十三本目 キイラ
「いてて……」
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫大丈夫、そんな大げさに心配してもらうものじゃない」
オークの死体のそばで、俺は新人君に応急処置をしてもらっていた(といっても、額の切れた傷を縛ったりする、本当に軽いもの)
「俺の方こそ悪いね……助けるつもりが助けられた」
申し訳ない顔でそんなことを言うと、新人はバッと手を離して大げさにリアクションを見せた。
「そんなことないです!! 先輩が来て下さらなければ、僕は絶対死んでましたっ!!」
「そうかぁ……? それならいいんだが……」
なんだか、人懐っこくて親しみのある少年だった。」
「――はい、これで動く分には問題ないかと!」
「おぉ、手際良い……新人にしては慣れてる?」
「あ、アハハ……昔ちょっと習ったことがあるだけですよ」
少し表情を引きつらせる少年。――俺は『無駄に詮索してしまった』と少し反省して、立ち上がった。
「とにかくありがとう。えっと……」
「キイラです!」
「ありがとうキイラ。――俺はアルティ。とりあえずギルドに帰るまでよろしく頼む」
「はいっ!」
握手代わりにキイラに手を貸し、彼を立ち上がらせる。
「とにかくここを出よう。――どうにも今日はおかしい」
「そうなんですか?」
「あぁ、毎日こうなら、ギルドが銅級に
いつでも応戦できるように、俺は剣を構えながらキイラを連れて歩き出す。
「ってきり、僕はこんな所なんだと思ってました……」
キイラの言葉が、どこまでも彼が新人であることを突き付けてきて、俺は冒険者の先達としても責任感を強く感じ始める。
―――……とにかく周囲への警戒を高めて、オークとの接敵を…………
その時だった。
オークが目の前の茂みから出てきたのは。
「ッ――――!!」
喉が干上がる。
たった一匹、一度の戦闘ですでにボロボロなんだ。
そう何度も戦えるわけが――!!
『……』
しかし、つぎの瞬間、オークはそのまま
「あ……れ……?」
これには、戦闘態勢に入っていたキイラもあっけにとられている。
「……これは」
絶命していたオークの背中には、一振りの
ならば答えは一つだろう。
「……あれ? アルティ?」
木々の闇の向こう側から姿を現したのは、
「ちょっ――ブランさん!? な、ななななんかデカいの引きずってますが……!?」
再会の挨拶よりも先に、俺は驚愕が口から飛び出してしまった。
そんな俺に少しだけ笑みを見せると、ブランはそのまま近づいてくる。
「見てみてアルティ、森の奥にこんなやつが居たよ」
「いっ……!?」
わざとらしく獅子頭の魔物を見せつけてくるブランに、俺は情けなくも一歩後ろへ引いてしまう。
…………というか、今にも嚙みつかれそうな形相で死んでいるため、こう、何というか、根源的な恐怖を覚えているのだ。
「……し、死んでるんだよ……な?」
恐る恐る俺は、人の頭など丸かじり出来そうな獅子頭をのぞき込む。
「ワッ!! ――となることはないよ」
ブランの大きな声に、この日一番の俊敏性を見せたことは、誰にも言いたくない。
年上をからかう金級冒険者は……その時だけは年相応に笑っていた。
※ ※ ※
「そっか……ごめんねアルティ。――私が油断してたばかりに」
俺は雑木林を抜けるとすぐに、ブランに治療をしてもらった。
今はゆっくりと三人でギルドに戻るところだ。
「何言ってんだ。――
自分の言葉になんだか、
「それに、今回俺がハーピィに連れ去られなければ、コイツを助けることはできなかったしな」
俺とブランの話を聞いていたキイラを、俺は話題を向ける。
「ほっ、本当にありがとうございました!!」
何度目かも知れない感謝の言葉に、俺は照れくさくてプラプラと手を振る。
「……そういえば、この子は――」
改めてキイラの顔を覗くブランは、ギルドでの一幕を思い出したのか、『あぁ……』という顔をしている。
「は、初めまして!! 僕、キイラって言います!!」
「初めまして。同じギルドのブランです」
「ブランさん——……ブランさんって強いんですね!!」
「ん? ん~……周りの人はそう言ってくれることは多いね」
そこで、俺は『ん?』と首を傾げる。
———ブランに対してこの態度……コイツ、ブランのことを知らない?
まぁ、確かに、いくらブランが金級の冒険者と言えど、一般市民の全員がブランを知っているとは限らない。
だが、少なくとも『冒険者になろう』と思った人間が知らないのは珍しい気がする。
———けどまぁ……そーゆー人間も……いるのか……
しかし、俺は頭の中でそう結論を付ける。
その時だった。
「お、お願いがありますっ!!」
改まった態度で、キイラは大きな声を出す。――その声があまりに大きくて、隣にいた俺は鼓膜に何かが突き刺さったんじゃないかと勘違いして、一人でクラクラする。
「……どうしたの?」
ちなみに、俺を挟んで少し離れていたブランは何ともないようだ。
不思議そうに——それでいて、ほんの少しだけ
「僕……お二人の強さに感銘を受けました……!」
「えっ?」
「……それで?」
まるで幼い少年のように目を輝かせるキイラ。
褒められると思わなくて呆けている俺とは対照的にブランは何を察しているのか、その柳眉にまた少しシワが刻まれる。
「ぜひ……ぜひ僕をお二人のパーティに入れてください!!」
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