第10話 broadcasting

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【むすチャン!】NetMusume Channel

 インターネット娘公式チャンネル

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配信スタートのカウントダウンが画面に表示される。


『3、2、1……配信開始しました!』


「おーい、みんなー!こんな時間にのんびり配信、始まりましたよ〜」

なちがゆるっとした口調で画面に手を振ると、コメント欄が一気に流れ出した。


『なちゅれ〜!待ってた!』

『かなでさんもいる!?貴重回じゃん!』

『この組み合わせ、まったりしそう』


画面の端、なちの隣でかなでは無言のまま、静かに画面を見つめている。


「うんうん、いい感じに集まってくれてるね〜。今日は、Plug on!のライブの話をする予定なんだけど……って、おっと?」

なちが何かに気づいて画面を覗き込む。


『システムメッセージ:スパチャが届きました』


突然、画面上に細かいデジタルノイズが走り、サイバー風のエフェクトとともにメッセージが浮かび上がる。


『沈黙の崇拝者 さんから ¥10,000』

「音なき神託を賜りし者、かなで様。本日の寡黙なる配信、心よりお待ち申し上げておりました。

つきましては、MCの無い神聖な空間において、ひとつ疑問がございます。

『VRライブにおける飛翔の感覚とは、いかなるものなのか?』

どうか、この者にお教えくださいませ……」


なちは一瞬目を瞬かせ、画面を凝視した。


「……うお!早っ!? ていうか、めっちゃ長文!!!」


かなでは画面をじっと見つめている。ほんのわずかに瞬きをしただけで、まったく動じた様子がない。


「しかも一万円!? え、これもう“献上”ってやつじゃん……!」

なちが慌てたようにコメント欄を見る。


「いやいや、普通にすごくない? かなで、こんな熱烈なファンがいるって知ってた?」


かなでは視線をゆっくりとスパチャの文章へ戻し、じっと読んでいる。


「……」


「うん、そっか」

なちが肩をすくめて笑う。


「応援してくれて、ありがとうだね」


かなでは再び画面を見つめた後、わずかに視線を上げた。何か考えているような表情だ。


「で、どうなのかなで?」

なちが問いかける。


コメント欄が一瞬止まる。


『!!!?』

『何がおきた!?』

『我々に見えない会話があったのか?』


かなではじっと考え込む。視線が僅かに泳ぎ、指先が軽く動く。


「……」


「おっ、悩むね〜」


かなでは、わずかに目を輝かせ、両手を少し動かした。


「……?」


なちが小首を傾げる。


「あ〜、なるほど!」


かなではふわっと、宙を見つめている。その表情はどこか、楽しそうだ。


コメント欄が一瞬にして爆発する。


『え、かなでさんが楽しそう!?』

『今めっちゃいい顔してる!』

『感情が見えた瞬間!』


「不思議な感じで楽しかったんだ」


かなではこくりと、小さく頷く。


「そっかそっか。なんか分かる気がするなあ。あの時、地面がふわっとなくなった感じしたもんね」


『待ってwなちゅれww待ってwww』

『さては副音声がどこかにあるな?』

『なちの超翻訳……どんなだよw』

 

