第3話:美しき異星人

 宇宙には、我々と同等の人類や多様な生きものが生息する地球と似たような惑星が存在する---このニュースは、我々、地球人が宇宙で唯一の存在でない「認識」が世間に瞬く間に広まった。それまでは、唯一無二の存在かもしれないと思っていたが、地球上だけでこれだけの生命体が多種多様にあり、広大な宇宙には、同じような元素から成る惑星があり、水や大気やタンパク質等々の条件さえ揃えば、考えてみれば、あっても不思議ではない、という考えが急速に人々の心の中に浸透していったのである。


 そんな最中であった。1隻のみすぼらしい宇宙船が地球に不時着した。一時は、さては、帰還した宇宙船が尾行されて、宇宙人による襲撃か?!と騒然となったが、そのみすぼらしい宇宙船は今にも墜落しそうでもあり、S.O.S.信号を発しながらの着陸でもあり、また相手惑星がどれだけの強大な兵器を有しているかもしれないし、他惑星からの親善大使かもしれない。また、科学界からは初めての宇宙人とのランデブーをいきなり攻撃&爆破ではあまりにもったいないなど、議論百出するなか、あれよあれよという間に、日本の新しくできた島である、西之島に不時着した。


 中からは這い出るようにして、一人の地球の女性のような姿をした宇宙人が出てきた。今にも瀕死の態で片手を上げながら跪きながら、救いを求めるような恰好をしている。遠巻きにしていた、日本の自衛隊ならびに緊急派遣されてきたアメリカやイギリス・フランス・ドイツの特殊応援部隊が距離を詰め、望遠レンズで覗き込んだ各国の隊員が一斉に声を上げる!「おぉーっ!(Oh-!)」


 そこには、絵にも言われぬ究極に美しい顔、そして、ほぼシースルーの白いレース様の衣服を纏った女性宇宙人が助けを求めて喘いでいる。その様子は一刻を争うようであった。自衛隊および各国特殊部隊は、それまでのジリジリとした距離の詰め方ではなく、一気にフルスロットルで近づいていった。各国、文官たちが慌てて無線指示で性急な距離の詰め方を制止する。


 緊急宇宙人対策本部「ま、待て、罠かもしれん!」

 各国編成特殊部隊長「しかし、死んでしまいそうです。助けなくては!」

 緊急宇宙人対策本部「あ、焦るな!ゆっくり近づけ!」

 銃を構えながら、宇宙からの来訪者たちにゆっくり早く近づく。より近くまで近づいてみると、そのシースルーのレース状の衣服の下から、これ以上完璧な黄金比率はないと思える美しい胸の形が露になり、望遠スコープを通してはっきりと視認できるようになってきた。


 各国編成特殊部隊総員「おぉーっ!(Oh-!)」


 警戒する気持ちがあるものの、それ以上に惹きつける抗しがたい美の力が男たちを引き寄せていた。


 異星人が弱々しく声を絞り出すようにあげて、倒れる「た、助けて。お願い。。。」

「日本男児ここにあり!我、宇宙平和の嚆矢たらん!」一人の隊員がたまらず銃を投げ捨て救出に駆け出す。「だ、大丈夫かぁ~!」抱き起しながら、気道を確保する素振りの中、究極美の象徴である唇と乳房にさりげなく触る。真っ先に救助に入った隊員は心の中でひとりごちる。「これは、一人の人間にとっては、小さなタッチだが、人類にとっては、大いなるトライである。」

 一瞬、緊張が走るが、宇宙人はうっすらと目を開け、感謝の眼差しを隊員に向け、

声を絞り出す「あ、ありがとう。優しいのね。」あとは、文官の制御など全く意味をなさなかった。次々と隊員が駆け寄るとなんとみすぼらしい宇宙船の中から、全部で10名の宇宙人、しかも、微妙に異なるものの、全員が全員ともいずれも究極の絶世の美女たちが瀕死の状態で発見された。日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスのそれぞれの国から2名ずつ隊員たちが、それぞれ1名ずつの弱々しく美しい地球人と寸分違わぬ容姿をした宇宙人を抱きかかえていた。


 1969年、ニール・アームストロング、バズ・オルドリン、マイケル・コリンズのアポロ11号の乗組員たち3名は月面着陸&上陸の奇跡のミッションをやり遂げ、地球に帰還後、熱烈な歓迎を受け、その後、表敬訪問のため世界を1周している。が、そんな彼らも、月面から地球に大気圏再突入して帰還した際は、3週間という長きに亘る時間、宇宙空間からの未知の感染症・細菌・微生物等の地球への侵入を防ぐため、先ずは隔離生活にて、徹底監視を受け、その後、晴れて大統領官邸ホワイトハウスでの会見や各祝賀祭典への出席という慎重な運びであった。


 日本に不時着同然で着陸し、救出された宇宙からの絶世の美女たちも、防御服を着た医療スタッフの懸命の救助活動と手厚い看護を経て、1ヶ月半の隔離を経て、漸く各種ヒアリング等が始まった。その間、全く危険な兆候や素振りは全くみせず、健康を回復した彼女たちの美しさはさらに目を瞠るものがあった。言語はどうしたことか、日本語をはじめ、各国語を難なく、極めて流暢に、そして、美しい所作・丁寧な言葉遣いでこちらが感心してしまうほどの堪能ぶりだった。とにかく、危険な素振りは微塵もなく、質問には誠実に答え、なにひとつ怪しいところは見当たらなかった。先の翠雲氏の驚愕の報告のあった、惑星“エーアデ”からの亜人種かと思いきや、自分たちは惑星“ガミタス”からの飛来だという。惑星“ガミタス”内の政情不安による宇宙亡命とのことである。


