第2話 「レジ打ちスピードが異常」


私は、目の前で繰り広げられる光景を呆然と見つめていた。


ピッ──ピッ──ピッ──。


レジを通る商品。


商品のバーコードを読み取る音が、異常なスピードで響く。


ピッピッピッピッピッ──!!


(えっ、何!? 今の速さ、何!?)


金髪ボブの小柄なバイト仲間、福原美羽。


彼女は今、レジ打ちをしている。

ただし、尋常じゃないスピードで。


「合計2875円になります~」


最後のバーコードを通した瞬間には、もう会計を終える態勢に入っている。

客が財布を出すのが間に合っていない。


「ありがとうございましたー」

客がなんとか支払いを終えて店を出た。



「美羽ちゃん、早すぎん?……」


私が小さく呟くと、美羽ちゃんは無表情のまま、サラッと答えた。


「早く終わらせて帰りたいだけ」


めちゃくちゃ合理的な理由!!


いやいや、普通さ、バイトって「仕事に慣れてきたらスムーズにできる」って話じゃん? 美羽ちゃんのそれ、なんか違う。

“仕事に慣れる”を超越してる。

もはや目的が違う。



美羽ちゃんの目の前には、次のお客さん。

買い物かごを抱えたおばあちゃんだ。


「これとねぇ、あと、この……」


「ピッピッピッピッピッピッピッピッ──!」


「お、お姉ちゃん、ちょっと待ってぇな……」


「合計3620円になります~」


「いや、はやいはやいはやい!!!」


私が思わず突っ込んでしまう。


もう少し、お客さまのペースに寄り添って!?


おばあちゃんが財布をゴソゴソしている間、美羽は軽く指をパチパチ鳴らしながら、完全に「待ち」の状態に入った。

まるでゲームでロード画面を待つプレイヤーのような顔をしている。


(バイトって、こんな無駄のない動きができるもんなん?)


私は考えた。


バイトを始めて約1年。

接客の流れも覚えたし、そこそこ慣れたつもりだった。けど──


(“才能”って、あるんやな……)


美羽のレジさばきを見て、私は初めて、「バイトにおける才能」という概念を理解した。


──いや、これは才能っていうか、単に「めんどくさいから最速で終わらせたい」だけなのか?


「灯里ちゃん、交代ね」


私の思考が終わらないうちに、美羽ちゃんがピッと交代ボタンを押す。


そして、バックヤードに引っ込んで淡々とスマホを取り出し、ドリンクコーナーの横でYouTubeを見始める。


これがいつもの流れ。


(おい、めっちゃくつろいどるやんけ……)




「美羽ちゃん、もうちょっとゆっくりやってもいいんじゃない?」

「いや、むしろみんなが遅すぎるだけじゃない?」


「いやいや、コンビニのレジ、“ギリギリ人間が耐えられる速度”で回すとこじゃないから」


美羽は「ふーん」と興味なさそうにスマホをいじると、イヤホンを片耳に装着し、動画に意識を飛ばした。


(……いや、ほんまにマイペースやな、この子)


私は溜息をつきながら、次のお客さんを迎える。


「いらっしゃいませー」


コンビニバイトには、まだまだ未知の世界が広がっているらしい。


(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る