第6話 進展

 新宿の夜。


 かつての繁華街は今や廃墟と化し、探索者や違法採掘者が行き交う無法地帯となっていた。


 指定された待ち合わせ場所——南口の廃墟前。


 ひび割れたコンクリートの上に立つ四宮の姿が、街灯の薄暗い光に照らされている。


「……悪い、待たせたか?」


 斎藤が声をかけると、四宮はゆっくりと振り返った。


「いいえ、ちょうど今来たところよ」


 だが、その表情は硬い。


 探索者用ジャケットの上に黒いフードを被り、何度も周囲を警戒するように見回している。


「……なあ、本当に大丈夫なんだろうな?」


「……私にも分からない。でも、知り合いが『直接話したい』って言ってきたの。それだけの情報を持っているってことよ」


「……ったく、厄介ごとにならなきゃいいけどな」


 斎藤がぼやいた、その時——


「……来るぞ」


 神崎の低い声が響いた。


 その瞬間、空気が変わる。


 気温が下がったような錯覚。


 遠くで響いていた雑音が、かすかに遠のいた気がする。


 路地の奥——闇の中から、一人の男が歩いてきた。


 黒いフードを目深にかぶり、ゆっくりと、しかし迷いのない足取りでこちらへ向かってくる。


 ……異様だった。


 "いるだけで空間が歪む" ような、異質な気配。


(なんだこいつ……)


 斎藤は無意識に息を詰めた。


 その違和感に、四宮も気づいたのか、小さく震えながら呟く。


「……違う」


「え?」


「この人じゃない……知り合いじゃない……」


 その言葉を聞いた次の瞬間——


 男が"消えた"。


「——ッ!?」


 斎藤の背筋が凍りつく。


 まるで"時間が飛んだ"ような感覚。


 次の瞬間、刃が目の前にあった。


「斎藤——!!」


 四宮の叫び。


 反射的に身を引く。


 刃先が頬をかすめ、冷たい感触が走る。


(速っ……!?)


 視界の隅に、黒い影が跳ねるように飛び退くのが見えた。


 ——今の一撃、完全に"殺しに来てた"。


「っ……マジかよ」


 冷や汗が流れる。


 相手は、一言も発しない。


 ただ、暗闇の中から"確実に殺す"ための動きをしてくる。


 そして——


 ——シュッ!!


 もう一度、影が跳ぶ。


 刃が、一直線に斎藤の喉元を狙う。


(来る!!)


 咄嗟に後方へ跳ぶ。


 ギリギリで刃を避ける。


 だが、相手は既に次の動きへ移っていた。


 タタン——


 敵が壁を蹴る。


 信じられない角度から、"三撃目"が襲い掛かる。


 避けるしかない。


 だが、意識が一瞬でも遅れれば——


「くっ……!!」


 体をひねる。


 刃が首筋をかすめる。


(クソ……! こいつ、速すぎる!!)


 一撃目、二撃目、三撃目——


 "全てが確実に殺す"ための動き。


 "経験の浅い探索者"なら、もう死んでいた。


「……神崎!!」


 四宮が悲鳴のような声を上げる。


 しかし——


 「待て」


 神崎は、一歩も動かないまま言った。


「っ……どうして」


 四宮が戸惑う。


「敵は一人じゃない」


「……え?」


 ——その時。


 斎藤は、背後に"もう一つの殺気"を感じた。


 反射的に横へ跳ぶ。


 シャッ!!!


 もう一人の刺客が、斎藤の背中を裂こうと刃を振るった。


「ぐッ……!!」


 何とか致命傷は避けるも、鋭い痛みが背中に走った。


(……なんだこいつら、動きが異常すぎる!!)


「なるほど。……"他の者は様子見か"」


 神崎が、ほんのわずかに指を動かす。


 ズゥン!!!!


 二人の刺客の動きが止まった。


 否——"地面に押しつけられた"。


「ぐ……ぁっ……!!」


「ッ……!!」


 二人の体が、まるで見えない巨人に押さえつけられたかのように、地面に伏す。


 神崎は静かに言った。


「……さて、残りの者はどうする」


 その瞬間——


 ザザッ……


 闇の奥で"何か"が動く。


 それは、最初から "こちらを見ていた" かのように——


 次々と現れる影。


 屋根の上、路地の奥、物陰。


 斎藤たちを取り囲むように——"気配"が膨れ上がる。


 その数、十を優に超えていた。


「……数が、多すぎる」


 四宮が唇を噛む。


 気づけば完全に包囲されていた。

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