その夜空の向こう側2 at a cross roads

丸千

第1話

 僕達は、住んでいた星に隕石が衝突するのが分かって、宇宙船を作って逃げ出した。


 逃げるあてなんて全く無いまま始まった宇宙の旅の目的は、すぐに決まった。


 僕達が住める別の星を探す事だ。


 広い宇宙を旅して行けば、僕達が住める惑星がどこかにあるはずだ。


 この船は大勢を乗せ、今日も宇宙のどこかを航海している。




 僕の役割は航海長で、巨大な艦の舵取りを任されている。長と言っても、艦内の機能は殆どが自動化されていて、部下は居ない。


 だから、一緒に働いているのは、あの人だけだ。


 僕は艦の指揮を行う部屋、艦橋ブリッジに一人で居て、上司である彼女の到着を待っている。


 金属質な部屋の中は、照明が制限されていて薄暗い。正面には大型モニター。状況を映している。モニター手前に並んでいる操作パネルは、点滅するランプがいくつもあって夜景みたいに煌びやかだ。


「艦長、艦橋に入室ブリッジイン


 オペレーターロボットの電子音声が響いた。今は、緊急事態の発生中だ。


「航海長、状況は?」


 自動ドアが開くとすぐ、凛々しい声が飛ぶ。


 真っ黒なドレス姿の女性は、スカートの裾が床に着かないように両手で摘まんで持ち上げながら艦橋ブリッジに入ってきた。


 スカートの裾から覗いたハイヒールも真っ黒だった。つば広の黒い帽子も可愛らしかった。パーティーが始まる直前に急いで入って来たお姫様みたいだった。彼女は才能があり、若く美しい。


「正面モニター見てください」


 部屋の中央にある艦長席に座った彼女は、一瞥して言う。


「宇宙オーストラリアウンバチクラゲだな。危険な奴だ」


「大きさは、四十五キロメートル程です。距離はまだありますが、触手を伸ばしてきています。艦体に巻き付かれたら大惨事です。毒針が強力ですから」


 モニターに映るのは、宇宙を漂う巨大なクラゲ。我らが艦をエサだと思っている。


「よし、倒そう。準備出来ているか?」


「はい。大丈夫です。…。あの…。その、艦長のその服は…」


「これか? 済まない。お店で試着の途中だったんだ」


「そうですか。急な呼び出し、済みません。それと、お綺麗です」


 艦長は、帽子を深くかぶり直して正面モニターの方を向いた。危機が迫っているのだから、僕の方を見てくれないのは当然だ。


「お世辞はいい。暗黒物質エネルギー砲、準備」


 この武器は頼れる武器だ。巨大な砲から発射される光線は、大抵のものなら破壊出来る。


「了解。主砲発射準備。エネルギー充填率1%」


「発射」


「え、1%? は、発射」


きゅいん きゅいん きゅいん どおーーーーん


「目標に命中。破壊しました」


「よし」


 艦長の安堵の声の後に響くのは、オペレーターロボットの声。


「暗黒物質エネルギー使用により時空間への影響発生。時空間衝撃波が発生しました。到達まで六、五…」


「時空間衝撃に備え」


「了解」


がたがたがたがた どーん


 艦長席の傍に立っていた僕は、危うく転ぶところだった。艦長席にしがみついていた。


「艦長、大丈夫ですか? あれ、艦長が居ない。消えた? オペレーターロボさん、見てた? 見てないか。えーー」


「時空間衝撃波により時間移動タイムワープが発生した模様。続けて、衝撃波の反動波の到達まで七、六、五…」


「いやいや、噓でしょう。艦長…」


がたがたがたがた どーん


 二回目の衝撃波だ。最初の衝撃の揺り返しで、衝撃波は対になっている。僕は、また危うく転ぶところだった。


「どうした? 航海長」


「艦長。無事だったんですね?」


「うむ。少しの間、未来に行っていたみたいだ。戻って来れた」


 艦長は、何も無かったみたいに席に着いていた。


「お体は大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。ドレスも破れていないな」


「良かったです」


「これを君にあげよう」


「何ですか、これ?」


「今日の艦内サッカーリーグ戦のサッカーくじだ。結果は見てきた。一等が必ず当たるから、豪華な食事にでも行くといい」


「え、ありがとうございます。」


 この巨大な艦は居住区も巨大で、サッカー場がいくつもあり、今日は試合の日だ。


 いいのかな、これ? ああ、でも、ドレス姿で販売所に並ぶ艦長、素敵です。そして、このまま艦長と夕食に行きたいです。


時間移動タイムワープにより平行世界パラレルワールドが千九百十一発生。収束まで八、七、六…」


 時間移動タイムワープした艦長の行動次第で、この世界に影響が出る。どんな影響が出るかは分からない。平行世界パラレルワールドは、利点がある事もあるが危険だ。発生した中から、今回は、どんな未来が選ばれるんだろうか?


 主砲を撃つといつもこうだけれど、今日は発生数が多いな…。


 それにしても、オペレーターロボはいつも冷静だな…。


平行世界パラレルワールドが収束。影響は僅か。艦長のドレスは、試着から買い取りに変更。艦内のサッカーボールが全て消失し、本日のリーグ戦は中止です」


「…」


「…」


「航海長…」


「はい」


「そのくじ、破って捨てておいてくれ」


「…。了解です」


「艦長、艦橋を退室ブリッジアウト


 僕達の宇宙旅行は、今日も続く。

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