第16話

 「……エリクさん。コーヒー、入れときましたので」

「……ああ」

俺はゆっくりとコーヒーに手をのばす。温かく、どこか心が落ち着く。

「エリクさん」

サヤさんは俺の顔を覗き込む。その意志がこもっているピンクの大きな目を見て、俺はどうでもいいことを考えていた。サヤさん……カラコンでも入れてんのか? ピンクの目って……いや、異世界ならありえなくもないか。……胸でかいなあ。俺は異世界にきて変態に目覚めたか。

『元々じゃない?』

……そうかも。

「エリクさん。スラマさんとルーナさんを取り返しましょう」

「は?」

いや、無理だろ。スラマもルーナも自分の意思で消えたんだぞ。

「エリクさん。エリクさんはスラマさんのことが好きですか?」

もちろんだ。俺はうなずく。

「では、ルーナさんのことは?」

ちょっと怖いけど。俺はうなずく。

「好きなら取り返さないといけません。だって、友達なのでしょう? 特に……スラマさんは長いこと一人ぼっちでしたから、友達というのが分からないんだと思います。それを教えてあげるのも、追いかけて説得してあげるのも友達の役目です。あの……えっと、要するにですね、スラマさんを説得しようという話です」

「サヤさんの言うことは分かるよ。でも、スラマは話を聞いてくれなかった」

「それだけで諦めるんですか?」

サヤさんの言うこともごもっともである。だけどさあ……

「とりあえず、スラマさんの行き先の心あたりはありますか?」

「ねえよ……」

俺とスラマはお互いのことをよく知らないままペア組んだしな。分からないことだらけなのである。

「それじゃあ、街の人に聞いてみましょう」

「……分かった」

俺たちはとりあえず立ち上がった。


 でもどういうことを聞けばいいんだ? スラマについて教えてくれと言っても分かんないだろうしなあ。

「えっと……行きつけの店とか知らないですか?」

行きつけの店かあ……あ、スラマを奢ってやった店ってどこだっけ?

『なんて名前だったかしら。確か……「肉盛りだくさん」みたいな』

なんだよそれ。聞いたことねえよ、そんな適当な名前の店。

『聞いてみたら?』

無いと思うけどな。

「なあ、サヤさん」

「はい、なんでしょう?」

「『肉盛りだくさん』っていう店知ってる?」

「ええ。近くの店ですよね」

あんのかい!

 確かにあの時の店だったわ。

『どう? すごいでしょ! 褒めて褒めて!』

はいはい。すごいですねー。

『何よ。その棒読み口調は』

今、忙しいんだよ! 中に入るとそこには親父が。そういえばあそこの店、名前見てなかったな。

「親父~」

「おお、今日はスラマはいないんだな」

「まあ、ね……あのさあ、スラマについて教えてほしいんだけど」

「アイツなあ……あんまり自分のことあんまり話さないからなあ」

まあ、そうだろうな……

「あ、そういえば、アイツの故郷は知ってるぞ」

故郷⁉ もしかしてアイツ、自分の家に帰ったのか⁉ 有力候補かもしれねえ!

「サヤさん!」

「はい! 行きましょう!」


 教えてもらった街に行く。とてもにぎやかな街だな。

「スラマさんの家はどこなのでしょう……」

「えっと……地図を書いてもらったから見ようか」

「そうですね!」

すっ……と地図を取り出す。え、汚っ……何これ。なんかの模様ですか?

「え、えっと……と、とりあえず街の人に聞きましょうか……」

「あ、ああ……」

親父があんなにも字が汚いなんて……読めなかったんだけど。

『汚すぎね』

親父に言うなよ? おっさんはみんなメンタル豆腐なんだから。

『ってことはあんたもおっさんなわけ? ていうか、私、話しかけられないんだけど』

グサッ……! そうでした……あとおっさんって言わないで? 俺はまだ二十代だぞ。

『うるさい。ゲームオタク』

俺は自分の心を守るためにアイラの声をシャットダウンする。

「あ、あの……エリクさん? 大丈夫ですか?」

「え、あ、うん。大丈夫だよ! 全然平気! スラマどこなんだろうな!」

 とりあえず俺たちは街の人に聞き込みをすることにした。

「あ、あそこのフード被ってるヤツに聞こうぜ」

「そ、そうですね!」

「すみませーん」

「なんだ」

そう振り返ったソイツは……スラマだった。

「………」

突然で声が出なくなる。ああ……情けない。

「チッ。お前たちか。わざわざここまで来るとは」

「おにいちゃん、おともだち?」

スラマの後ろからひょこっと出てくる。ライちゃんだ。スラマの家系は美男美女が多いのか? めっちゃ可愛いじゃん。

『キモ……』

シャットダウン。

「いや」

「友達だ!」

ギロッとスラマが睨む。本当のことですので。

「おともだち!」

「そうだよ~」

「おにいちゃんのはじめてのおともだちだね!」

やっぱりコイツ、友達いなかったんだな……可愛そうなやつめ。死ぬ前、陰キャの俺でも一人は友達がいたぞ。そう思いを込めてスラマに哀れみの目を向ける。

「貴様、今、失礼なことを考えているだろう」

何のことやら。

「とにかく帰れ!」

スラマがそうキツく言うとライちゃんがいきなりスラマに抱き着いた。

「おにいちゃん、めっ!」

固まるスラマ。スラマよ。分かる。分かるぞ。ライちゃん可愛いよな……

「おにいちゃんのおともだち。おこったら、めっ!」

スラマは何も言えない。ライちゃん……助かるよぉ~。結局、スラマはライちゃんに説得? されて渋々俺たちについてくることになったのだ。

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