暗雲 side スズ-1
私は友だちが少ないんだろうなぁってことはなんとなく自覚してる。あれは中学生の頃だった、もしかしたら小学生だったかも。周りの子達は少しでも時間ができると集まって何かをしていた。誘う側誘われる側の違いはあるけれど、集まっているのは同じこと。でも、わたしは一人だった。誰にも干渉しない代わりに誰にも干渉されない。そんな形で育っていったからそれを当然のことだと思って、いつの間にか殻を作っていたのかもしれない。そんな殻を破って、外の世界に連れ出してくれたのがモモだった。少し恥ずかしいこともあるけれど、モモと一緒ならなんだってできる気がする。そして私はモモの気持ちを受け入れ、特別な二人になった。少しびっくりしたけど、実は私も望んでいたことだったなんて。絶対にモモには言えないけど。
特別、と言える関係になったとはいえ、それは私達個人のこと。それを外に持ち出すのは恥ずかしい。モモは強いからそういうの気にしないだろうし、私がみんなにはバレないようにしようって釘を差したときには寂しそうにしていた。でも、私の気持ちをわかってくれた。モモは優しいの、知ってたけど。
今までもこれからもモモのそばに居たら私はこれでもかってほど甘やかされてダメになってしまう気がした。直感でそう感じただけで、なんの根拠もないのだけど。ダメになってしまっても良いかなと思うことは何度もあったけど、これからはモモの隣に胸を張って立てるようになりたい。だって私達はもう、そういう関係性なのだから。そのためにも、モモの居ないところでもしっかりやれるってとこを証明したい。誰に見せるわけでもない。私自身のために。そのために手っ取り早い、と言ったら申し訳ないけど、ちょうどよかったのが部活動だった。運動部、以前の私なら絶対に近づかなかった場所へ。
それと同時にモモの家に泊まりに行くことが増えた。私が行くとモモが喜んでくれるから行っているのか、それとも私が慰めてほしいから行っているのか。ともかく、モモと過ごす時間は私にとって幸福なひとときだった。そういう時間が私をダメにし、そのせいで駄目にならないために部活を始めたのだけど、この時間がないと、精神的に私はだめになっていると思う。だから、私にとってはどっちも大事な時間だ。
運動部というのは思っているより大変だった。そもそも運動なんてほとんどしてこなかったのだから辛いのは当然なのだけれど。それに、この独特な空気感はどうにも馴染めない。正直、楽しくない。でも、ここで辞めたら今までと同じになってしまう。頑張らなければ。私の目標のためにも。モモのためにも。
でもそんな私は上達もしないわけで。別にうまくなろうと思って入ったわけではないけれど。
……言い訳だなぁ。
そしていつからだろう。私は部活の中でも孤立していった。
どうして? 私は何もしていないのに。誰にも迷惑かけるようなことしてないのに。それとも何もしてないからなの? 遅刻もせずに、練習して、言われた通りのことやってるだけなのに。練習に居場所がなくなっていた。自分が練習をするのではなく、誰かの練習の補助をやらされることがとても多くなった。というか最近それしかしていない。一人で球拾いはなにかおかしい。最初からそうだったら私は何も思わなかっただろう。そういうものだと受け入れたと思う。でも、はじめの頃は三、四人でやっていたのに、いきなり一人でやらされるのは違和感がある。球拾いのときに私の居るところにだけボールが飛んでくるのは、私が拾いやすくするためなのか、それとも……痛い。
こういうとき、モモならどうするだろう。困ったとき、私はそういうふうに考えるようにしている。モモは何でもできる完璧超人だから。実はそう思われてるだけでそんなことない、こともなくて、モモが本気を出したらできないことなんてないのだ。だから、そんなモモならどうするかと、考える。本当に解決法が見つかるときもあるし、精神安定剤になることも、なんにもならないこともある。
モモに相談したらすぐに解決してくれるんだろうなぁとは思うけど、それではダメだ。私にできることは全部やらないと。とりあえず、先輩に話を聞きに行こう。
それ以降は露骨だった。私は何も間違ったことはしていないのに私のことをここから排除しようという動きが強くなっていった。
助けて、モモ。
私はそれを最後まで言えなかった。一人で頑張ると大見得切った手前、現状をモモに知られたくなかった。私は一人でも自分のことくらいどうにでもできるんだってモモに知ってほしかった。何より、私は私を証明したかった。
「ねね、スズ。最近の部活どうなの?」
「え、いや。なんとも無いよ。いつも通りいつも通り」
「私の杞憂なら良いんだけど、何かあったら相談してね。スズには私がいるから。言ったでしょ? スズは私が守るって」
いつから私はモモの前でさえ笑えなくなったんだろう。もう疲れちゃったな。今日は部活サボってモモに甘えよう。午後の授業前の休憩時間にそう決意した。今まで頑張ってきたんだから一回くらい良いよね。早く教室に戻って、今日の放課後モモの家に行っていいか聞かないと。ダメって言われても押しかけるけど。
そうして教室に向かう途中、私に意地悪する先輩三人と目があってしまった。
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