 緊急の地球会議が開かれた。この宇宙人の扱いをどうすべきか?喧々諤々の議論がなされた。これは、宇宙侵略の謀略ではないか?と警鐘を鳴らす意見も出たし、いっそのこと抹殺して地球には来なかったこととしてしまえばよいとする過激な意見や宇宙船の修理だけ行い、即刻、退去を命ずるべきだとする受入れ慎重論なども出たが、今はまだないが、宇宙法上の見地からしたら、亡命船であり、人道的見地から救助・保護すべしとの意見や、ただでさえ、地球上の各地の紛争で手一杯なのに、しかも、相手戦力の情報も分析もない状況下で宇宙戦争のリスクを取るべきでない、とする意見が優勢になっていった。それは、漂着した宇宙人たちが恭順の姿勢、そして、まったく危険な香りがせず、友好的な態度であったこと、そしてなによりも美しい容姿をしていたことが、厚遇すべしとの意見形成を後押しした。


 かつて、心理学および刑法学で次のような実験が行われたことがあるという。偽の裁判を開催するも、陪審員たちには、あたかも本物の裁判であると思い込ませた上で、同じような犯罪を犯した裁判をいくつか開廷し、陪審員たちにそれぞれ量刑を審議・申し立てをさせた。ただし、被告には容姿端麗な男女のグループと器量がすぐれないもののグループと被告の特徴を分けてあった。結果は、男女ともに、容姿のすぐれた男性や女性が被告だった場合の方が、器量に劣る被告たちよりも量刑が軽く済んだという。制止を聞かずに救済に入った隊員たちや本宇宙船および漂着宇宙人たちの扱いを議論する会議メンバーたちにも、同様の心理作用が働いたものと見える。まずは様子を見よう、そして、リスク分散のために、各国で2名ずつ受け入れることとなり、最初は徹底隔離から入ったものの、文化文明の聞き取り、そして人間社会での監視下での順応ぶりを見るため、共同作業等、どんどんとその警戒の程度は緩まっていった。そして、彼女たちも、かつて移民たちが担っていた社会の下支えとなる単純かつ人が避けがちな仕事するも率先して行う姿勢に、心打たれる人間たちも多く現れ、間もなく、「結婚してもいい。いや、是非、結婚したい」と言う者が現れたと思ったら、その声は瞬く間に大きくなっていった。そんな矢先、またも惑星“ガミタス”からの漂流大型船が5隻が流れつき、地球への亡命を請願してきた。またしても、全員が全員先着の10名同様の絶世の美女たちである。各国は積極的に受け入れを表明、むしろ奪い合うような様相まで呈したが、平等に2,000名ずつ追加で受け入れることとなった。


 全ての玉子を一つの籠に入れてはいけない、という諺があるように、一つの種類しかないというのは、脆弱性の極みであり、コロナ禍を経験した地球の人類全体が「もし、あれが確実に死に至る病(伝染病)」だったとしたら、人類は滅亡していただろう、と想像するに難くなかった。チンパンジー属は3種類、ネコ属7種類いるというが、地球上における人類はヒト科ヒト属にはホモ・サピエンス1種しか存在しない。それは、疫病や天敵に極めて弱い、ということになる。そういうこともあって、種の保存のためにも、また、世界交流ならぬ惑星間交流のためにも、「受け入れること」が必要なのではないか?「これが神の思し召しではないか?」「神から人類への次世代への架け橋として示してくださった神より遣わしてくださった“来たりしノアの方舟”である」といった数世紀前に絶滅したと思われる神学までもが見事に復活し、異星人受入れの世論が高まっていった。寧ろ、なんやかやと理由をつけることで、美しき異星人たちとの交遊を図ってみたいというオスとしての好奇心が勝り、その後付けの理由探しであったと言ってもよい。常に、神のみ名は、都合よく為政者たちに用いられる、いつもの歴史が繰り返しているのだった。また、考えても分からない事柄が出てきた場合、神の思し召し、神のご意思とするのは、地球人の得意とするところであり、論証的反対意見を出せない以上、神のみ名は、あらゆる反対意見をも封じ込めるという威光と通行手形としての効果を随所に示していた。


 姿かたちは地球上の人類と寸毫変わりがなく、言葉も流暢で意思疎通も何ら問題なく、恭順で慎ましく、また仕事振りも申し分なく、おまけに、究極の美を持ち合わせているとなれば、結婚したいと申し出る男性陣が出てくるのは、当然の流れであり、むしろ競って、求婚するようになり、各国で全員、地球人とゴールインするに至り、ガミタス人とのハーフが生まれれば、宇宙平和や人口減少課題の解決といった実際問題の面からも、生物学的な研究観点からも、極めて好意的・熱狂的な国民の支持を集め、後押しされていくようになった。問題なく、結婚生活は進んでいき、各地で幸せそうな家庭が築かれていった。その後も、惑星“ガミタス”から亡命を求めて5回にわたって同様の美女たちばかりが漂着し、合計10万人ずつ計50万人が各国で受け入れられ、たちまちのうちに、優秀でかつ生物的にオスとして優れる頭脳明晰&肉食系の選りすぐりの男子たちがガミタス人と結婚していくようになった。

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