第37話 Time after time(拓弥)R18

【Caution!】

37話『Time after time(拓弥)』はR18作品です。

男女間の性描写があります。 

18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。


27話(同じくR18でした)と同じくらいの度合いの描写ではありますが、こちらは拓弥視点なので、ちょっと濃いです。

そして、このお話はストーリー上、絶対に必要なので、36話まで読んでくださった皆さんには、ぜひとも読んでいただきたいです。(読めば、意味がわかります。ただの蛇足のエロじゃないよ!)

もちろん、苦手な人はここで回れ右、でお願いします。そして、わたしのことはきれいさっぱり忘れてください。


いいですか?

警告しましたよ?

OK、望むところだ! という方は、以下からどうぞ。


* * *


「じゃあ、書類は明後日にでも受け取りに……」

「ああ、すいません、実は明日からお盆休みに入りまして」

 いつもの営業スマイルに、ちゃんと申し訳なさそうな雰囲気を漂わせつつ、軽く頭を下げる。

「来週まで事務所が閉まるもので。書類は休み明けまでにご用意いたします」

「そうか。お盆は休みか、世の中は。接客業なんかしてると、世間と感覚がずれまくって、そんなことすら忘れてしまう」

「本当にお疲れ様です。なんだか、休みだ、と浮かれているようで心苦しいですが」

 いや、実際、浮かれている。というか、もうすっかり心ここにあらずだ。さりげなく腕時計に視線を落として、あと1時間ほどで新幹線が着く、なんて考えてしまう。

 先生だっていつもお忙しいんでしょう、思い切り羽を伸ばしてくださいよ、お盆くらい、なんて言われて、若干後ろめたいくらいだ。

 残りのコーヒーを飲み干し、さてと、と立ち上がったクライアントを出口まで見送る。

「小野田先生、お盆連休中、ご予定はなにか?」

「ええ……まあ、人に会う約束が」

 人、の前に「好きな」という形容詞をあえて省略して言葉を濁したぼくに、「あー、そういうこと」と言いたげな様子で、相手は意味ありげな視線を送ってくる。

「うち、お盆も通常通り営業してますから、ぜひ。飲み物くらいサービスしますよ」

「あはは……ありがとうございます」

 このクライアントは、さ来月に某所へ移転予定のイタリアンレストランのオーナーだ。移転に伴う不動産関連の手続きをぼくが担当している。

 何度か職場の食事会で使ったことがあるが、雰囲気のいい素敵な店だった。料理もとてもおいしいし、間違いなく美也子さんも気に入るだろう。

 プライベートを依頼人にさらけ出すのもどうかとは思うが、ちゃんと付き合っている恋人なんだから、一緒にいるところを見られたところで、別段まずくはあるまい。

「連休中の予約は、まだ空きがあるので、よかったらお連れ様とご一緒に。午前中にお電話いただければ、テーブルは確保しますよ」

 待ってますよ、としっかりちゃっかり営業して、クライアントは帰っていく。扉が完全に閉まるまで笑顔を貼り付けたまま、深々とお辞儀をした。

 よし、今日の仕事は――というか、連休前の仕事はこれですべて終わりだ。

 そそくさと応接コーナーの片付けをして、自分のデスクに戻る。面会の前にきっちり帰り支度をしておいたから、机上は見事なまでに綺麗だ。

 連休後の予定が書きこまれたto do リストが、PCのディスプレイ脇に貼り付けてある。各種書類・手続きの締め切りと、面会予定、待ち合わせ場所などをざっと再度頭に入れてから、鞄を手に席を立つ。

 5時10分。今日は、絶対に残業しないと決めていた。

「お先に失礼します」

 残っている同僚二人に声をかけ、ぼくはさっさと事務所を出た。


 アパートとは反対方向へ向かう電車に乗り、新横浜へ向かった。新幹線は、6時に到着予定だ。

『がんばって仕事を片付けたから、連休が始まる前日は半休をもらえそう』

 電話の向こう側の嬉しそうな声を聞いた翌日、すぐに駅まで行って新幹線のチケットを予約して彼女に送った。早く会えれば、その分だけ長く一緒にいられる。普段離れている分、会える時間は有効に、かつたっぷり堪能したい。

 約2週間ほど前、長野へ出張に行った折に夕食に誘い、まあ、いろいろあってぼくと美也子さんはめでたく付き合うことになった。一緒にいられたのは4時間ほどだけれど、実に濃密な晩だった。いろんな表情を見て、ますます好きになったし、少しずつぼくに心を開いてくれる彼女が愛おしくてたまらなかった。

 シーソーを比喩に用いて話してくれた過去の恋愛については、正直、胸が痛んだ。具体的な話は避けていたが、高校時代の恋人――ファーストキスの相手だという――とは、遠距離恋愛に発展する以前に別れを告げられたらしい。傍にいられないと、好きでい続ける自信がない、と正直に言う、ずるい男だった、と。

 所詮は高校生だ。あの美也子さんにそんなことを言うなんて、てんでガキだな、と思い出しても忌々しい。それでも、一緒にシーソーから降りられただけ、ましだった、と彼女は言っていたが、そのクソガキよりもさらにクズなのが、彼女をひとり残したまま他の女と別のシーソーに乗っていた、というもうひとりの男だ。おそらく、遠距離恋愛をことさら忌避するようになった彼女のトラウマの直接の原因は、そのクズな浮気男にちがいない。

 よりにもよって、あの美也子さん相手に、そんな真似をするとは。というか、美也子さんの代わりに他の女に手を出すとか、クズを通り越してミジンコ以下だ。生まれ変わっても、せいぜいアメーバだ。というか、もう二度と生まれてくんな。

 しかも、傍にいられないと、気持ちが凪いでいくのは仕方がない、だと?

