第3話 煌めく印

 大丈夫なのか?今まで勉強なんてしてきたことがねぇ。


 それに加えて魔力測定まりょくそくてい?魔力ってなんだよ。


 エルナ婆さんのおまじないみたいなもんか?やべぇよ何もわかんねぇ!


「ふん。試験が終わった後にお前の顔がどのようにゆがんでいるか楽しみにしていよう」



 ――――筆記試験後。



 …………あぁ。まーったくダメだった。


 空が青いはずなのに、色が抜けて灰色に見える。


「クッ……、ハッハッハッハッハッ!どうやら芋頭に教養などというものは難しすぎたようだな!」


「グヌヌ…………」


 事実は事実だが、それをこのボンボンに突きつけられたことにムカっ腹がたつ。それに、この後さらに未知の世界の力、『魔力』。かなりまずい……。

 



「では、こちらの部屋に1人ずつ入って来なさい」


 受験生が1人ずつ部屋に入っていき、ついに最後、俺の番が回ってきた。部屋に入ると、部屋の真ん中にある杖へ手をかざすよう言われた。


 杖に向かって手をかざしても、魔力なんか流れるわけ――

 


 ――――魂を燃やせ



「っ……!」


 不意に白い部屋の風景が脳裏によぎる。


「おや?」


 試験官たちが顔を合わせる。試験官の1人が、


「レオン君、もう一度やってもらっていいかい?」


「は、はい」


 魂を燃やす?さっきの感覚をもう一回………………あれ。


 体の内側から、手の先へ流れるように……流れるようにぃ……ながれるようにににににぃーーーーー!


「すんません、できないみたいです。さっきのやつ」


「ふむ、どうにもさっきのは測定器の故障かもしれんな、レオン君。それより、君は過去に魔力素養まりょくそようを育成するような訓練をしたことがあるかね」


「は?えーっと、今までに魔力ってのを操ることは一度も無かったと思います」


「そうか。特に君を詮索せんさくするわけではないんだがね。君は周りの受験生とは違うようだったから、少し聞いてみただけだ。魔力試験に関しては以上だ。次の実技試験に備えて準備したまえ」


 ……あの瞬間、体の内側から溢れる力を感じた。その前の白い部屋。なんか、シントラっぽくないっていうか……。


 

 ――――――

「それでは、最後に模擬戦もぎせんを行う。相手を過度に痛めつける行為、急所への攻撃は禁止とする。また、事前に登録し許可された武器は使用して構わない。刻印の使用も許可する。できるとは思っていないが、刻印の出力は第二出力級までとする。仮に第三出力級以上の発動を認めた場合、即刻模擬戦もぎせんを終了し、使用者の失格とする。そのほか模擬戦もぎせんの中で疑義ぎぎが生じた場合、それぞれ判断し注意・警告を経て制限を設ける。とは言うものの、多様な戦技を見せてもらって構わない。怪我については安心してくれ。刻印を仕込んだ防具を用意している。好きなものを選ぶといい。一定量のダメージを吸収・蓄積ちくせきする仕組みになっていて、刻印の許容量きょようりょうを超えた時点で場外に移動させられる。その時点で、その試合は終了とする。また、威力が低くとも急所に当たれば有効打として多くの量が刻印に蓄積される。力自慢だけが有利というわけではない。しかしながら先程述べたように、場外へ吹っ飛ばされた場合でも試合終了だ。各々の強みを存分に発揮してくれ。以上!」



「では最初の2人、武舞台ぶぶたいにあがれ」


 受験生のうちの二人が武舞台ぶぶたいにあがる。一人は剣を中段に、一人は槍を下段に構える。


「始め!」


 長剣持ちが強く地面を蹴り距離を詰める。

 槍持ちは下がりながら長剣の切先を横薙よこなぎにして勢いを止める。

 ひるむ隙に槍持ちは間合いを作り、腰を落とし攻撃に移る。

 素早い足捌きに鋭い突きだ。これで――


 その瞬間、長剣持ちが地面に剣を突き刺す。

 長剣の柄が光ると、長剣が大きくなり、盾のように槍を受けた。

 トドメの一撃を繰り出すはずの槍持ちは大きく後ろに体勢を崩す。

 長剣持ちはそのまま大きくなった剣を振りかぶるとそのまま槍持ちの顔面に会心の一打を叩き込んだ。

 槍持ちの頭の防具の刻印がチカッと光ると、そのまま場外へ引っ張られるように移動する。


「そこまで!」


 槍持ちのさばきは悪いわけじゃなかった。だけどそれに対してのあの長剣の技だ。


「なあ、パウル、あの長剣ってなんであんなでかくなってんだ?」


「ふん。田舎者にもわかるように教えてやろう。さっき君が受けた筆記試験にもあったと思うが、あれがシントラの誇る戦闘技工せんとうぎこう、『刻印』だ。この刻印は様々な形で力を発揮する。魔力を流すと刻まれた物体に対して変化を生み、あの長剣のように大きくなったり、攻撃を吸収したり。戦闘における可能性を大きく広げる技術なのだ」


「だとすりゃよ、武器を小さくしたまんまでたくさん持って、さっきみたいに色々でかくすりゃ強いじゃんか。なんでそうしないんだ?」


「それにはだな、刻印を使うのに魔力をかなり消費すること、刻印ごとに適性があり、持ち主を選ぶということが関係する。だから大概は個人の技量と特性に合わせた刻印を装備に付けたり身につけたりするのだ」


「ほー。パウルも使えんのか?刻印。」


「もちろんだ。僕の刻印も特別製だ」


「すげぇんだな、俺なんか魔力ってのを今まで知らなかったから、使い方すらわかんねーよ」


「ハッハッハッ!これ以上笑わせないでくれ。魔力を知らないだと?世間知らずどころか……まぁいい。君には手加減してあげよう。感謝したまえ」


「手加減?」


「おや、対戦表を見なかったのか?君の相手は僕だ」

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