第24話

「日野くん、どうしてここに…?」


「うーんとね、ちょっと忘れ物しちゃって」


嘘ついてる、と直感で分かってしまった。分かったのに、踏み込まれるのが怖くて言えなかった。


「そっか。じゃ、一緒に帰る?」


「うん、帰ろう」


周りには付き合っていることを秘密にしている私たちが一緒に校門をくぐったのはこれが初めてだった。


しばらく無言で隣を歩く。


いつもの田んぼ道の辺りまで来たところで、先に口を開いたのは日野くんだった。


「誰かと…いたの?」


「うん、崇人…堀内崇人がなんか私に話があったみたいで」


「相原先輩、前から堀内と仲良いんだもんね」


「…別にそんなことないよ」


「なんか、嫌なことでも言われた?」


日野くんは恐る恐る尋ねてきた。


日野くんも日野くんできっと、私が言葉にしなくても何かを感じとっているんだ。


「ううん」


「じゃあ、何でそんな顔してるの?」


「え…」


「ごめん、何でもないや。じゃあまた明日ね」


「あ、うん…じゃあね」


お互いに言わなきゃいけないことがあった気がするけど、私たちは踏み込むことができなかった。


触れたら、壊れてしまいそうで…


日野くんの背中を見送ると、どっと疲れが襲ってくる。


そして、一人になり、思い出すのは崇人の少し切なげなあの表情。


私、日野くんとまっすぐ向き合えてないじゃん…彼女失格じゃん…


もう、自分の中で答えは出ていた。


やっぱり、私は崇人のことがまだ忘れられないんだ。



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