 実に身勝手な言い分だ。不誠実な自分を正当化しようとする、ろくでもない奴だ。できることなら、目の前に座らせて、言葉の限りを尽くして卑しさと下劣さを徹底的にあげつらい、再起不能になるまで精神を破壊し尽くしてやりたい気分だ。本気になれば、そのくらい朝飯前だ。弁護士なめんなよ。

 電車の中で、ひとり腹立たしくなりながらも、まあ、一番傷ついているのは美也子さんで、たとえ仕返ししたところでその傷が癒えはしないのは、重々わかっている。時間をかけて、ぼくが忘れさせてあげるしかない。

 本当に好きなひとに会えない寂しさは、他の何かでぜったいに埋まるはずもない。別の女に手を出したところで、好きなひととの愛ある行為には遠く及ばないだろうに。

 ぼくなら、美也子さんのことを考えながら、ひとりで抜いてるほうがよっぽど幸せだ、なんてつい品のない妄想をしてしまう。実際、会えない間、さんざんおかずにしたことは、本人には口が裂けても言えないが。

 別れ際にキスをしたときのことをうっとり思い出しながら、思わずため息がこぼれた。ああ、髪、いい匂いだったなぁ。腕に閉じこめた身体は、見た目どおりにすごく柔らかくて抱き心地最高だった。唇や舌の感触も、思い出すだけでたまらない。本当は、キス以上のことだってやりたくてたまらなかったけれど、あの日はちゃんと我慢した。時間を気にせず、思う存分抱き合える次の機会を待とう、と。

 今日から数日、ずっと一緒にいられるだなんて、もう、幸せすぎる。

 くるくる変わる豊かな表情、気持ちのいい実に率直な物言い、そして嬉しくも共通の趣味である源氏物語への深い知識と考察。

 とどのつまり、美也子さんの全部が愛おしい。そう伝えたくて、居ても立ってもいられないのだった。


 6時少し前に着いて改札前で待っていると、ほどなく人込みに交じって彼女が出てきた。きょろきょろぼくを探しているらしい仕草がとてもかわいくて、思わず、美也子さん、と呼びかける。

 すぐに気づいてこちらを見たその顔がふわりと綻んだ。

「こんばんはー。久しぶりだね」

「お久しぶり、美也子さん。疲れたでしょう?」

「ううん。本読んでたらあっという間。意外と近いな、ってなんだか嬉しくなったかも」

 こちらこそ嬉くなるような台詞を口にしながら、美也子さんが微笑む。ああ、やっぱりかわいい。荷物持つよ、と旅行バッグを受け取りながら、ぼくはじっと彼女を眺めた。

 午前で仕事が終わって、一度家に帰って支度をしてから来たのだろう。髪は、今日はまとめずにおろしている。毛先だけゆるくカールしていて、ふわっとしている。

 ノースリーブの茶色いサマーニットに、上品な花柄のフレアスカート、そしてニットと同じ色の茶色いサンダル。今日もきちんとおしゃれしてきてくれたのがよくわかる女性らしいスタイルだった。

 ああ、そして、脚。やっぱりとても綺麗だ、と思わず見とれそうになる。膝丈のスカートから覗くふくらはぎは、夢のように柔らかそうで見ているだけで幸せな気分だ。正直、すぐにでも触りたい。

 そして、その上のニットはやばい。ぴったり身体にフィットしているから、大きめの胸がしっかりばっちりその存在を主張している。どうしたって、そこに目が行く。というか、他の男どもに惜しげもなく晒してここまで来たなんて、絶対ダメだろ、それ。

「なあに? なんか変?」

 不躾に見すぎていたらしく、彼女のいぶかし気な声ではっと我に返った。ポーカーフェイスを貼り付けてとっさに言い繕う。

「今日も素敵だなぁ、って」

「そう? ありがとう」

「でも、美也子さん、その服……エロい」

 思わずぽろっと本音が出たぼくに、美也子さんの目が睨むみたいにすうっと細くなる。やばい、これ、絶対ドン引きしてるな。

「エロいのは拓弥さんでしょ。会うなりなんなの? えっち」

「……すいません、ちょっと調子に乗りました」

 もはやお約束になってしまったやりとりだ。美也子さんは、すごく可笑しそうに、あはは、と笑ってぼくの手を取った。

「やっと会えたね。嬉しい」

「うん、来てくれてありがとう」

「こちらこそ。新幹線のチケット、送ってくれてありがとうね」

「いやいや、当然だよ。ぼくが来てほしかったから」

「あたしも来たかったし、すごく会いたかった」

 人目がなければ、このまま抱きしめてしまいたいくらいかわいいことを言う。

「お腹すいてるでしょう? まず夕食にしよう」

「もう、ペコペコ」

「ここだといろいろあるよ。何が食べたい?」

 尋ねたぼくに、美也子さんはにっこり笑ってこう言った。

「お肉。肉食女子なので」

「お。こっちも肉食男子なので、負けられないな」

「なんの勝負なんだか……あ、夕食、あたしに奢らせてね。新幹線のチケット代、払ってもらっちゃったし」

 そんなのいいのに、と言うと「ダメダメ。どっちかが無理するとしんどくなるから。なるべくちゃんと平等にね」と美也子さんはぼくの手を引っ張った。

「行こ? ご飯食べて、早く帰ろ?」

 

 時間が早いせいか、いつもは混んでいる鉄板焼きのお店が運よく空いていたので、カウンターに横並びで座って、仲良くサイコロステーキを堪能した。相変わらず、美也子さんは気持ちよく美味しそうにたくさん食べていた。まさに、肉食女子を自称するだけあって、いい食べっぷりである。お肉以外にはズッキーニの素焼きが特に気に入ったらしく、こちらもおかわりしていた。

