Ⅳー③ 善を装った悪 (ハーメルンの笛吹き男)

 魔導師が嘆いて告げる。

 プルルル……、

 この世はまがい物が支配しています。

 善を装った悪、が大衆を意のままに操縦コントロールしています。

 幼き者、か弱き者、心優しき者が食い物にされています。

 戦争も、宗教問題も、虐待も、いまだ終わりが見えないのです。



 王は応える。

 幼い頃に読んだグリム童話には、多くのヒントがありました。

 『ハーメルンの笛吹き男』は美しい笛の音色によって人びとを救います。

 しかしその後、美しい笛の音色で惹きつけて、無垢な子供たちを連れ去ります。

 原因は、笛吹き男を安易に『利用』した大人たちにあった、というおはなしです。

 それは現世においても同様です。

 成功者の周囲には、それに便乗しようと貪婪どんらん者が集まります。

 勝ち馬に乗ろうと日和見主義オポチュニスト者が集まるのです。



 人生は大胆な冒険。

 想像力は使い果たせない。使えば使うほど増える。

 幸福は神とともにあること、それに至るは力は魂の響きなる勇気。

 友よ、より良い世界を築くのに遅すぎることなどない。

 最高の復讐ふくしゅう、それは大きな成功である……。

 (グリム兄弟のことば)



 信用というものは妙なものだ。

 ただひとりの言うことを聞くと、まちがったり誤解したりしていることがある。

 多くの人の言うことを聞いてみても、やはり同じ事情にある。

 普通、おおぜいの言うことを聞くと、全く真相を聞き出すことができない。

 真理と誤りが同一の源泉から発するのは不思議であるが、確かである。

 それゆえ、誤りをぞんざいにしてはならぬことが多い。

 それは同時に真理を傷つけるからである……。

 (ゲーテのことば)



 《プルルル……、果実を求める貪欲は、花を失わせる。花びらをむしりとっても、君は花の美を集めることはできない……。(タゴール) ゲイル》


 《プルルル……、四月は子供のようだ。土埃の上に花で象形文字を書き、消し去り、そして忘れてしまう。大地は草の助けによって、愛想のいいものになる……。(タゴール) クロス》



 魔導師四人衆は嘆く。

 恵まれた資質や優れた才能を発揮し、大衆からの支持と信望、有り余る富、称賛や名誉を手する者がいる。

 例えば、英国BBCの人気司会者、日本の男性アイドル事務所創設者、米国のR&B歌手シンガー、Kポップ界の裏側、一部の聖職者たち……etc.。

 人気と称賛を勝ち得たその裏で、彼らは何をしていたのだろうか?

 どれほど多くのたちが欲望のけ口にされたのだろうか?

 彼らの餌食えじきとなって、凌辱りょじょくされたのだろうか?

 もしや彼らは、に、なったつもりでいたのだろうか……?


 悲痛な叫びが木霊こだまする。が泣き叫ぶ。

 誰か助けて! そう念じて必死に手を伸ばす。救いを求めて合図を送る。

 側近の大人たちは合図サインに気づく。

 しかしなぜだか見て見ぬをする。性虐待の事実を無かったことにする。

 もはやそれは、諸悪の根源の徒党ととうであることにほかならない……。



 《プルルル……、か弱き者たちは無情な現実に打ちひしがれ、どれほど絶望したのだろうか? 人は称賛と栄華を得たとき、それに強く固執する。たとえそれが、虚栄虚飾にまみれた汚いものであっても……。 シップ》


 《プルルル……、金の匂いに人びとは群がる。そうして取り巻きは悪党の手先に成り下がる……。愚か者よ、偽善と綺語で人びとをあざむたぶらかした罪は激甚げきじんであるぞ! ゲイル》


 《プルルル……、勇気を振り絞ってのMeToo運動。それは世界に波及した。それなのに人間の記憶はすぐに薄らいしまう……。だけど結局さ、見え透いた嘘はバレるんだ。生存中は露見せずに済んだとしても、逃げ切れたわけじゃない。だからまあ、死没後に覚悟して? イレーズ》



 あなたが誰かをだましたりすると、その人は悲しむ。

 だまされたことで何か損を受けたから、その人は悲しんでいるのではない。

 その人がもうあなたを信じ続けられないということが、

 その人を深く悲しませているのだ。

 今までのようにあなたをずっと信じていたかったからこそ、

 悲しみはより深くなるのだ……。

 (ニーチェの言葉)



