第9話 大口真逸朗
親父を中心に俺たちは食卓についた
メイド達が料理を運んでくる
「旦那様、今日の肉はA5ランクの松坂牛でございます」
「ほう。そいつはうまそうだ」
親父は運ばれてくる巨大な肉の塊を見てニンマリと笑う
俺たち兄弟の前にもステーキが運ばれてくる
レアに焼かれて赤みが残る美味そうな、霜降りステーキだ
親父は大きな手で肉を掴むと、そのまま、喰らいつく
喉が渇くと、ワインの瓶を手刀で切断し、そのまま口をつけて喉に流し込んでゆく
相変わらず、見ていて飽きない豪快な食事っぷりだ
「真守」
親父は飲み干したワインの瓶を置くと、俺の方を睨んだ
その金色の瞳は俺の心臓を鷲掴みにするような、鋭い眼光を放っている
この目を見たものは誰もが生物として畏怖するだろう
大口真逸朗
生物として人間よりも高位の生物である証だ
俺はその目で見られるたびに震えないように、いつも拳を握って歯を食いしばる
ハッタリであっても、怯えているところはこの男には見せられねえんだ
「貴様、女ができたな?」
親父は静かに尋ねた
「・・・ああ」
「ははは、色を知る年頃だな。それはいいだろうさ。だがな、我が家の祖は『日本書紀』に語られる『大口真神』である。この血には
「親父・・・だからなんだ?」
俺は勇気を振り絞りながら言った
喉はカラカラだ
「俺にはその力は受け継がれなかった。兄貴たちのように
「は、は、ははははは」
親父は声をあげて笑った
「いや、関係あるぜ」
親父はぴたりと笑いを止めて俺を睨みつける
「貴様には東北の方へ、一族の血が薄くなっている分家へ婿養子に行ってもらう」
「なんだと?」
「心配するな。別れろなんて、野暮なことは言わねえよ。もちろん、その女も、連れて行っても構わんぞ。我が家の血は広く残してゆく必要があるからな。分家の娘にも、お前の女にも、お前の子を産ませろ」
それじゃあ、まるで氷桜先生が、俺の母さんみたいじゃあねえか
こいつは俺に自分と同じ道を俺にも歩ませようとしているのだ
俺の頭に血が上ってゆく
親父に対する畏怖など、どこかに吹き飛んだ
「ふざけるなよ!」
俺はテーブルを叩いて立ち上がった
「俺はあんたとは違う!俺は卒業したらこの家を出て、東京に行くんだ。大口の家とはそれで縁を切る」
「貴様。父上に刃向かうつもりか?」
真生が立ち上がった
その眼差しは氷のような眼差しで俺を睨みつけながら、その手には十字の剣が握られている
表情は無表情
無表情でこいつは俺を斬りつける
弟だろうが平気で斬り捨てる
俺の背筋に汗が流れた
「待て。真生」
親父が兄貴を制する
「俺の子である以上、血の流れには逆らえん。その血を狙う闇のもの達が次々にお前の前に現れるだろう。それに」
親父は牙を見せてニヤリと笑った
「いずれ、お前にもわかるんじゃあねえかな。お前も俺の子なんだからよお」
「・・・部屋に戻る」
俺はそのまま、椅子を蹴って食卓を後にした
部屋に戻った俺はベッドに横になった
父はああいう感じの男だ
自分の都合で俺を振り回す
強いものに弱いものは従うべき、それが奴の考えだ
大口真神の血を濃く受け継いでいるせいか、人間とは道徳心がズレている
死んだ母親も俺も、奴にとっては自分の意に従うだけの弱者、道具なのだろう
俺はそういう考えが許せねえ
母がいくらなんでも哀れだ
だから、俺は誰かに従うだけの弱い奴にはなりたくなかった
その強さがハッタリであったとしても、東京で氷桜先生と暮らせるならばいい
ヴヴヴヴヴ
俺のスマートフォンが振動する
発信者は氷桜先生だ
「はい。氷桜先生。俺ですけど」
「はあはあ、真守くん・・・!」
「先生!?」
「今、学校で、赤頭先生に追われているの」
「赤頭?なんで先生を」
「わからない。わからないけど、あの女の子と一緒に私を捕まえようとしてきて・・・!きゃあああああ!!」
そこで電話が途絶える
アクズと、おそらく平坂黄泉が氷桜先生を追っている・・・?
「クソっ!」
俺は木刀の入った刀袋を持つと部屋を飛び出した
学校まで、バイクに乗れば15分
思いっきり飛ばせば10分でいける
「無事でいてくれ、氷桜先生」
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