第8話 大口家の人々


妹の真綾と家に帰ると屋敷のエントランスホールに奴が俺を待ち構えるように立っていた


金色の瞳に一見すると女にも見間違えるような中性的で美しい顔立ち


男のくせに銀色の髪を長く伸ばし、後ろで紐でくくっている


178cmの体を黒いトレンチコートに身を包んだ20歳の若い男


長男の真生まお


正直いって俺はこの兄貴が大っ嫌いだった


「お出迎えとはお優しいことだな。お兄様」


俺は皮肉たっぷりにこの腹違いの兄貴に言ってやった


フッ、真生は鼻で笑い飛ばす


「兄だと?穢らわしい」


氷河のような冷たい目で見下すように奴は俺を見る


俺の頭の中で怒りが火を上げる


そんな目で俺を見るんじゃあねえ


「この野郎、皮肉でいっているのがわからねえのか!?」


俺は真生に飛びかかろうとするのを、妹の真綾が制した


「真守兄、落ち着いて!真生兄様も喧嘩を売らないでよ!」


「貴様、女の臭いがするな。他に鬼の臭いもする」


真生は俺に向かって指を突きつけた


「あ?」


「私の鼻は誤魔化せん。貴様がどんな女と逢瀬をしようが興味はない。しかし、下賎な貴様でも父上の血を引く大口の男ではある。その血が我が一族の宿敵である鬼に渡すのだけは見過ごせんね」


真生は空中に手を翳した


するとその手に一振りの十字架型の剣が握られる


ファングを出しやがった!


大口家の人間は一人に一つ、武器を『力』で作り出すことができる


その武器のことはファングと呼ばれて、姿は剣だったり、弓だったりと様々だ


そして、その武器には特殊な能力が備わっているという


こいつが、剣を抜いたということは本気だ


良くも悪くも冗談を言う男ではない


俺を本気で殺すつもりだ


俺は刀袋から木刀を抜いた


俺が構える樫の木刀を見て、真生は冷たく笑う


「未だ、自身のファングすら持てぬとは。父上がなぜ、血の薄い貴様を未だに、この屋敷に置いておくのか理解できんね。一族の出来損ないが、哀れよな・・・」


「うるせえ!!」


怒りを俺は中段から奴に斬りかかった


間合いを詰めて奴の頭に一撃を入れる・・・はずだった


「馬鹿な」


俺は確かに奴との間合いを詰めた


しかし、現実はその場所から一歩も動いていない


まるで時を巻き戻されたような・・・


これが、奴のファングの能力か


初めて体験した奇妙な出来事に動揺してしまう俺


奴はその隙をついて、残像が残るような速さで間合いを詰めて俺の腹に鋭い蹴りを喰らわせる


「ぐはっ」


まるで内臓をひっくり返された気分だ


腹に蹴りを入れられて俺はその場にうずくまる


「実力の差もわからないでこの私に挑むとは、笑止」


「くっ」


木刀を持ち上げようとするが、奴の足が木刀を踏んでおり動かすことができない


「死ね」


奴は剣を振り上げた


斬られる


俺はそう思った


「待って!真生兄様」


真綾の手には黒い弓が握られており、黒い鏃が真生に向けられている


「真綾、私に矢を向けるのか?」


真生は眉ひとつ動かさずに剣の切先を真綾に向ける


「私と戦いますか?兄様」


「我ら兄妹はいずれ、父上の後継者争いで潰し合わなければならない運命。ここで勝負をつけるのも悪くはあるまい」


「お忘れですか。私のファングと兄様のファングの能力は対極にある。破壊と再生では勝負は簡単にはつきませんよ」



「待てい」


野太い声が響く


その時、扉が開かれて着物を着た大柄の男が入ってくる


2mはある筋肉の鎧で固めたような体躯の男で、ギョロリと見開かれた金色の目玉で武器を突きつけ合う二人の兄妹を睨みつけた


それは雄度MAXの野生的な男、人というよりも獣に近い、そんな印象を与える男だ


「父上」


「父様」


俺たちの親父『大口真逸朗』は口を歪めて牙を見せながらニヤリと笑う


「兄妹喧嘩、大いに結構。だが、その前に父さんのお帰りだ。我が子達よ。飯にしようじゃあねえか」


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