コメント欄に新たなスパチャが流れた。


『無音の福音 さんから ¥5,000』

「沈黙の翼を持つものよ。その浮遊の感覚とは、現実のそれを超越せしものか?」


「うんうん、たしかにねー。かなで、リアルとVRの飛ぶ感覚って、どっちが“本物”っぽいと思う?」


かなでは少し考える仕草の後に、またコメントに目をやった。


「ふむ、分かんないか」


かなではゆっくりと頷く。


「そうだよね、あんな風に飛んだこと無いもんね」


かなでは、こくこくと頷いている。


コメント欄が再び湧く。


『そりゃwそうだwww』

『福音さん乙でーすw』


なちは笑いながら画面を見つめる。


「かなではさ、あの飛ぶ瞬間、気持ちよかった?」


かなではしばらく黙ったままだったが、ふっと小さく微笑んで、こくんと頷いた。


コメント欄が再び大盛り上がりになる。


『尊い……!』

『飛ぶのが楽しいかなでさん、可愛すぎる』

『お前ら超翻訳に順応早すぎw』


なちは画面を見ながら微笑んだ。


「そんなに楽しかった、よかったね〜。次のライブも楽しみだね!」


かなでは再び頷いた。


「でさ、かなで、飛ぶのもあったけど、瞬間移動の時ってどんな感じだった? あれも気に入った?」


かなでは少し考えた後、わずかに視線を横へ流す。


「……?」


「ちょっと分かんないか。あーっとね。うーん……』


「私は、実はあんまり驚かなかったんだよね。ゲームでマップ切り替わる時と一緒であんまり違和感無かった」


『あー、なるほど』

『VRゲーと思えばいいのか』

『これは納得』


「かなでは?」


「分かる。その通り、なち凄い」


「お、ありがと」


『!!!!!』

『今年一番の長文では?!?』


「お、コメント欄の盛り上がり凄いね〜。どれどれ他には……』

 

