おわら踊りの笠着てござれ 忍ぶ夜道は月明かり
富山県の
石畳の街道に沿うようにして、格子戸の町屋や白壁の蔵が軒を連ね、江戸の風情を忍ばせる集落だ。
そんな八尾のおわらの夜は、家灯りも雨戸で閉ざされ、濃い闇に覆われる。
ゆるい登り坂の軒下に、
坂の下から見上げれば、天まで続く
この路地の左右に見物客の列が作られ、おわらを踊る男女の列が中央を流し去る。
カメラのフラッシュも拍手も禁じられ、厳粛な闇の中に、哀愁漂う三味と胡弓が鳴り渡る。女衆の優美な所作と、男衆の勇壮な所作。
それぞれ三位一体で、観客の胸を木枯らしのように吹き抜ける。
一方、混合踊りは公民館前の大広場で披露され、町を流すことはない。
五組の男女は、予め決められた時間になったら公民館の休憩室を出て、十分間弱の混合踊りを踊るのだ。
「それじゃあ、皆。そろそろ広場に出てくれや」
年配の
ステンレスの折り畳み椅子に腰かけて、冷たい麦茶を飲んでいた千華達は、袖と
そして、顔をすっぽり覆い隠す三日月型の編み笠を被り、紅紐を顎の下できつく縛る。
渉を含む男衆は、
「じゃあ、皆。気合入れて頑張ろう。次が今年最後の混合踊りの舞台だから」
千華は最年長者の踊り手として一番最初に席を立ち、後輩達を鼓舞して微笑む。
千華に続いて立ち上がる渉の顔つきも勇ましく引き締まり、休憩時間の和んだ空気が一変した。
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