12
悪い噂流されるは妬まれるは、マジで最近のあたし呪われてんじゃないの?
だからって、あたしは辞めないけど。
だったらこんなこと一々気にしてたらダメだ。
かといって、気になるんだからどうしようもない。
そんな鋼のメンタル持ち合わせてないっつーの。
「お、女子コーセー発見。」
ほらやっぱり。絶対あたし、呪われてる。
でなきゃこんなタチ悪そうなのに、声をかけられるはずがない。
「一人?お兄さんと遊ぶ?」
お兄さん?おっさんの間違いだろうが。
「シカトすんなってー。」
だって関わったらヤバそうじゃん。
だからシカトしてんだよ。
「調子乗ってんなよ?」
もう本当、なんでこうやってロクでもないやつばっかあたしに声掛けてくんの。
なんでこんなロクでもないことばっかに見舞われなきゃなんないの──
「おい、聞いてんのかって、」
「志乃!!」
タバコ臭い、汚い手に肩を掴まれかけた時だった。
ビックリするくらいの怒鳴り声に名前を呼ばれたのは。
「何やってんの、お前。」
「えーと……ナンパ?」
「だってよお兄さん。そりゃヤバいってこいつ高校生だよ?意味わかってやってる?」
制服着てるんだから、そんなの一目瞭然。
わかってて自分から声かけるとか、本当ロクでもない。
あたしの視線に気付いたのか男は何も言わずに去って行った。
流石に面倒ごとは避けたいらしい。
まぁ、当たり前か。
「本当お前、すぐナンパされやがる。」
ビッチかよ、と今それは禁句なんだよってセリフを吐いたゴウ先輩は、ナンパ野郎が視界から消えてなくなるまで見届けてから、その視線を逸らしてあたしに向き直る。
「で、お前はこんなとこで何してんの。」
改めてって感じのその問い。
それでも答えは求めてないといった感じで、早々にゴウ先輩はまたあたしから視線を外した。
外した視線はキョロキョロと何かを探すように、どこだと言わんばかりに誰かを探すように、辺りを見渡す。
その理由が、真野先輩たちを探してるんだってのがわかるあたしは、それが意味ないことだと伝えるべく口を開いた。
「はぐれた。」
「はぐれた?」
「うん。」
「なんで。」
「さあ?」
予想通り、なんでとは聞いてくるくせに誰ととは聞いてこない。
探したからっていないんだから意味ないってつもりで答えてるのに、ゴウ先輩の中では当たり前にあたしは変わらず彼らと一緒にいるってのが前提で、
「電話しろよ。」
だからこそ、むしろ不自然なくらいさも当然に、そんな無理難題を押し付けてくる。
「やだ。」
「なんで。」
「迷惑だから。」
「いつまでも探させてるほうが迷惑だっつの。」
「探してない。」
「は?」
「ていうか、いないことにすら気付いてない。」
「はぁ?」
ゴウ先輩がまだメンバーだった頃、あたしを一番に気に掛けてくれてたのはゴウ先輩だった。
それは多分あたしが中学からの後輩で、ゴウ先輩の元カノだったからだと思う。
ゴウ先輩が中学を卒業してからあたしが同じ高校に入学するまでの間、あたしは先輩の彼女だった。
何がどうなって、何がダメで別れることになったのかは正直覚えてない。
だから別れた後もあたしは、ゴウ先輩のことが嫌いでも、会うのが嫌ってこともなかった。
むしろ別れた後、高校に入学してからのほうが合う回数が増えた。
ゴウ先輩が、今のバイト先をあたしに紹介したから。
まさか先輩が毎週通ってるなんて知らなくて、あたしに機材関係の知識を叩き込もうと思ってたなんて知るはずもなかったから。
おかげですっかりあたしはバンドのサポート係みたいになってて、いつもメンバーのみんなと一緒にいた。
だけどそれはもう昔の話で、ゴウ先輩がいない今、変わったこともある。
あたしを必要以上に気に掛ける理由なんてない。
「電話しろって。」
「そんなに言うならゴウ先輩から連絡してよ。あたしもう帰るだけだから。」
「自分でしろよ。」
「いいじゃん別に。」
気に掛けてほしいって思ってる訳じゃない。
ただ今はまだ、前とは違う状況に慣れてないだけ。
「よくねぇんだよ。」
「なんでよ。」
「なんでってお前なぁ。俺はもうメンバーじゃねぇだろ。」
「…そんなの今は関係ないじゃん。」
「関係あるんだよ。」
「……」
「お前から直接連絡ないのに、関係ない俺から知らされても気分悪いだろうが。」
「そんなことない。」
「……」
「誰も、そんな風に思わない。」
「ねぇそれ、本気で言ってんなら怒るよ。」
なんとなく、後ろから気配が近づいてるような気はしてた。
だから余計に捲くし立てるような言い方になったんだと思う。
「もしかしてお前、新しいベースの?」
「……ども。」
「なら志乃連れて帰ってくんねぇ?訳わかんないけど拗ねてっから。」
「……」
なんでいつもいつも、あたしの後ばっか付いてくんよ。
どうして寄りにもよって、いつもアンタが――…
「ちょっと!」
痛いってのにはもう慣れた。
抵抗しても無駄だってのは身をもって知ってる。
だから黙って着いて行った。
というより離されない腕に連れられて行くしかなかった。
「どこまで行く気よ。」
こちらを振り返ることなく無言のまま、迷うことなく突き進むその後ろ姿に痺れを切らしてそう問いかけたのは、その歩幅に着いていくのに限界を感じだから。
「戻る。」
望んでもないのに、むしろ望んでないことばっか仕出かしてくる来栖はそう言って足を止めるとこちらに振り返る。
「なんでよ。あたし帰りたいんだけど。」
「俺だって、帰りたい。」
「……」
「でも今帰ったらダメなんだよ。」
徐々に語尾を強めるに言い方と、真っ直ぐ射抜かれる視線に目を逸らした理由は、自分でも良くわからない。
「意味わかんない。」
「意味わかんねぇのはそっちだろ。」
「……」
「なんで急にいなくなってんの?」
「……」
「しかも変な野郎に捕まってるし。」
「……」
「気付いてないとか、そんな訳ねぇだろ。」
「……」
「心配してる、みんな。」
「……」
「まぁ、俺が一番心配してるけど。」
「……」
「本当、志乃センパイってバカなんじゃないの?」
だからあたしは嫌だった。
コイツと親しくなるのも、コイツに懐かれるのも。
嫌なことばっかり考えちゃうのも、嫌味なこと口走っちゃうのも。
天邪鬼みたいに思ってること素直に吐き出せないのも。
ムカつくって死ぬほど思うのに泣きそうになるのも全部、
「早く行くよ。」
―――全部、来栖の所為だ。
第三話、の前に/そろそろ本気ださないと、
「センパイ、制服のスカートもうちょい長くしない?」
「はぁ?なんでよ。」
「短かすぎなんだよ。」
「アンタみたいに堂々と覗こうってヤツはいないんだよ。」
「……マジでわかってねぇ。」
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