 お酒は二人とも一杯だけにした。もちろん、このあと部屋に帰ってからのあれこれを考えて控えたわけだ。特に口には出さなかったが、お互い、ちゃんとそれがわかっていた。

「ワインとかビールとか、軽く飲めるのものは何種類か買っておいたから、あとで何か飲みたくなったら、部屋で飲もう」

「うん。ありがとう」

 もちろん、あとで、ね。 


 電車で最寄り駅へと戻り、アパートまで10分ほど歩いた。8時半になろうかという時刻で、さすがに少しは涼しくはなってきたものの、むうっと生ぬるい空気が辺りを包み込んでいた。今朝、出勤前にエアコンのタイマーをセットしてきたから、部屋はちゃんと涼しいはずだ。

 手をつないで歩きながら、お互いの仕事のことなどをぽつぽつ話した。連日かなり忙しくてずっと残業だった、という彼女は、確かにちょっと疲れているように見えた。

「今日ね、どうしても半休にしたかったの。だって、早く会いたくて」

「そう言ってもらえてすごく嬉しいよ」

 当初は、ぼくがまた長野まで会いに行こうと思っていたのだけれど、彼女がどうしても横浜まで来たい、と言ってくれたのだった。

 あの晩以来の、ちゃんとしたデートだ。しかも、今夜から3日間、彼女はぼくの部屋に泊まるのだ。明日からは朝から晩まで、ずっと、ずっと一緒にいられる。幸せすぎて、怖いくらいだ。

 アパートに着いて、部屋まで案内する。4階建ての割と大きめの棟が3つあり、そのうちの真ん中の棟の4階にぼくの部屋がある。

「ずっとここに住んでるの?」

「うん。司法修習が終わって今の事務所に就職した時に、引っ越したんだ。勤務先が近いから、便利で」

「広そうだね」

「そうでもないよ。2LDK。といっても、リビングは結構狭い」

 エレベーターを降りて、すぐ斜め向かいの部屋のドアにカギを差し込む。

「どうぞ。入って」

「お邪魔します」

 先に彼女を促して、玄関のドアを閉める。ついでに、鍵とチェーンもちゃんと掛けておく。

 よかった。エアコンが効いていて、ちゃんと涼しい。

 靴をそろえて部屋に上がった彼女に続いて、ぼくも靴を脱ぐ。

「やっぱり広いね、それにずいぶん綺麗に……」

 言いかけて振り返った彼女を抱きすくめ、そのまま唇を重ねた。さっき飲んでいたカシスソーダの味がほんのりする。肩から腕、背中をゆっくり手で辿りながら、唇を割ってそのまま舌を差し込んだ。腕の中の身体がやや緊張しているのが伝わってくるものの、抵抗する素振りはなかった。素直に口を開いて口づけに応えてくるのが、たまらなくかわいい。

 ちゅるっ、と下唇を食んで、そのまま唇をほおから耳へと滑らせ、耳朶を口に含んだ。んっ、と鼻に抜けるような吐息を漏らして、彼女の身体が小さく震えた。

 耳の輪郭を唇で辿りながら尋ねてみた。

「シャワー、浴びる?」

「新幹線に乗る前に、お風呂入ってきた」

「だからか。髪、すごくいい匂いがする」

 肩から首筋へ滑らせた手を髪へ通しながら、地肌に指を滑らすと、彼女がふうっ、と悩まし気に息を吐いた。

「でも、歯磨きしたいな」

「わかった。じゃあ、ぼくはその間にシャワー浴びてくる」

 いったん身体を解放すると、恥ずかしそうに目を伏せた。旅行カバンを手に取ると、くるりと僕に背を向けた。

「……続きは、またあとでね」

 やばい。かわいすぎるし。もう、この場で押し倒してしまいたいくらいだ。

「うん。すぐだから、ソファーでくつろいでて」

 

 歯磨き、トイレの横にある洗面所でどうぞ、と美也子さんに声をかけてから、ひとまず自分の部屋に鞄を置いた。

 ネクタイを解いてハンガーに掛けてから、着替えを持って浴室へ向かった。

 ズボンはとりあえず脱衣所でハンガーに掛けておいて、簡易クローゼットの扉にひっかけておいた。着ていたものを脱いで洗濯機の上の籠に放り込む。

 あまり待たせるのも悪いから、なるべく急いでシャワーを済ませた。ドライヤーでざっと髪を乾かして、ついでに歯磨きもしておく。

 Tシャツとジーンズに着替えてリビングに戻ると、美也子さんはソファーに座ってぼんやりしていた。

「お待たせ」

「早かったね」 

「早くこうしたかったから」

 ソファーに座る美也子さんの両肩を掴んでそっと立たせ、ぎゅっと抱きしめた。ちゅっ、と小さく口づけてから、手を引いて寝室まで連れていく。

 ベッドに座らせてからすぐ隣に自分も腰かけると、美也子さんの手がすうっとぼくの肩に伸びてきた。

「あたしも……早くこうしたかった」

 二つの小さな手がぼくの肩から首筋へと滑ってきて、そのままほおをそっと挟まれる。潤んだ眼がぼくを見つめていた。

 たまらず、彼女の頭の後ろに手を滑らせて無理やり引き寄せ、かぶりつくように唇を重ねた。そのまま、ベッドに倒れ込む。重くないように気遣いながら覆いかぶさって、彼女の脚の間に膝を割り込ませる。後頭部に回した手はそのままに、もう片方の手で薄手のスカートを少しだけたくし上げ、柔らかい太腿をそっと撫で上げる。そのまま脇腹から腕へ、肩へと手を滑らせながら、ふっくらやわらかな唇を夢中で貪る。あの日初めて触れて以来、何度も何度も反芻し、再び思う存分こうやってキスするのを待ち焦がれていた。

 わざとぴちゃぴちゃ音を立てて舌を絡ませ、歯磨き粉のミントの味がする歯茎、歯列を繰り返し舌でなぞる。やはり、美也子さんは素直に口を開いて積極的に応えてきた。腔内を犯すように奥へ奥へと舌を伸ばすと、苦しそうな吐息が鼻に抜ける。それでも、逃れようとはせず、健気に唇を奪われ続けている彼女はなんて愛おしいのだろう。こっそり目を開けてみると、目を閉じ、恍惚とした表情の美也子さんがいて、身体の奥が浮き上がるようにぞくぞくする。