なちは画面を眺めながら、次々と流れるコメントを拾う。


『VRライブって、観客ってどう見えてるの?』

『かなでさんが何を見てるか気になる!』


「どんな感じに見えてるかか〜。かなで、ライブの時どんな人がいたの覚えてる?」


かなでは少し考え、静かに「……Tシャツ」とぽつりと答える。


『推しTか?推しTのことか!?』

『かなでさんに見られてたかもしれない…!?』

『課金待ったなし!!!』


なちは笑いながら頷く。


「だよね〜。推しTって、ステージからでもすごい分かるんだよね!」


『認識されてる!?幸せ…!』

『推しT着てたら、ちゃんと見えてるってこと?』


「うん、すごく目立つ!しかも、会場全体で見ると、推しカラーが広がってるのが分かるんだよね〜」


かなでがゆっくり頷く。


『そんなにハッキリ分かるもんなんだ……』

『会場の色が変わるって面白いな』


なちはさらに続ける。


「グッズ身につけてる人って、動きも大きいし、凄く目立つよー」


『わかる!全力でアピールする!』

『ちょっとでも気づいてもらいたいからねw』


「うんうん!すっごい元気よね〜。こういうの見ると、私たちももっと頑張ろうって思えるんだよね!」


かなでは、わずかに目を細める。


『推しT、やっぱ威力あるんだな』

『複数推しの場合はどうすれば……』

『お前DDだもんなw』


なちは画面を見ながら、思い出したように話を続ける。


「Tシャツもだけど、ペンライトとかもすごかったよね!ライブ中、めっちゃ振ってくれてたし!」


『やっぱペンラ見えてる!?』

『全力で振ったけど気づいてもらえたかな…?』


なちはかなでの方を向く。


「どう?ペンライトとか、結構見えてた?」


かなでは静かに、わずかに視線を上げ、コクリと頷く。


コメント欄がさらに盛り上がる。


『かなでさんに気付いてもらえてた!!』

『よーし!お前ら!全力で振ろう!』

『壁にぶつけて穴を開けたのは大家には内緒です』


なちは画面を眺めながら、楽しそうに続ける。


「でもさ、人によって振り方が違うから、それも個性だよね」


『はえ〜、振り方まで違って見えるんか』

『推しカラーで揃える人もいれば、自由に振る人もいる!』

『複数持ちできないシステムが憎い…』


かなでは静かに頷く。


なちはさらに続ける。


「でもさ、VRライブって面白いよね。リアルのライブだと、観客の表情とかは直接見えるけど、VRだとアバターだからちょっと違うんだよね」


『あー、それ気になってた!』

『やっぱアバターだと、表情って伝わらない?』


「表情は選択エフェクトだからね〜。でも、ペンライトの振り方とか動きで気持ちが伝わってくるの!」


かなではじっと画面を見つめたまま、小さく頷く。


『確かに!リアルだと笑顔とかで伝わるけど、VRは動きが大事なんだな』

『ペンラの振り方=感情表現ってことか!』


なちは嬉しそうにコメントを読み上げる。


「そう!だから、推しT着てペンライト振ってくれると、もう『あ、この人絶対なち推しだな!』って分かる!」


『やっぱり認識されてるんだ…!』

『推しT+ペンラは必須装備……と、メモメモ』


「あと、アバターも個性出るよね!」


『アバターって、ステージからどう見えてるの?』

『どのくらいの距離感なの?』


なちは少し考えながら答える。


「うーん、まずね、アバターの配置は結構リアルなライブと似てるの。前の方の人はやっぱり近いし、後ろの方の人はちょっと遠くに見えるんだけど……」


『おお、やっぱそうなんだ!』

『最前列、やっぱりめっちゃ近いのか』


「でも、VRライブならではの面白いところがあってさ、リアルのライブだったら前の人の後ろになっちゃうと見えないじゃん?」


『そうそう、それが辛い…』


「でも、VRなら、ちゃんとみんなが見えるようになってるの!」


『!?』

『どういうこと!?』


「アバターの配置が、ちゃんとみんなが視界に入るようになってるんだよね。だから、後ろの人でもちゃんとこっちが見えてるし、私たちからも見えてる!」


『あれ、すげえよな!』

『VRならではのシステム…!』

『後ろでもちゃんと見えるのありがたい』


なちはコメントを読みながら、にこっと微笑む。


「ライブの時、みんなが見えてるし、ちゃんと届いてるんだよ〜」


かなではゆっくりと頷く。


締めへ


「こうやって話してると、やっぱりライブって双方向だよね〜」


『双方向!?』

『どういうこと?』


「みんなはステージの私たちを見てるけど、私たちもちゃんとみんなのこと見てるんだよ!」


コメント欄が一気に加速する。


『うおおお、見られてたのか…!?』

『やばい、次のライブはちゃんとした格好しなきゃw』

『推しに見られてるって思うと緊張する…!』


なちは微笑みながら手を振る。


「じゃあ、そろそろ今日はこのへんで終わろっか!次のライブも楽しみにしててね〜!」


かなでが最後にぽつりと呟く。


「……またね」


コメント欄が爆発する。


『!!!!!!!!』

『貴重な「またね」いただきました…!』

『これは記録に残さねば』


なちは笑顔で手を振る。


「それじゃあ、また次の配信でね!バイバーイ!」


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【むすチャン!】NetMusume Channel

 インターネット娘公式チャンネル

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画面のカウントダウンがゼロになると同時に、コメント欄が一気に流れ始める。


