第16話
あれは3年前の春。
大学を卒業した兄が、久しぶりに島に帰ってきた。またずっと一緒に暮らせると思っていた家族は、既に兄が都会での就職を決めたことを知り、ひどくショックを受けた。
あの夜、父は荒れ狂い、一升瓶を振り回しながら兄と掴み合いの喧嘩をした。一升瓶が柱にぶつかって砕け、大量の酒が畳の上にぶちまけられた。母は何も言わず、硝子の破片を拾っていた。私は父と兄の喧嘩が怖くて、部屋の隅で怯えて泣きじゃくっていた。
(うち…お兄ちゃんに捨てられたんじゃ)
私はそう思った。あの時ほど、兄を憎いと思ったことはなかった。そして、兄を連れ去っていく編集部の人達を恨んだ。
幼い頃は、兄と私はいつも一緒だった。兄と同じ皿から食べ、兄のお腹を枕にして寝た。兄に肩車され、蜜柑山の頂上から見た夏の早朝の海。蜜柑の白い花…。
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