第13話
あの日、告白された田んぼ道を抜けた先にある小さなサッカー場の近くで日野くんは足を止めた。
「ここに座りますか」
「うん」
「まだ暑いですね」
日野くんはさっと座ると、ワイシャツを前後にして体に風を送る。
まるで制汗剤かなんかのCMみたいな光景に見惚れていると、日野くんと目が合った。
瞬間的にそらして、"今の嫌な感じだったかな。"と、ちょっと反省しながら自転車を停めると距離を空けたところに座った。
風に運ばれてきた日野くんのにおいに、急に鼓動が早くなる。
「あっ!」
突然思い出して、カバンの中を探ると昼休みのピンポン玉が出てきた。
「これ!!」
差し出すと、日野くんはいつもの可愛い笑顔を見せた。
「ふふっ…捨ててなかったんだ」
…トクン。心の音がはっきりと聞こえたけど、私は無視した。
「うん、なんか捨てられなくて。笑」
「…なんか、ペンとかあります?」
カバンの隙間から覗いている筆記用具を見て、日野くんは聞いてきた。
青の油性ペンを差し出すと、日野くんはピンポン玉に何か書き始めた。
「はい、これでもう先輩のね」
“相原二葉"
そこには、丁寧な字で私の名前が書かれていた。
「ちょっと貸して」
青いペンをひったくると、私も日野くんの名前を反対側に書いた。
"日野勝利"
「はい、これで日野くんのものにもなった!」
「下の名前、ちゃんと知ってくれてたんですね」
「そりゃ、知ってるでしょ」
「嬉しい…。でも、これは先輩に持ってて欲しいです。」
少し顔を赤らめて言う姿を見たら、もうピンポン玉を突き返すことはできなかった。
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