第2話:少子高齢化・人口の偏在
地球に近づくと低体温睡眠装置の冬眠から徐々に目が覚めるように起こしてもらった。大気圏に突入するには、真っすぐに入り過ぎると速度が速すぎて摩擦熱で溶けてしまい、浅く入り過ぎる空気の層に跳ね返されて、上手く地球の大気圏に入っていけないが、すべてはクラウドワンが首尾よくやってくれた。そう考えると、宇宙探査ももはやAIにすべて取って代わられそうでもあるが、今回のように、地球外生命体と遭遇したり、その文化圏に潜入し、接触やましてや交流となると人間様の出番が必要となる。
私は、無事に地球に帰還し、自国の幹部に惑星“エーアデ”についての詳細なレポーティングと今だ残る疑問や課題点などを報告した。自国のみならず、世界の首脳にも極秘事項として共有され、各国で対応を練り、国際的地球的解決事案として、対策を講じていくこととなった。この極めて人間に近い、ほぼ同種の宇宙人との遭遇のニュースは、地球防衛上の観点から全てが詳らかにされることはなかったが、全世界を驚愕と興奮の坩堝とさせ、「本当に宇宙人はいた!」「でも、考えてみたら、不思議なことでもない」「ほぼ、地球に酷似しているらしいが、相違点もあるらしい」と詳細までは伝わってこないが、人口に膾炙するところとなり、その話題でもちきりとなった。
宇宙探索のミッションは国民負担義務となっていることは、芥Ⅰの中で述べた。宇宙飛行中は、光よりも早いスピードで飛行することで時間の経過、すなわち、ミッション中に加齢はほぼ進まないのが原則であったが、今回の探査では、惑星に不時着し惑星探査を行ったため、光よりも早い速度で飛行している宇宙飛行時とは異なり、今回の場合は年齢を重ねる結果となった。今回、3週間での惑星“エーアデ”での滞在は、地球時間に換算すると30年という歳月に相当した。ゆえに、私は自身の年齢はほぼ変わらないものの、およそ30年振りの地球への帰還となっていた。これは自業自得の側面もあるので、致し方ない。日々の暮らしではあまり感じない変化も10年単位で振り返ると大きく時代や暮らしぶりが変わったなぁと思えるように、30年振りに地球に帰還してみると、世の中は隔世の感を感じるほどに変わっていた。
30年の月日は、地球に大きな変化と拍車をもたらしていた。つまり、先進国における少子高齢化は軒並み進行し、それらの国々は、観光のインバウンド需要の発掘を進め、ファンを増やし、そして、移民を積極的に受け入れることで人口と社会システムをなんとか維持していたが、やがて、移民たちの比率が一定数を超え、また、ほとんどの移民たちがそれぞの社会で介護現場や工事現場、ごみ収集などのいわゆる3K職場で働き、社会を支える重要な仕事に従事しているにもかかわらず、低賃金で働いていることへの不満の高まり、鬱屈した気持ちが徐々に嵩じていき、治安の悪化やデモや社会暴動に発展してくるようになってくると、どこの国でも手のひらを返したように、移民は自国に送り返せといったような態度を取り、社会に大きな分断の溝を形成していた。選挙を実施するたびに、極右政党が党勢を拡大し、ますます治安は悪化し、弾圧は強まり、溝は深まる。
社会における支配層・非支配層とに明確に分かれ、再統一を果たした際には歓喜に沸いたドイツ連邦共和国も目には見えない分断の溝が住む者には明確に感じられるようになっていたし、極右政党が政権の座にも届こうかというほどの勢いで、移民排斥の動きは第二次世界大戦前の様相を呈するにまでその不穏な陰を各国各所で見せていた。
抑圧される側も最初は抵抗し、各所で軋轢や衝突を重ねていたが、この人種間の抗争の終結には、人種的に完全に融合して溶け合ってしまうか、峻拒し、別々の生活圏で生きていくかの二者択一の道しかなく、この時は、後者の選択が世界各地で採られた。すなわち、先進国で生活していたものたちが、自国に帰国し始めたのである。
彼らも、先進国と呼ばれる国々でエッセンシャルワーカーとして、先進国の人々の暮らしを支えているにもかかわらず、自身の暮らし向きはいささかも向上しないばかりか、まるで移民が諸悪の根源のように後ろ指をさされ、緊張と悪感情の中で暮らしていくよりも、多少、貧しくとも、民族の同一性の元、心安んじて暮らしていける方がよっぽどマシ、と思うようになり、続々と自国へと引き揚げていった。また、エッセンシャルワーカーとして働き、先進国社会のノウハウを直接自国に持ち帰り、導入役の嚆矢となす役回りを担うことで厚遇もされ、移民先から引揚者として再度受け入れる国側としても、双方Win=Winの関係性を持つことができ、当人も活躍、国も発展していき、さらに、できることなら、母国語で自国の発展のために身を捧げて働きたい、国を捨てて移民などの選択肢を選ばざるを得なかった自分たちのような人間をこれ以上産み出さなくて済むよう、母国の発展に尽くしたいと思う人々が後に続いた。
こうして、かつて後進国だった国々は、先進国の移民受入れ反対運動を奇貨として、引揚者を積極受け入れすることで、国力を上げ、人口が増え、経済が興り、扶養力が高まることでさらに人口が増えていく、という成長の端緒を掴みつつあった。一方、続々と移民たちに帰国されてしまった先進国内では、ごみ収集や精肉工場、トイレ清掃、部品の組み立てや物流従事者等、生活を下支えしてくれる現場最前線の担い手が一気になくなり、社会生活がどんどんと滞っていった。今度はいくら移民を受入れるべきだ、と声が上がっても、社会麻痺に陥った現状では魅力は薄れ、移民たちは先の排斥運動の痛みも引いていないことから完全にそっぽを向いてしまっており、もはや、戻ってきてくれる気配すらなかった。こうして、後進国では人口爆発と社会整備、国力増強が、先進国では人口減少に苦しみ、社会は麻痺し、国力は衰えていっていた。
そんな最中、突然のビッグニュースが飛び込んできた。
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