 やばいって、これ。キスだけでこれだ。これからもっとあれこれしたら、どうなってしまうのか。

 後頭部に回した手をうなじから耳へと滑らせる。人差し指で耳の輪郭を辿ってから耳朶をくるくるなでると、彼女がぴくっと震えた。

「んんっ……」

 ああ、耳、弱いのか。それなら――

 いったん唇を解放し、そのまま耳へと滑らせる。耳朶をちゅるっと音を立てて吸い上げて、舌先で耳の輪郭を何度も辿った。

「あぁっ……」

 ふるっと肩を震わせて、美也子さんが小さくのけ反った。すごくそそる仕草で、見ているだけでどうにかなりそうだった。ぼくはそのまま夢中で耳を執拗に攻め続けた。唇で挟んだり、舌で舐めたり、舌を差し込んでみたり、わざと音を立ててちゅるりと吸ってみたり。もう片方の耳も、人差し指と親指でくるくる撫で上げる。動きに合わせて、びくっ、びくっ、と彼女の身体が震える。必死で耐えるような表情が、もうたまらない。

「やばい……かわいすぎる」

「やっ……いじわる……」

「してほしいでしょ、いじわる」

 だって、すごく気持ちよさそうだし。綺麗な形の耳にそんな言葉を注ぎ込む。美也子さんは睨むように目を細めながらも、ふうっ、と押し殺したような吐息を漏らすばかり。もっと、もっと。濡れて半開きの唇からは、そんな声さえ聞こえてきそうだ。

 耳から首筋へと唇を滑らせながら、ああ、キスマークを付けたくなる気持ちもわかるかも、なんてぼんやり思う。でも、さすがにやらない。仕事中は髪をまとめている彼女に、とてもそんなことはできない。こうしていても、頭の隅でぼくの理性はちゃんと健在だった。

 というか、どうせ付けるなら、ぼくしか見えないところがいい。

 肩から二の腕へと手を滑らせながら、そんなことを思う。二の腕、やっぱりとっても柔らかい。

 ああ、もう、最高。美也子さん、どこもかしこも最高。

 ふと思いついて、二の腕の内側に唇を寄せる。ここならいいかもしれない。

 舌で唇を湿らせて、ちゅっと強く吸い上げた。んっ、とかわいい声が鼻から抜けるのを聞きながら、何度か繰り返すと、あっけなく白い二の腕にぼんやり赤い痕が残される。

「……つけちゃった、キスマーク」

「え……」

「首じゃないから、いいよね?」

 身体をよじって二の腕の内側を見てから、美也子さんは小さな声で言った。

「ばか」

「いいよ、ばかで。でも、美也子さんのせいだし」

「どうしてあたしのせいなのよ?」

 ちょっと怒った顔で睨んだところで、ちっとも怖くなんてない。

「だって、かわいいから」

 二の腕から、手を胸へと滑らせる。ニット越しにもしっかり存在を主張する胸のふくらみは、手のひらに収まり切らないほどの大きさで、うっとりしてしまう。しかも、すごく柔らかい。

「いいな、美也子さんのここ。大好き」

「……言わないでよ、いちいち」

 恥ずかしいのか、ことさら怒ったように言ってくる。でも、その目ははっきりと潤んでいる。積み重なった心地よさでしっとり濡れて、明らかにぼくを誘っていた。

「最高。大きいし」

「えっち」

「肉食男子としては、ね」

 遠慮なく、両手で鷲掴みにする。触っているだけで、幸せすぎておかしくなりそうだ。

 きゅっ、きゅっ、と執拗に服の上から揉んでしばし感触を楽しんでから人差し指で先端部分をくりくり押すと、彼女の身体がまたびくっ震えた。

「やっ……あっ」

「気持ちいい? ああ、でも、物足りないよね」

 ニットの裾から手を入れて、今度はブラジャー越しに押しつぶす。人差し指と親指を使って少しだけ強めに。びくっ、びくっ、と身体を震わせる様子がかわいらしくて執拗に続けていると、切羽詰まったように彼女がつぶやいた。

「ね……直接、触って」

「どうしようかな」

「……おねがい」

 吐息交じりに懇願するその声は、潤んだ瞳と同じようにぼくを惑わせる。反則並みのかわいさ、というかエロさだ。この声を思い出すだけで、彼女が帰ったあとも確実に最低3回は抜ける。いや、5回はいけるかも。

 背中に手を回そうとすると、「前だよ」と教えてくれた。言われた通り、二つのふくらみを包み込むブラジャーの真ん中あたりをねじると、カチッとホックが外れて胸元が緩んだ。そのままニットと緩んだブラジャーを一緒に脱がせて、ベッド脇の椅子 ――背もたれのないスツールで、主に普段は寝る前に読んだ本を置いている――の上に放った。きちんと掃除機をかけているとはいえ、床に落とすのは気が引けた。自分の服ならともかく、美也子さんの服は、さすがに。

 ぼくも、着ているものを脱いだ。Tシャツもジーンズをまとめて床に放り投げた。

「スカートも脱いじゃおうか?」

 うつむいたまま、わずかに首が縦に動くのを確認して、ウエストの左側のホックを外し、ファスナーを下した。するりと脱がせて、やはりスツールに置く。

 やばいって、これ。ほんとに、やばい。綺麗すぎる。

 さっきはずしたブラジャーとおそろいらしい黒い下着しか身に着けていない彼女を見下ろしながら、自然と息が荒くなった。

 白い肌と下着の黒のコントラストが、たまらない。豊かな胸から細いウエストを挟んでふっくらした太腿へと続くゆるやかな身体のラインから、目をそらせない。そしてもちろん、ふくらはぎからも。