『ちいちい!』『みあたそ!』『この組み合わせ、レアじゃない!?』


「は〜い、みんな〜!こんばんは!今日はちいか&みあで配信していくよー!」

ちいかが元気よく手を振ると、コメント欄が勢いよく更新される。


『おお!待ってた!』『元気コンビか!?』『あれ、でもみあさんって元気枠……?』


隣でみあは静かに画面を見つめている。


「ちがうかな?」


『即答www』

『ですよねー!』


ちいかが笑いながら、コメントをスクロールする。


「今日はね、Plug on!のライブの話をしようと思ってるんだけど……いやぁ〜、改めてすごかったよね!」


みあは少し間を置いて、静かに頷く。


「……まあ」


「ちょ、もっとないの!?『最高だった!』とかさぁ!」


「……普通に、良かった」


『出ました!みあさんの最高評価「普通に良かった」!』

『それはもう神ライブってことですね』

『分かりやすい』


ちいかは笑いながら、机の上に軽く肘をつく。


「いやー、でもほんとに、すっごく楽しかったよね! みんなの熱気がもうバシバシ伝わってきてさ!」


「……熱かったね」


『確かに、リアルに体感温度上がるレベルだった』

 『ペンライト振りすぎて腕が死んだ』


「でね!ライブの音、やばくなかった!?」


「……凄く響いてた、音響いいよね」


「そうそう!ズドーンってきたよね!? あの重低音、やばかった!」


「特に低音が良かった」


『みあさんw語彙ww』

『でも分かる』

『音の迫力すごかった』


「でも、みんなはどうだった?イヤホンで聴いた?スピーカー?」


『イヤホンだった!』

『スピーカーで聴いてた!』

『公式キットやべえよwライブ会場並みに響いた』


「環境で全然変わるから、それも面白いよね」


「そう!スピーカーとイヤホンで聞こえ方違うよね! でも、どっちでもちゃんとライブの臨場感があったのがすごいなーって思った!」


『ほんとそれ』

『3D音響ってやつ?』

『位置感あったの不思議』


「そうそう3D音響ね、みんな何で見てた?ゴーグル+イヤホン?それとも インターネット娘公式VRキット !?」


『公式キット買った!』

『ゴーグル+イヤホンでも十分だったよ』

『やっぱ公式の方が違う?』


みあは静かに頷く。


「公式の凄いよ、臨場感が違う」


「違うよねー!公式VRキットの方、音の広がりが全然違ったでしょ!?」


『うんうん!』

『違いが気になる』


「再現度の高さは段違いだと思うな」


「実はさ、私たちも公式VRキット使ってるんだけど、マジでライブ会場そのままなんだよ!」


『えっ、メンバーもそれ使ってるの!?』

『推しと同じ機材はアツい』


「例えばさ、普通のイヤホンだと“左右”の音は分かるけど、公式VRキットだと “上下”“前後”まで感じるんだよね!」


『そんな違うの!?』

『マジで立体的だった!』

『あれは買うべき』


「……現実と、同じ」


「そうなの!だから、ステージの広がりもちゃんとあるし、奥行きも感じる!」


『やっぱ公式キットすごいな』

『次のライブまでに買おうかな…』


「でね!公式VRキットの1番すごいところ!」


「……振動かな?」


「そう!公式キットだと、低音が振動で伝わってくるの!!」


『そんな機能あったんかw知らんかったわw』

『重低音が体に響く感じか!』


「ライブの圧というか、会場が生きてる感じかするよね」


「あれいいよね。本当にライブハウスとかアリーナの“空気”を感じるんだよね!」


『ガチでライブ行った気分になる、間違いない』

『VRでここまでできるのか…』


『システムメッセージ:スパチャが届きました』


『ちぃてぇ弐号機 さんから ¥10,000』

「ちいかさんのダンス、めっちゃキレキレで最高でした!!VRライブって、どうやって踊ってるんですか?」


ちいかが画面を覗き込み、ぱっと目を輝かせる。


「うおおお!? ありがとうーーーっ!!てか、踊り方!? それ聞いちゃう!? どうする、みあ!」


みあは静かに画面を見つめたまま、一言。


「これ言っていいのかな?」


「お、おお……そっか、確認しなきゃだよね」


「……少しならOK?なるほど……」


コメント欄がざわつく。


『運営さん見てるの!?』

『そりゃ見てるか……』

『いつもあざーす』


ちいかはにんまりと笑い、「おっけー、じゃあせっかくだし、ちょっとだけ教えちゃおっかな!」とカメラに向かってウインクした。


