十一本目 遭遇
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
俺は心臓が跳ね上がった。
突然のことだったこともあるが……よりにもよって、一刻も早くここを脱出したいときに他の冒険者と思わしき声を聞いたからだ。
「…………ッ!!」
心はすぐにでも逃げ出したかった。
――だが、足は心とは対照的に勝手に走り出していた。
「クソ……!!」
ここは新人がゴブリン退治に多く訪れる場所。――普段なら、処理しきれない数のゴブリンに襲われて悲鳴を上げているかと推測するだろう。
だが、今は違う。
ゴブリンが入り口に現れ、山岳地帯に居る筈のハーピィに襲われている明らかな
きっとこの先でもロクなことが起こっていない。
そして、その予感は腹が立つほど的中していたことをすぐに思い知る。
———アレは……アイツは………
「ぁ………ぁぁ………」
ギルドにいた金髪の新人冒険者。
彼が、
「クソ……!!」
オークは森の奥に住む魔物だ。
その力は、低級の魔物とはいえ、ゴブリンを遥かに凌ぐ。――今の俺には勝てない相手。
「だあァァァッ!!」
しかし、震える息を全て吐き出し、オークへ飛び掛かる。
『……!?』
オークは横合いから飛び出した俺にいち早く反応し、後方へ大きく退いた。
「あ、あなたは……」
俺はとりあえず新人からオークを庇えたことに安堵しながら、オークの前に立ち塞がる。
「……動くなよ。――今日のココは様子がおかしいから、一緒に行動する」
「わ、わかりました……!」
『うんうん』と頷く新人。
――きっと今の彼には、俺が英雄のように見えてるんだろう。
だが、残念ながら助けに来てしまったのは冴えない銅級冒険者だ。心の中で新人に謝罪しながら、俺は彼が不安にならないように、頑張って堂々と振舞う。
『ブルルルゥゥゥ……』
そこで、オークがうなり声をあげ、俺は言葉を打ち切らざるを得なくなる。
「…………」
震える手で武器の柄を握り、抜剣。
オークも、まるで俺に合わせるように腰から石で出来た杜撰な刃を抜く。
———石製……前も使ってたな……
その見た目は、まるで巨大な包丁だ。――三メートルを超えるオークにも引けを取らない。
「……」
静かに相手の獲物を観察し、情報を頭に入れこみ————剣を構える。
そして……
『ブォォォォォォォォォッ!!』
開幕の雄たけびと共に、オークが全力で突っ込んでくる。
音圧や、恐怖が前面に出た迫力に押されるが……
「っ……!!」
柄を思い切り握り、俺も一歩前に出る。
——上段……盾で受ければ…………盾の上から腕を持ってかれる……!
振り上げられた刃を瞬時に分析すると、剣を横に構えてオークの剣に備える。
『オォォッ!!』
すぐ迫る刃。――それは、俺の剣とぶつかると、ほんの一瞬でとんでもない力を俺の両腕に伝える。
一秒と一秒の間。
俺はオークの刃を、剣先を下げることで下方へ持っていく。――力の流れる方向をコントロールしたのだ。
だが、初めて戦う巨体。あまりの力で繰り出された一撃をこのままでは流しきれないと踏んだ俺は、腕全体を大きく回すことで、オークの力を地面へ落とすことに成功する。
「はあッ!!」
そのまま回した腕を振り上げて、返す刃で俺はオークの左肩から右の脇腹に掛けて一撃を加える。
のだが――
「かッッた!?」
オークの分厚い皮膚は、うまく両断できず、巨体の薄皮一枚を裂く程度に収まる。
『ブオォッ!!』
刹那――オークの拳が真横から迫る。
「ぐッ……!?」
咄嗟に盾での防御が間に合うが——あまりの膂力に、身体が浮き上がり、俺は近くの巨木まで吹っ飛ばされる。
「ぐぁ……!」
背中を巨木にぶつけ、ズルズルと地面に落下するが、俺は頑張って着地するとすぐに動き出す。
『オォッ!!』
オークが再び迫っていたからだ。
「……っ!!」
拳を振り下ろしてきたオークは、真横に飛び込む俺を捉えようと無造作に刃を振う。
俺は、その刃が浅くブーツの底を切り裂き、戦慄しながらもオークの攻撃を回避し続ける。
——盾で防御したハズなのに……痺れが……っ!!
先ほど、俺を捉えたあの拳。
長年積み重ねてきた経験のおかげで、咄嗟に威力の三割ほどを受け流すことに成功してはいた。――だが、それでも尚、ありえない衝撃が盾を持つ腕に伝わり、ジンジンと痺れているのだ。
しかし、俺の腕の痺れが収まるまで待ってくれる相手ではない。
『ブモォォォォォォォッ!!』
オークの拳が地面を砕く。
「しまっ——!!」
次の瞬間、砕かれた瓦礫が俺の顔面にぶち当たる。
「ッッッ!!」
人間の拳よりは少し小さいだろうか。――猛烈な勢いで飛んできたソレは、俺の左目の少し上に当たり、俺に出血を強いる。
「って……!!」
切れた額から溢れ出る血が、視界を赤く染めた。
『オオオオォォォォ!!』
だが、それでも立ち止まることは許されない。
———ジリ貧だ……! 攻めなきゃ……終わる……ッ!!
拭っても赤く染まる視界に、舌打ちしたくなる気持ちを抑えて走りまわる。
——だが実際どうする……!? あんな分厚い皮……身体強化なしの俺には斬り裂けないぞ……!!
何度も斬りつければあるいは、絶命するほどの一撃をお見舞いできるだろう。――それをオークが許してくれればの話だが。
突き刺せば、『斬る』よりはダメージも入るだろうが……腕力が必要なことに変わりはない。
——突き刺す……?
刹那、自身の目を拭う手を見て、俺は思いつく。
「――やるしかない」
痺れの取れた腕で、全力でオークの攻撃を逸らし、呟く。
死ぬにはまだ遠い。
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