「ちょっ……そんな風に見ないで」

 おそらく、ぼくの舐めるような視線にいたたまれなくなったのだろう。抱きしめるように両腕で胸を隠そうとするから、とっさに手首を捕まえて動きを封じた。再び、彼女の太腿の間に膝を割り入れる。素肌同士が触れて、死ぬほど心地いい。

「見せて。ずっと見たかったんだ」

「え、えっち」

「そうだよ。エロいことばっか考えてたよ。悪い?」

「……ばか」

 はっきりしっかり赤くなった顔でつぶやいて、美也子さんはうつむいてしまった。その唇にキスを落としながら、手首を解放し胸へと両手を滑らせる。

 吸い付くようなきめの細かい肌の感触に夢中になりながら、柔らかなふくらみを両手で揉みしだく。ああ、ほんと最高。どこもかしこも、最高。

 中指と親指で先端部分をつまみ、その頂を人差し指でくりくりと刺激する。あっ、と短く声を上げてのけ反る彼女を薄目を開けて見ながら、しばらく続けていると、びくっ、びくっ、と身体が撓った。

 下唇をちゅるっと食んでから、そのまま首筋、鎖骨へと舌先を滑らせる。胸への刺激と相まって、さっきからずっと彼女の身体は小さく何度も震えている。鎖骨の少し下あたり――おそらく、よほど胸のあいた服を着ないかぎりは見えないであろう部分を、湿した唇でちゅっと強めに吸いあげた。何度も繰り返し、再び赤い花びらが咲いたのを確認してから、さらに唇を下へと滑らせる。手で胸全体を包み込んだまま、先端部分をちゅっと吸いあげると、彼女の反応が微妙に変わった。

「んっ……あぁっ……」

 たぶん、あちこちがとても敏感になって、少しの刺激でも反応してしまっているのだろう。

 いいよ、何も考えずに、そのまま溺れてしまえばいい。 

 半ばむしゃぶりつくように夢中で吸い上げる。左右の胸、代わりばんこに指先と唇で執拗に弄びながら、無防備に喘ぐ彼女をぼくはじっと見ていた。こんな姿を晒して心地よさに溺れる彼女から、一瞬たりとも目を離せずにいた。

 もう少し焦らしてとことん困らせたかったけれど、さすがにぼくも苦しくなってきた。膝に触れる彼女の柔らかな太腿は、あまりに心地よかったし、おそらくすでにたっぷり濡れているであろうその付け根部分は、暴力的なまでにぼくを誘っていた。

 片方の手を胸からするりと脇腹へ、お尻へと滑らせた。ものすごく柔らかくて、触っているだけで幸せな気分になる。たまらなくなって、もう片方の手も胸から下へと滑らせて、両手でお尻を掴む。

「美也子さん……こっちも最高」

 えっち、と唇だけが小さく動く。目を閉じたまま、すでにろくに口もきけないでいる彼女は、ぼくの手の動きに合わせて身体を震わせるだけだった。

「すごくかわいい」

 おしりから、太ももの付け根部分へ指を滑らせる。下着のクロッチ越しに触れたそこは、予想通りしっとり濡れていた。

「脱がせていい? このままだと、かわいい下着が汚れちゃいそうだから」

 返事を待たずに下着をずり下げる。はっきり糸を引いているのが見えて、自然と息が荒くなった。

「もう汚れちゃってる。糸引いてるよ」

「やっ……」

 脚から引き抜いて、さっきと同じようにスツールの上に置いた。手に触れたふくらはぎの感触がたまらなくて、思わず唇をつけてしまう。

 ちゅっ、ちゅっ、と何度もキスをして、反射的にここにもキスマークをつけてしまいたい、と思ったけれど、さすがに我慢した。真夏だと素足でばっちり目立ってしまうし、たとえストッキングを穿いても、妙な色の痣は透けて見えてしまうだろう。

 変な男の妄想を煽りかねない、と冷静に思って、ただキスをするだけにとどめておいた。ぼくのようにふくらはぎフェチはぜったいどこかにいるはずだ。

 手でいいだけさんざん撫でまわして、舌でも何度もぺろりとふくらはぎを舐め上げる。

 やばい、やばい、これ、ほんとにやばい。初めて見たときから、美也子さんの脚、好きで好きでたまらなかった。特にこのふくらはぎ。ずっと、ずっと、こうやって好きなようにしてしまいたくてたまらなかった。

「やっ、やめてぇっ……あっ……んんっ」

 くすぐったいのか、それとも気持ちがいいのか、焦ったように身体を捩りながら、彼女が喘ぐ。ぷるぷると爪先まで小刻みに震えている。

 もしかしたら、こんなこと、今まで一度もされたことはなかったのかもしれない。ごめんね、変な性癖持ってて。このふくらはぎだけで、しばらくおかずには困らない。

 ふと、彼女が不自然に腰の辺りをくねらせ始めた。ああ、さすがに焦らしすぎた、と反省する。

「ごめんね。こっちも、触ってほしいよね?」

 ふくらはぎからすうっと右手を滑らせ、そのまま太腿の付け根にある濡れた花弁を開く。くちゃっ、とはっきり音を立ててぼくの中指を飲んだそこは、温かくたっぷり蜜を湛えていた。

「あぁぁっ……ん」

 待ちかねたように、彼女が一際切なげに喘ぐ。かわいらしい声に煽られて、差し込んだ指で無遠慮にぐるりと中をかき回した。うねるように内部が指に絡みついてきて、ぞくぞくした。そのまま、ぼくはゆっくり指を動かし始めた。

「すごい。ねえ、いつからこうなってた?」

「んんっ……んっ……」

 羞恥なのか、それとももう、わけがわからなくなっているのか。ただ、いやいやするように首を振る姿がたまらなく愛おしかった。指を抜き差ししながら、快感に溺れるかわいらしい顔をじっと見つめる。