えっとね、ライブの時、私たち 実際に歌って、踊ってるんだよ!」


勢いよく語るちいかの声に、コメント欄が一気に湧き上がる。


『やっぱり!?』

『マジで!?』

『ほんとに動いてるのか!』


みあは視線を画面に向け、淡々と続ける。


「もちろん。事前に録画してるわけじゃないし、全部リアルタイムの動きだよ」


「でしょ!? だって、あんなに動いてるのに全部CGだったら、逆にすごくない!? いや、そっちの技術があったらそれはそれですごいけど!」


ちいかが大げさに手を振りながら話すと、視聴者の驚きがそのままコメント欄に溢れていく。


『確かにw』

『言われてみれば、そうだ』

『生パフォーマンス確定』


みあは静かに頷き、淡々とした口調で付け加える。


「動いた分だけ、そのまま反映される。だから、その時の感情とか熱量も全部ライブに出るんだよね」


「そうそう! 私たちが踊ると、ステージの私たちもそのまま動くし、声もちゃんとライブのものが届いてるんだよ!」


ちいかは興奮気味に身振りを交えながら説明する。彼女の手の動きに合わせるように、コメント欄の流れもさらに加速する。


『ガチで生ライブやってるのヤバい』

『推しの熱量がそのまま届いてるの、尊い』


「たとえば、私たちの息遣いとかもそのまま聞こえるでしょ? あれ、ちゃんとその場で歌ってる証拠だから!」


「そう。だから、ライブごとに違う。その時のコンディションや気持ちが、そのまま反映されるんだよね」


『毎回のライブが唯一無二ってことか』

『だからリアルなライブ感になるんだな』


「いやー、リアルにパフォーマンスするからめっちゃ汗かくし疲れるんだよねー!」


ちいかが笑いながら、肩を回してみせる。


みあは画面を見ながら、静かに息を吐く。


「うん。実際、終わったあと、しばらく動けなかった」


彼女の声は淡々としていたが、その一言にはライブで全力を出し尽くした余韻が滲んでいた。


「みあ、もう完全にバッテリー切れたみたいになってたよね!? ぐったりしてるのが分かったもん!」


「それは……仕方ないでしょ。ずっと全力で動いてたんだから」


みあは少しだけ肩をすくめる。


『ガチでやってる証拠じゃん!』

『ライブ後のみあさん、どんなんだったのw』


ちいかは笑いながら、手を軽く広げた。


「そうだよねー! ライブ中って夢中になっちゃうから、体力とかあんまり気にしてないんだけど、終わると一気にくるんだよね!」


「それも、みんなが歓声とかリアクションで盛り上げてくれるからだよ!めっちゃすごかった!」


ちいかが前のめりにリスナーに語りかける。


『歓声システム、ちゃんと届いてた!?』

『マジでボタン連打してたw』

『どんな風に聞こえてたの?』


みあが静かに頷き、落ち着いた声で答える。


「うん、ちゃんと届いてたよ。歓声のボリュームも、観客の熱量によって変化してたし、曲ごとに違う雰囲気が感じられた」


ちいかが興奮を抑えられない様子で続ける。


「ね!最初はちょっと抑えめだったのに、後半の盛り上がり方がすごくて、私もめっちゃテンション上がっちゃった!」


『歓声ってリアルタイムで反映されてるの?』

『押したボタンの音、そのまま流れるの!?』


みあはコメントを読んで、うんうんと頷き説明を続けた。


「歓声はリアルタイムだけど、直接の声がそのまま流れるわけじゃない。リアクションボタンのデータが集まって、音として変換されてる」


『どういうこと?』

『連打しても意味ない感じ?』


その通り、と指を上げ語るその表情は満足そうだ。

リスナーとの双方向の会話を楽しんでいるのが良くわかる。


「そうだね。個別の声がそのまま届くわけじゃなくて、全体の反応をまとめて、音に変換してる感じ。だから、コールが揃うと、まとまりのある歓声になるし、バラバラに押すと、それぞれのリアクションが細かく聞こえる」


『めっちゃ考えられてるな』

『呼ぶタイミングも大事ってことか』


リスナーのコメントも、納得と今後の期待に溢れ、流れが止まらない。

 

「そうそう!だから、コールとか一斉に入ると、ちゃんと『うおおお!!』って響くの! 逆に、静かな曲の時は、歓声も落ち着いた感じになって、ちゃんと雰囲気に合わせて変わるんだよね!」


『たしかに、バラードの時は静かだったな』

『歓声システム、思った以上にすげーな』


「リアルライブとは違うけど、ちゃんと熱を感じるよね。歓声が増えてくると、こっちの気持ちもどんどん高まっていくし、曲の雰囲気に合わせて自然と変化するのも面白かった」


