするように言うと、ジルの持ってきた救助要請を受理するようシャルリーヌへうながす。

 俺を見上げてくるシャルリーヌの目には、不安の色が浮かぶ。


「レオさん……」

「大丈夫だ、俺は腐ってもBランク冒険者だし、この町でやらなきゃならないことも多い。そう簡単にやられる訳にはいかないさ」

「絶対、絶対に無事に帰って来てくださね……?」

「約束だ」


 その後、ギルドで所有している馬を借りて俺とジルはブラヴァンス村へと旅立った。ロンブリエールを発った直後は軽口を交わしていたジルだが、村が近付くにつれて口数が減っていく。


「レオさん……村を、ブラヴァンスを頼みます……!」

「ああ、冒険者として期待に応えてみせよう」


 前までの俺なら、絶対こんなことは言わなかった。

 柄にもなく、ジルに期待させるようなことを言ったのは、どうしてだろう。そんなことを考えているうちに、俺たちはブラヴァンスへと到着した。


「おぉぉ、ジル! それに……貴方が使者殿のおっしゃっていた冒険者様ですな!? どうか、この村をお救いください!!」

「た、多分そうですが……ロンブリエール支部から来ました、冒険者のレオです。

 すぐに森で調査を始めますので、簡単な地形と魔物の情報を教えていただけると助かります」


 俺が馬を下りると、一人の老人が駆けよってきた。

 口ぶりからして村長らしき老人は、地面に頭を擦り付ける勢いで頭を下げると、村を助けてくれと懇願こんがんし始める。


「村長殿、俺はそのためにやってきました。当時の状況を含めて、詳しく説明をお願いしたいのですが……」

「で、では、最初に動物の死体を発見した猟師に説明させましょう」


 いつの間にか俺たちの周囲を囲んでいた村人の中から、壮年の男性が出てきた。皮のベストに顔を斜めに走る傷跡が特徴の、強面の猟師が当時の状況を語り始める。


「あの日は、罠を見に森の外周を回っていた。獲物は罠にかかってたんだが、どうも様子がおかしい。いつもだったら物音に反応して暴れ回るんだが、ピクリとも動かなかったんだ」


 遠くから弓をっても地面に倒れた獲物に反応がない。

 いよいよいぶかしんだ猟師が獲物の正面に回ると、獲物は目や鼻、口から血を流して死んでいたのだ。


「明らかに様子がおかしい。気付けば、周囲から生き物の気配が消えていたんだ。何か、得体の知れない生き物が森にいるんじゃねえかと、俺は怖くなってその場から逃げ出した」


 以来、森で猟ができなくて困っているという。

 村の女衆も木の実や山菜を取りに行けず、このまま異常が続けばいずれ村人の犠牲者が出るかもしれない。


「なるほど……事情は分かりました。異常を察して、救助要請を行ったのは正解でしたね」

「何と!? 話を聞いただけで、何か分かったのですか!?」

「ええ、おおよその見当がつきました」


 分かったも何も、この異常を起こした原因である犯人の正体に目ぼしが付いた。以前、『ノヴァ』として活動していた時に似たような状況に遭遇したことがある。


「犯人は、パラライズスパイダーで間違いないと思います」

「パラライズスパイダー……ですか?」


 パラライズスパイダー。

 成体は一〇〇センチにも達する毒蜘蛛どくぐものような魔物だ。胴体は黒と黄の派手な縞模様しまもようが特徴的で、俊敏しゅんびんかつ獰猛どうもう

 ゴブリンはDランク相当の魔物だが、このパラライズスパイダーは毒性の低い幼体ならばDランク、雄の成体ならCランク、めすの成体ならばBランク相当の厄介な魔物になる。


 派遣されてきた冒険者はいずれもソロでDランクとCランク……森に慣れていないがためにパラライズスパイダーの毒にやられてしまった可能性が高いな。

 こんな近くに危険極まりない魔物がいるなど……森はどうしてしまったのだろうか。思わず『クロー』とセリーヌの面々が脳裏に浮かぶ。無事であってくれ……。


「森を調査してきますので、皆さんはなるべく森へ近寄らないようにお願いします」

「は、はい。徹底させます」

「ちなみに、最初に死体を見付けた場所というのはどこになりますか?」

「あそこに見える巨木のすぐ近くです……案内しましょうか?」

「いえ、パラライズスパイダーは自身より弱い獲物を率先して襲う習性があります。情報だけで十分ですよ」


 パラライズスパイダーは別名「森の狩人」とも呼ばれており、自身よりも弱いと判断した相手には容赦ようしゃなく襲いかかるという、厄介な習性をもっている。

 申し出はありがたいが、今の状況で森に入るのは止めておいた方が良い。

 猟師から変死体を見付けた場所を教えてもらうと、俺は単身で森へ突入する。


「では、行ってきます。俺が二日経っても戻らなかったら、すぐさまセリエール子爵家のアルフォンス様へ救助要請を行ってください」

「は、はい! どうかお気を付けて!!」

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