「ぐちゅぐちゅいってる。ねえ、聞こえる? すごくエロい」

「やっ……あっ……あっ……」

 かわいらしい喘ぎ声が寝室に響き渡る。我慢ができなくなって、指を引き抜いて思わずむしゃぶりついた。

 太腿の間に顔をうずめて、ぺちゃっ、ぺちゃっ、とわざと音を立てて濡れた粘膜を唇で弄び、そのままずるりと舌を差し込んだ。

「やめてぇっ……あぁぁっ」

 言葉とは裏腹に、身体ははっきり悦んでいる。ほしい、ほしい、と待ち焦がれて雫を垂らしている。とめどなくとろりと奥からあふれてくる蜜をすべて受けるように、ぼくは夢中で舌を動かした。

「あぁっ……やっ……だめぇっ」

「んふっ……こっちもほしいよね?」

 引き抜いたばかりのたっぷり濡れた指で敏感な蕾を押しつぶすと、ひときわ大きく彼女の身体が撓った。

「いやぁぁっ……」

 ぎゅううっ、と中がはっきり締まるのがわかった。びくっ、びくっ、と綺麗な桃色に塗られた足の爪先まで震わせて、彼女が喘ぐ。

 かわいらしい声をあげる彼女の目じりには、うっすら涙が浮かんでいた。


 はあ、はあ、と苦しそうに息を吐く美也子さんの肩を、ぼくはしばしそっと抱いていた。かわいらしい姿が愛おしくてならない一方、このまますぐにでも中に入ってさらに乱れる姿を見たいとも思ってしまう。

「ごめんね、ちょっと待って」

 こめかみにそっと口づけてから、ベッドの側面についている引き出しを開ける。箱の封を切って一つ取り出して袋を開け、すっかりがちがちに硬くなったのそこに素早く着けた。

「……ねぇ」

 背後から呼びかけられて振り返ると、しどけなく横たわったままの美也子さんの濡れた瞳にぶつかった。

「そのままで平気だよ。あたし、ピル飲んでるから」

「え」

 思わず目を見開いてしまうぼくに、ちょっと困ったような、恥ずかしそうな複雑な表情で彼女はこう続けた。

「いつも会えるわけじゃないでしょ? だから、アレ、ぶつかっちゃうと、なんか盛り下がっちゃうから」

 言ってから、あ、とばつが悪そうに視線が泳いだ。

「……ごめんね。前も、そうしてて」

 前、とはつまり、以前に遠距離恋愛していた頃も、ということか。

「今する話じゃなかったね。ごめん。引いちゃった?」

 黙って首を振って、ぼくは彼女の隣に戻った。そっと肩に腕を回す。

 あのね、と小さな声で再び彼女は話し出した。

「何しに来たんだ、って言われたことあってね、前。せっかく会いにきたのに、やれないなんて、なんだそれ、って」

 あのクズ男か。この世から消えてしまえ。

 ぶわっ、と反射的に耐えがたいほどの怒りが湧き上がってきたが、どうにか堪えてぼくはただ彼女の髪をなでていた。

「まあ、そうだよね、って、なんか申し訳なくなっちゃって。それから、ぶつからないように、婦人科行って、処方してもらうようになって……」

 あはは、と彼女は無理に作ったような笑みを浮かべた。

「まあ、あたしも、会ったらなるべくならやりまくりたいって思うタイプだから、お互いさま、っていうか……まあ、肉食女子だし?」

 さり気なくぼくに背を向けた彼女を、後ろからそっと抱きしめた。さっき湧き上がってきた怒りはまだ到底収まりそうになかったけれど、それ以上に、彼女への愛おしさで胸が静かに満たされていくのがわかった。

 さばさばして見えて、はっきりと率直な物言いをする美也子さんが、その心のうちに閉じ込めた、まだ癒えぬ傷。たぶん、それはまだ瘡蓋かさぶたにすらなっていない。上手に包み隠して明るくふるまいながらも、心の奥深くでは生傷のままうっすら血を滲ませている。

 それをこうやって明かしてくれたことが、ぼくは嬉しい。

 身体と共に、心も開いてくれようとしているのが、ぼくは本当に嬉しい。

「……ごめんね、変な話して。盛り下がっちゃうよね、せっかくこれから、って時に」

「まさか。むしろ、ますますかわいく思えて、めちゃくちゃにしたくなってきた」

「……うっそ」

「ほんと」

 髪にほおずりして、そのまま口づける。唇を耳元まで滑らせて、そのまま耳朶を食む。

「こっちも肉食男子だから、むしろ、俄然やる気なんだけど?」

「……それってどうなの?」

 肩越しに呆れたような視線を向けてきた彼女の唇を、そのままふさぐ。ちゅっ、と音を立てながらしばらくキスをして、唇が離れた隙に囁いた。

「いや?」

「……ううん」

「お。いい子。うんと気持ちよくしてあげる」

 覆いかぶさるように首筋に顔をうずめる。ちゅっ、ちゅっと何度も何度も口づけながら、後ろから両手を胸へと滑らせる。優しく揉みしだきながら、先端をねっとり押しつぶす。

 さっきの余韻がまだ十分に残っているようだ。新たな刺激に彼女はすぐさま敏感に反応した。

「あぁっ……まって……」

「だめ、却下」

 首筋から舌先を耳まで滑らせて、耳朶をちゅるっと吸いあげる。耳が弱いのはもう知ってる。輪郭を舌先で辿りながら息を吹きかけると、ふるっと身体を震わせて彼女が吐息を漏らした。

