親友に彼氏ができた⑤
歩美はそう言うと、上目遣いで水野くんを見上げる。
だけど水野くんはハムスターに目を遣ったまま、ため息交じりに答えた。
「…後でな」
その言葉に、少しだけ口を膨らませる歩美。
しかも水野くんはその後ハムスターをそこから取り出して、その小さな小動物にだけ優しい笑みを向けた。
…ああいう笑顔作れるなら、最初から人間にも作ればいいのに。
なんでこの人はそんな簡単なことが出来ないんだろうか。
でも歩美はそんな水野くんの横顔をうっとりした表情で見つめているし、特に気にしていないみたいだから良しとする。
そんな水野くんを横目にあたしはため息を吐くと、なんとなく生物室をキョロキョロと見渡した。
…ここには初めて入ったけど、やっぱり「生物部」なだけあっていろんな生き物がいる。
そう思って、窓際の少し大きめの亀に目を遣ると…
あたしはその時、あるものを見つけた。
「…?」
……双眼鏡だ。
生物部って、双眼鏡とか使うことあるの?
…顕微鏡とかなら使うイメージはあるけど。
そう思いながら、その双眼鏡を手に取ろうとした…
……その時。
「何してんの?」
「!?」
ふいにすぐ後ろから、水野くんの声がした。
その声にあたしは慌てて手を引っ込めると、水野くんの方を振り向く。
すると水野くんはいつのまにかあたしの真後ろにいたようで、あまりの近さにあたしは思わずびっくりして目を見開いた。
「…!」
わ、近いっ…!
そのことに独りドキドキしてしまっていたら、水野くんが無愛想のまま言う。
「勝手に触らないで。…これ、大事な物だから」
そう言って、その双眼鏡を手に取った。
……まだ触ってないけど。
そう思いながらも、あたしはとりあえず「ごめん」と呟く。
すると水野くんは双眼鏡を手に持ったまま、ハムスターを手に乗せている歩美に近づきながら言った。
「そいつ、そろそろ戻して」
「あ、そだね」
水野くんのその言葉に、歩美がハムスターをケージに戻す。
あたしはというと、そんな水野くんの背中を眺めながら独り小さくため息を吐いた。
「はぁ…」
…なんていうか、ほんとに近寄りがたい人。水野くんって。
地味なイメージはもともと少しはあったものの、ここまでヒドイとは思わなかった。
それに、水野くんって確か女子の間ではカッコイイって密かに人気があったりするのに、
あたしにはそんな女子達の気持ちが全然わからない。(ただ、この性格なだけに好き嫌いがはっきり分かれるけど)
あたしはそんなことを考えると、やがて歩美に言った。
「じゃあ歩美、あたしそろそろ帰るね」
「え、もう?」
「うん。だって二人の邪魔しちゃ悪いし。ばいばい、」
あたしがそう言って悪戯に笑ったら、歩美が照れたような笑顔で「ばいばい」と手を振り返す。
そして一応、あたしは水野くんにも手を振って言った。
「水野くんも、ばいばい」
「…ん」
だけどやっぱり水野くんは素っ気ないままで、頷くだけで何も言わない。
あたしはそんな二人に背を向けると、先に生物室を後にした。
……そんなあたしの背中を、水野くんがじっと見つめていたことに気付かずに。
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