第1話 「割り箸は何膳ご入用ですか?」
「いらっしゃいませー」
今日もいつも通りのコンビニバイト。
レジに立ちながら、私はぼんやりと考えていた。
(お客さんが買い物するときの「適当」って、ほんまに適当すぎひん?)
たとえば、温めますか?と聞けば、「あ、適当に」って返ってくることがある。
いやいや、適当に温める機能、レンジには搭載されてませんけど?
そして今、目の前には大量のカップ麺とおにぎりと唐揚げ串をレジに置いたお客さんがいる。
たぶん飲み会帰りのサラリーマン風。
スーツはちょっとシワシワで、ネクタイもゆるんでる。
「お箸、多めで」
出た。
「えっと……何膳くらいですか?」
「うーん、適当に」
ほらきた。
適当の魔法の言葉。
「いや、その……適当って、どのくらいの感じですか?」
「いや、だから適当に。ほら、たくさん買ったし」
たくさんって、どの基準??
私はレジの奥にある割り箸の束を見つめる。
1膳? 2膳?
いやいや、1人1膳が普通として、これ、何人分の買い物なん?
おにぎり5個、カップ麺3つ、唐揚げ串2本……うーん、普通に考えたら2~3人分?
でも、ひとりで食べる可能性もあるし、逆に5~6人でシェアする可能性もある。
(……いや、これで5~6人はないか)
考えれば考えるほど分からなくなってくる。
「えっと、じゃあ……5膳くらいでよろしいですか?」
「いや、多すぎるわ」
(えっ、多いん!?)
「じゃあ、2膳?」
「少なすぎるだろ」
どっちやねん!!!
「えっと、3膳……?」
「うーん……まぁ、そんなもんかな?」
(正解ライン、狭すぎん??)
私はなんとか割り箸3膳を袋に入れ、無事にお会計を済ませた。
「ありがとうございましたー」
お客さんが出ていくのを見送りながら、ふと考える。
(結局、適当って何やったんやろ……)
そんな哲学的な疑問を抱えたまま、私は次のお客さんを迎える。
「いらっしゃいませー」
またいつか、「適当」の意味に辿り着ける日は来るのだろうか。
(つづく)
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