 胸の先端と耳を同時に弄ばれながら無防備に身体を震わせる彼女は、もう早切羽詰まったような声を上げ始めた。

「あっ……あっ……」

 片方の手を胸からするりと脇腹へ、太腿へ、そしてその付け根へと滑らせ、る。さっき上り詰めた余韻が未だ冷めやらず、とろりと濡れてぼくを誘っていた。

 ぐっ、と一気に指二本を根元まで差し込んで、そのまま抜き差ししながら蕾を親指でぐりぐり押しつぶす。

「いやぁぁっ」

 唇と舌先は耳を、片方の手は胸の頂を、もう片方はこうして蜜を溢れさせる花弁を。すべて同時に攻めたてられて、彼女は悲鳴のような声を上げてのけ反った。

「ねえ、このままもう一回イク? それとも、挿れてほしい?」

 彼女の手がそろりそろりと滑ってきて、ちょうどお尻の辺りに触れていたガチガチのぼくに触れた。

「……わかった」

 指を引き抜いて、後ろから入口を探った。硬くなった先端をあてがって、そのままぐっと腰を進める。あぁっ、と一際大きな声で喘ぐ彼女のウエストを両手で掴む。窮屈な入口をこじ開けてずぶりと温かみの中に飲み込まれていくと、すさまじいほどの心地よさが下腹部の奥に鈍く広がった。

「はあっ……きつっ……」

 とても濡れているのに、奥の方はみちみちと音をたてそうなほど狭かった。半ば無理やりこじ開けるようにしてすべて収めると、あまりに気持ちよくてもうわけがわからなくなりそうだった。

「はぁっ……痛くない?」

「んっ……へいき。すごく気持ちいい……」

「よかった。動くね」

「んっ……あ、でも、ゆっくり、して……」

「うん。わかった」

 ウエストを掴んだまま、ぼくはゆっくり動き始めた。

 柔らかなお尻が下腹部に触れるのが、すごく気持ちいい。それに、たっぷり濡れた中の粘膜がねっとり絡みついて吸い付いてくる。心地よさのあまり、自然と動きが速くなる。彼女を気遣う余裕を失いそうになる。

「ああっ……んっ……んんっ」

「はっ……やばい……すごく気持ちいい」

 ずちゅっ、ずちゅっ、と繋がった部分からはっきりいやらしい音がする。

 ウエストから両手を胸へと滑らせる。まるで羽交い絞めみたいな恰好で後ろから揉みしだいて、くりくりと頂を指で押しつぶすと、あっ、とかわいい声を上げて身体がびくっと撓った。同時にぎゅうっ、とはっきり奥が締まるのがわかる。

 搾るように締め付けられて、死ぬほど気持ちがいい。そして、切羽詰まったような喘ぎ声が、ぼくをなおさら煽る。あっ、あっ、と動きに合わせてのけ反る彼女のうなじに唇を押し付けながら、ぼくは夢中で奥を突きあげた。

 しばらくそうやって何度も腰を打ち付けてから、いったんぼくを引き抜いた。彼女を仰向けに寝かせて、ぐいっと両脚を左右に開く。

「やっ……」

 恥ずかしいのだ、とわかって逆に嬉しくなってしまう。そういう顔が、見たくてたまらなかった。悪趣味だと言われても、どうしようもない。男なんてそんなもんだ。好きなひとの恥ずかしそうな顔が、どうしようもないほどそそるのだ。

 手で顔を隠そうとする仕草もたまらなく可愛いけれど、やっぱり見たい。

「顔、見せてよ」

「やだっ……」

「見たい。っていうか、ぼくのこと見て」

 ぐぐぐっ、と開いた脚の間に怒張したぼくを押し込み、蜜を滴らせる温かな花弁に再び沈み込んでいく。絡みつく中の粘膜を捲りあげてめりめりとこじ開ける感覚に、どうしようもないほど身体が昂っていく。

 生まれたままの姿を横たえ、美也子さんが甘やかな喘ぎ声をあげている。うっとりと目を閉じ、ただただ心地よさに溺れている。そんな彼女から、ぼくはどうしたって目をそらすことができない。