 《プルルル……、『善を装った悪』を守る行為、それは隠蔽いんぺい汚辱おじょくだヨ! その真相は、どれほどけがれているのかねェ? クロス》



 魔導師・イレーズはうたう。 


 霧は大地の欲望のようだ。叫びもとめている太陽をかくしてしまう。

 私たちは世界を読みまちがえる。そして世界が私たちをあざむくのだという。

 その災害を誇る暴力は、散ってゆく黄葉や、すぎゆく雲に笑われる。

 刹那せつなの騒音は永遠の音楽をあざわらう。

 

 真夜中 病床の朦朧もうろうとした視界に 思いもかけず 

 寝もやらぬあなたの姿をみとめるとき、わたしは思う。

 天空の無数の星々が いつまでも 

 わたしの生命の必要を認めてくれているのではないか、と。

 それからまた あなたがわたしのかたわらを離れるとき、

 不意に 恐怖の心が目を覚まし、 

 冷酷な世界の恐るべきに わたしは気づく。

 (詩聖・タゴール)



 魔導師・シップは、もう一度謳う。


 ギタンジャリ・33

 昼間、男たちはわたしの家にやって来て、言った。

 「お宅で いちばん小さな部屋を拝借するだけでよいのです。」

 それから男たちは

 「あなたの礼拝のお手伝いをいたしましょう、そして神の恵みを 

 わたしたちの分け前だけ 謹んでちょうだいしましょう」

 こう言って、部屋の隅に坐ると、静かに おとなしくしていた。

 けれども、夜陰に乗じて、彼らは強引に 荒々しく

 わたしの内なる聖堂みやにわりこんできて、穢れた欲望をもって

 神の祭壇から供物を奪っていった。

 (詩聖・タゴール)



 教育においての毒薬とは。

 たとえば、自分とは違う考えの者を排斥はいせきし、

 自分と同調する者を尊重するよう若者に教え込む。

 すると、その若者は確実に駄目な人間になってしまう。

 群れること、頼ること、相手に合わせることを上等な価値として若者に教え込む。

 すると、若者は自己を見失い、どうしようもない人間が出来上がってしまう……。 

 (ニーチェのことば)


 

 未來王は謳う。


 陽光の差す生命の鳥のまわりには、昼も夜も死の限りない歌が高まっている。

 真理の流れは、錯誤の通路を通って流れる。

 平和がその汚物をせっせと掃き清めるとき、嵐は荒れる。

 世界は私に絵で話しかける。私の魂は音楽で答える。

 (詩聖・タゴール)



 魔導師・クロスは、スティーヴィー・ワンダーの『ステイ・ゴールド』を歌う。

 ♪

 経験したすべての事象や出来事は時を重ねて古びていくだろう 

 だけどそれは輝いている…………



 はるかなる世界と、広い生活を、長い年々の誠実な努力で、

 絶えず究め、絶えず探り、完了することはないが……、しばしばまとめ、

 最も古いものをとらえ、快くあたらしいものをとらえ、

 心は朗らかに、目的は清く、それで、一段と進歩する……。

 (ゲーテのことば)



 愛の手だてを尽くして改心を求める……。

 (ガンディーのことば)



 魔導師・ゲイルとイレーズは、キマグレンの『LIFE《ライフ》』を歌う。

 ♪

 ホントの自分 ガマンして伝わらなくて

 君は、君のために生きていくの…………



 平和は強制できるものではない。

 それは理解することでしか、到達することができないものであるから……。

 (アインシュタインのことば)



 王と魔導師4人衆は目を閉じてしばし祈る。

 未來の進展、安寧あんねいを祈る……。

 遠くを吹き抜ける風が、モーツァルトの『魔笛』を奏でた。



 王は切なげにため息をつく。

 本来は、すぐれた人間ほど、他の者より損をするはずなのです。

 のために生きることが、生きる価値であることを知っているからです。

 シップ、ゲイル、クロス、イレーズよ、

 『本物の有智うち者』を見つけたら、『永遠の未來』を与えてください……。


 プルルル……、

 だく! 承知致した。 

 諾! かしこまりました!

 諾、すべて、仰せのままに……。 

 Yes(諾)……、王のためなら、なんだって…………

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