ちいかが、少し上を向き記憶に思いを馳せるように呟いた、


『演者側も盛り上がってたの伝わってたよ!』

『やっぱりテンション上がるんだな』


みあは微笑みを湛えながら、コメントを追っていく。


「うん、すごく影響される。歓声が大きくなると、気持ちも自然と高まるし、ラストに向けての熱量もすごかった」


「ほんとそれ! ファンのみんなが盛り上がると、こっちももっと頑張りたくなるし、自然と気持ちも上がるんだよね! 逆に、バラードとかしっとりした曲の時は、歓声も落ち着いてる感じがして、それもまた良かった!」


ちいかが興奮気味に被せていく、小気味の良い会話のテンポに彼女たちもリスナーも酔っているように見える。

 

『歓声も演出の一部って感じする』

『ライブの一体感すごかった』


「VRのいいところは、どの席にいても歓声が均等に届くこと! リアルのライブだと、最前の声が大きくて、後ろの方はちょっと聞こえにくいこともあるけど、VRだと一体感がすごい!」


『どの席でも同じように聞こえてたのか!』

『後ろの方でもちゃんと歓声届いてた?』


みあは冷静に説明を続ける。

熱を帯びたやりとりの中で、涼やかな心地よい空気として会話が流れていく。

 

「うん、届いてたよ。全員のリアクションが均等に処理されるから、どこにいてもコールの一部になれる。だから、推しの名前を呼ぶときも、バラバラより揃った方が、より強く伝わる仕組みになってる」


『じゃあ、次のライブはもっと揃えてコールしたほうがいい?』

『推しコールをもっと練習しなきゃ!』


「そうだね!次のライブでは、もっとコールを揃えて、みんなの声を大きく届けてね!」


『了解!!』

『承知しました!ちぃ様の御命とあれば!』


「歓声がリアルタイムで届くのって、実際パフォーマンスに影響あった?」


みあは少し考えた後、落ち着いた声で答える。


「うーん、やっぱあるよね。歓声が大きくなると、やっぱり気持ちが上がる。ライブの後半は特にそれを感じた。最初はまだ抑え気味だったけど、曲が進むごとに歓声が増えていくのが、パフォーマンスにも反映されてる気がする」


ちいかが、指を顎に当てながら小首を傾げる。


『後半、めっちゃ盛り上がってたもんな』

『歓声で演者側も変わるの、すごい』

『全力過ぎて終わった後、疲労半端じゃなかったw』


「わかるー!後半、もうアドレナリン出まくってたもん! 私、最後の曲の時とか、気持ち的にはまだまだいけるって思ってたけど、終わった瞬間、一気にドッと疲れた!」


肩を回す仕草をしながら微笑む。


「あと、歓声の抑揚も面白いよね。最初は落ち着いてるのに、段々と大きくなっていくのが、ちゃんと伝わってくるし、アンコールの時の音の変化もすごかった」


みあが普段より明るい表情で語る。

そのことが、システムの素晴らしさを雄弁に物語っている。


『アンコールの歓声、やっぱ違った?』

『すごかったって言われると嬉しい!』


「うんうん!特にラスト曲の時、すごかったよね!? あの最後の盛り上がり方、めっちゃ鳥肌立った!」


『やっぱりラストの歓声、伝わってたんだな』


ちいかは勢いよく頷き、画面のコメント欄を眺める。


「いやぁ〜、ライブの話すると、またやりたくなっちゃうね〜!」


みあは少し考え、カメラに向かって穏やかに微笑む。


「次のライブも、きっと楽しくなるよ」


『!?』『みあさんが“次のライブ”って言った!?』


ちいかは勢いよくカメラに詰め寄る。


「おーっと、これは確定!? 次のライブ、決まり!? 運営さーん!!」


みあは口角をわずかに上げ、落ち着いた声で答える。


「まだ秘密。でも……期待していいんじゃない?」


『やばい、楽しみすぎる!』


ちいかは画面を見て満足そうに頷く。


「よーし! じゃあ、次も全力で盛り上がっていこう!」


みあは画面を見つめ、ゆっくりと一言。


「またね」


「じゃあ、次はライブで会おうね!」

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