「あぁぁっ……」

「ね、見て。ぼくを見て」

 動きながら、彼女に呼びかける。快感に翻弄され、顔を歪めながら喘ぐ彼女が、ゆるゆると瞼を開く。潤んだ瞳がうっとりぼくを見つめてくる。

 かわいい。ほんとうに、すごくかわいい。

「好きだよ……美也子さん、大好き……」

「んっ……あたしもっ……」

 両脚を抱え込んだまま、ぱちん、ぱちん、と腰を打ち付ける。ふくらはぎを指で舐めるようにするりと撫でながら、ああ、やっぱり最高だ、ともう10回目くらいに思った。

「……拓弥さん……すき……」

 吐息交じりの可愛らしい声が、耳をとおってぼくの全身へと広がっていく。頭のてっぺんから足の先まで、この声に包み込まれて、幸福という名の蜜に溺れてしまいそうだ。

「すき……あぁっ……」

 そう、そうやって、今はぼくのことだけを考えてほしい。他のことは、全部忘れて、ぼくのことだけを。

 繋がったままで上半身を傾け、彼女に覆いかぶさるようにして背中に手を回す。そっと彼女の身体を起こし、そのままぼくの太腿にのせるようにして跨らせた。

「ねえ……今だけでいいから、何もかも忘れてよ」

 向かい合わせになってぴったりくっついたまま、ぎゅっと彼女を抱きしめた。顔を傾け、腔内を犯すように深く口づけながら、唇伝いにぼくの想いを注ぎ込む。

 忘れてよ、クズ男のことなんか。

 ぼくで、いっぱいになってよ、美也子さん、お願いだから。

「……もう……忘れ……るっ」

 唇が離れた一瞬に、彼女がつぶやいた。

「あたし……もう……あぁっ……」

 あなただけでいいの――

 吐息なのか、喘ぎなのか。それとも、ただのぼくの身勝手な妄想の中の幻聴なのか。

 再び彼女のウエストを掴んで揺さぶりながら、ぼくはただ目の前の愛しいひとを見つめていた。

 ぼくと繋がって、ぼくに貫かれて、ぼくを飲み込んだままで、ぼくでいっぱいになって、ぼくに溺れるこのひとを。

「あぁぁっ……もっ……いっ……」

 のけ反って、大きくびくっとその身体が撓る。ぎゅううっ、と痛いほどきつく締め付けれられて、ぼくももう、限界だった。

「はぁっ……うっ……」

 彼女をきつく抱きしめたまま、ぼくは全てを吐き出した。


 ぼくにもたれかかったまま、美也子さんはしばらく苦しそうに肩で息をしていた。向かい合わせでつながったまま、ぼくたちはしばらくぼんやりしていた。

「……拓弥さん」

「ん?」

「だいすき」

 彼女はぎゅっ、とぼくの身体に腕を回して目を閉じた。とてもかわいらしい仕草で、胸の奥がなんだか切なくなるほどだった。

「ぼくも。大好き」

 同じように、彼女の身体をそっと抱きしめて、髪にほおずりした。やっぱりとてもいい匂いで、いつまでもこうしていたいくらいだった。

「ねえ、美也子さん?」

「なあに?」

「ピル飲むの、やめな?」

「……うん。わかった」

 まるで、そう言われるのがわかっていた、とでもいうように彼女は素直にうなずいた。

「体調悪くなる女性もいるって、聞いたことあるし」

「あたしは平気だったよ?」

「まあ、それでも……」

 ぼくは彼女の髪をなでて、そっと唇を付ける。

「安心していいよ。ぼくは、絶対言わないから」

「なにを?」

「なにしに来たんだ、なんて、絶対言わないよ」

 ぼくの肩から顔を上げた彼女を、じっと見つめる。

 少しでも安心させてあげたい。そう思うと、自然と笑みが浮かんできた。

「言うわけないよ。だって、美也子さんのこと、全部好きだから。こうやって抱き合うのはさ、もちろんものすごく幸せだし、できたら毎日だってこうしていたいって思うけど……でも、好きなひととなら、ただ一緒にいられるだけで、いいんだ。話してるだけでも、ただ手をつなぐだけでも、どこかに出かけて、二人で美味しいものを食べるだけでも、すごく幸せだ」

 気づくと、彼女の唇が震えていた。そして、見る見るうちにその瞳からは涙があふれ出した。ほおを伝う涙を掬い取るように、ぼくは口づけた。

 また泣かせてしまった。もう、泣くところは見たくはない、と彼女の兄に釘を刺されたのに。

 けれど、泣き顔すらかわいい彼女が愛おしくてたまらない。彼女の流す涙さえもが愛おしい。こうしてぼくの唇を濡らす雫を、最後の一滴まですべて舐めてしまいたいくらいに。

「ついでに、誓っとくよ。浮気なんて、ぜったいしません」

「うん……信じる。っていうか、わかってた」

「お。嬉しいなぁ」

 彼女は泣き顔のまま、微笑んだ。

「拓弥さん、絶対にそういうことするひとじゃないって、あたし、わかるもの」

 嬉しい、とただ思った。言葉の裏に隠された何かに思いを巡らせるいとまもなく、ただただ、胸に染み渡る。

 日々、言葉を操って仕事をしているぼくにとって、他人の言葉ほど信じられないものはない。嘘を吐いているかどうかなんて、すぐわかる。実際、世の中は嘘吐きだらけだ。依頼人でさえ、時に平気で噓を吐く。だから、誰かの言葉をすぐに信じるだなんて、普段のぼくならぜったいにあり得ない。けれど。

 美也子さんの言葉は別だ。このひとが口にする言葉は、たとえそれがなんであろうと、ぼくの中ではかけがえのない真実だ。

 あまりに嬉しくて、つい――口が滑った。

「うんうん。美也子さん以外の人とやるくらいなら、美也子さんのこと考えながら、ひとりで抜いてた方が数百倍幸せだし」

「え」

 固まっている彼女にかまわず、ぼくは続けた。

「想像力には自信があるんだ。っていうか、この場合、記憶力か。さっきの声とか、顔とか……もう、しばらく困らない。ああ、おかずにするのはかまわないよね? どうでもいいAVとか見るより、よっぽど健全だっていうか……」

「ばか! えっち!」

 ぺちっ、とほっぺたを叩かれてしまった。一度も見たことのないほど真っ赤な顔をした美也子さんに。

「っていうか、そういうの、いちいち報告しなくていいし」

「わかった。じゃあ、こっそりやる。会えない時ね」

「ばか」

「はい。すいません」

「やらないって選択肢はないわけ?」

「ない。男は誰でもやってる」

「……うっそ」

「嘘じゃない。ほんとのほんと」

 まだ赤い顔のまま黙ってしまった彼女に、ちゅっ、と口づける。

「……安心していいから。もう、美也子さんに夢中だから、ぼく」

 

 後片付けしてシャワーを浴びてから、少しだけお酒を飲んで、またベッドに戻った。抱き合って何度も何度もキスをして、じゃれ合いながらあれこれおしゃべりをして、再びぼくらは服を脱いで抱き合った。

 すっごく幸せ、と何度もつぶやく彼女と身体を重ねながら、ぼくもこれまで感じたことのないほどの幸福感で満たされていた。

 あの晩、二人で聴いたあの曲のフレーズのように。

 Time after time

 I tell myself that I'm

 So lucky to be loving you

 いつもいつも、自分に言い聞かせてるんだ、ぼく。

 あなたを愛していて、ほんとにラッキーだ、って。

 

 And time after time

 You'll hear me say that I'm

 So lucky, so lucky to be loving you

 いつもいつも、聞くことになるよ、あなたは。

 ぼく、あなたを愛していて、ほんとに、ほんとにラッキーなんだよ、って。

 

 続くフレーズを思い浮かべながら、ぼくは彼女を思う存分抱きしめる。かわいくて、どこもかしこも最高な、世界一大好きな彼女を。 

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