浮気夫にパンチ!(3)

「どうして勝手なことをするわけ!?」


 私の抗議に、夫の一茂かずしげはため息をついた。


 また始まったよ──とでも言いたげだ。


「しょうがないだろ。今度の日曜日に、会社の同僚を招いてホームパーティーするって話したら、ユアちゃんがどうしても来たいって言うからさ」


「だからって……だったらまずは私に相談すべきでしょ!? なんでその場で誘っちゃうのよ!」


「『ホームパーティーに行ってもいいですか?』って聞かれて、『いや、無理です』って言えっての!? 無理だろ、そんなの」


「『会社の集まりだから、みんなに聞いてみないと』とか、なんとでも言い訳できるでしょ!」


 ソファに寝そべる夫のところまで行くと、私はその手からスマートフォンを取り上げた。


「話をしてるんだから、ゲームするのやめてよ!」


「悪かったよ」


 一茂は面倒くさそうに体を起こす。


「だったら断ればいいんだろ。これから行って来るよ」


「そんなのダメに決まってるじゃない!」


 この男は、何も分かってない! 何も、だ!


 これだけ気が回らないのに、よくも私たちが勤める大手マーケティング会社の営業職が務まるものだ。


「同じタワマンに住んでるんだよ!?」


「だから?」


「だからって……一回誘ったのに断ったりしたら、今度顔を会わせた時に気まずいじゃない!」


「じゃあ、どうしろって言うんだよ」


「本当に貴方って!」


 ソファにスマートフォンを投げつける。大きく跳ねて、床に落ちた。


 一茂は「うおっ!」と大袈裟に体をよじってよけると、不満げに唇を尖らせる。


「危ないなぁ。スマホには得意先の社長とかの連絡先が入ってるんだぞ。壊れたらどうすんだよ」


「知らないわよ! そんなの!」


 私は苛立ちながら、リビングを歩き回る。


「あの子の分の料理も用意するこっちの身にもなってよね! 勝手なことするから、食材を買い足さなきゃダメじゃん!」


「なんだよ、そんなことで怒ってんのかよ」


「そんなことって──何もしないクセに! 10人分の料理を用意すんのが、どれだけ大変かわかってんの!?」


「大丈夫だよ」


「は?」


「ユアちゃんが手料理を持って来てくれるんだってさ。だから食材は買い足さなくても大丈夫だよ」


 ニタニタと笑いながら、再びソファに寝そべるのだった。


「ユアちゃんって、かわいいだけじゃなくて、料理までできるって──まさに完璧女子だな」


 頭痛がしてきた。


 この男は、本気で言ってるのか?


 我夫でありながら、にわかに信じがたいことだった。


 私は昼間に会った夢愛の姿を頭に浮かべ、顔をしかめる。


(あのデコまみれの爪を見れば、普段から料理してないことくらいわかりそうなものなのに……)


 ストレスでどうにかなりそうだ。


 やっぱりこのタワマンは、買うんじゃなかった!

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