放火魔の逆襲? -3-


「──────茶番劇はここまでだ。……貴様ら、」

「なるほどー、で納得しちゃうんすかっ!? あんたなんていうかマジで頭と懐どうなってんっすか!?」

「そんなこと言われてもなー。俺からするとファンタジーって何でもありだしそーいうこともあるかなって……」

「ボクからしたらあんたのほうがよっぽどファンタジーですよっ!?」

「えー? でもさぁ……」

「──────ッ、ハハハハハッ!! アハハハハハッ!!」

 ──────突然聞こえてきた笑い声に、オレはリョウとの漫談(?)を止めた。

 ………ちぇーっ。ごまかせるかなーと思ったんだけど。

 声のした方を向けば、立ち並ぶ木の後ろから、布製の帯で顔を半分隠した銀髪の男が現れた。

「ああ、あー、うん。アンタら面白いね、うん。状況わかってる? アンタら、いちおーさぁ、俺の傭兵に狙われてるんだけど?」

 自分の傭兵であるらしい顔にいくつも傷のある男に手をやりながら、ヘラヘラと眼帯の男が笑う。

 ちらり、とリョウの方を見れば目が合って、小さく頷かれる。

 どうやら『件の連中』らしい。 

「生憎とこちとら、冒険者なもんでね。それなりの感謝はされども恨みも多いんで」

「知ってるよ。王都リューンの『こもれび』の看板冒険者……『水獅子』のイーハイ=トーヴさん。会えてうれしーよ」

「オレは君に会えたところで全っ然嬉しくないな。」

「そんなツレないこと言わないでよ。ちょっとアンタの魂もらうだけでこっちは用が済むんだからさ」

「そりゃ、簡単で奇遇な話だな。オレも君のやってる事を止めれば用が済むんでね」

 もう一度腰の剣に手を掛ける。眼帯の男の隣に立つ傭兵の目が少しだけ鋭くなったように感じた。

 眼帯の男に戦闘能力があるのかは分からないが、少なくとも相手は精霊術師だ。

 一筋縄で行くとは全く思わないのが心情だった。

「あ、ちょっとちょっと。交渉させてくんないの?」

「君は自分の命を狙うようなやつに、命をくれと言われたら差し出すのか?」

「えー、しないなあ。だってムカつくじゃん」

「ムカつくかどうかはさておいて、そういうことだ」

「えぇ、どういうこと? なんで命くんないの? 俺はヤだけど、それとこれとは関係ないじゃん」

「──────あー……。リョウ、この人話通じない系?」

「えーと、まぁそうっすよ。第一やろうとしてること考えたら話通じるわけないじゃないっすか」

「それもそーだ……」

「はぁ? なんでよ? 俺は凄く理性的に交渉してるじゃん。選ばせてあげてんだからさ、優しいでしょ、俺? だから命くらいくれたっていいじゃん」

「あー、よく分かったっす。噂には聞いてたけど、思った以上の壊れっぷりっすね。東の精霊協会を壊滅させたのもそんな理由っすか?」

「…………なんだって?」

 リョウが言った言葉に対して、自分の口から思ったよりも低い声が出た。

 リョウは鋭い目を奴らに向けたまま、忌々しげに口を開く。

「東の精霊協会───と言っても、支部の一つですがね。……死傷者多数。かろうじて生きていた人も救出から数時間後には死亡。殆ど生存した人はいませんし、そのうちの一人は近くの海の底で石化状態のまま発見されました。………当然、解呪したところで死亡してましたけどね……石化時にはツギハギになってましたから」

「ああー。そんなこともあったっけ。アッハハ、凄かったよ? どんどん燃えてってさぁ。あんな燃えやすい素材で建物なんか建てちゃだめだよねぇ。それでさぁ、使えないよねぇ。アイツらの魂だけじゃクトゥグアの精霊は喚び出せなかったんだし。あーあ、せめてさぁ、それくらいの役には立ってよって思わない?」

「……………てめぇ、人の命を何だと思ってる………!?」

「ん? いやいや、大切に思ってるよ? 俺を好きな人は好きだし、うん。アイツらがそうじゃなかっただけだもん。そんなのアイツらが悪いじゃん? 自己責任って知ってるでしょ?」

「じゃああんたも自己責任でその罪を償うのが筋だと思えってのがこっちの言い分っす。黙って倒されてブタ箱で済めば良いっすね」

「え? なんで? 俺悪いことしてないじゃん。」

「…………は?」

「なんでそんな反応? 悪いことしてないって言ってんじゃん。アイツらはクトゥグアの精霊も召喚できないようなクズ魂。そんなのどっちみち生きてたってしょうがないよね? 死ねてよかったじゃん?」

「…………………………」

 頭痛がしてきた。

 いや、その頭痛すら煩わしい。

 こんなやつに頭を回そうとしている自分にすら腹が立ってきた。

 言っていることの一つも理解できない。したいとすら思わない。どこまでも。

 気がつくとオレの手は濡れていた。

 無意識に剣から離れた手が拳を作って、いつの間にか爪を食い込ませるほどの力を入れていたのか血が滲むほどになっていた。

「………言いたいことはそれだけか?」

「言いたいこと? いやあるよ。誤解してるみたいだし弁明させてくんない? 元はと言えばアイツらに落ち度があるんだし。そのついでだったわけでさぁ。本当に俺、悪くないから。聞いてくんない?」

「聞く必要ないっす。………どうせくだらない理由しか考えられない。あんたみたいなのにマトモな正当防衛を必要とする気がしない。」

「まぁ聞いてよ。アイツら、俺の大切な秘密を知っちゃったわけ。だから殺す必要があってさぁ。ちょうどよかったってわけ。分かる?」

「全ッ然わかる必要のないバカみたいな話を耳に入れようとしないでくれません……!? いい加減に───」

「──────ぶぐぅッ!!?」

 …………拳に鈍い痛みが奔った。

 気がつけば、オレの眼前には吹き飛ばされてもんどり打つ眼帯の男の姿がある。

 ………口から血を吐きながらゴホゴホとえづく『それ』を心底薄汚いとすら思った。

「イーハイさんッ───!!」

 チャキ、という音が左から聞こえた瞬間、音の聞こえた方を遮るようにして突然地面が隆起して、壁のようなものが作られた。

 ………見慣れた土の精霊ノームの後ろ姿だった。

『………イーハイ、撤退、推奨。戦闘継続、危険。』

 ノームはこっちを向かないまま、静かに告げる。

「ノームさんに賛成っす! 興奮状態での戦闘継続は推奨しませんっ! ……ノームさん、ご主人連れて逃げるっす!」

『術者命令ではない、しかし承知。イーハイ』

「……………わかった。」

 確かに、頭に血が上って全く考えが纏まらない。この状態で戦ってもどうにもならないだろう。

 マントに魔力を流して、飛行能力を作動させる。

「……にひぇ、……逃げる気? こにゃ、こんなことまでやっといて、逃げる気なの!? トラガード! アイツらやっちゃってよ!! 絶対殺せよ!! 絶対に許さないから!!」

「…………………分かった。お前の命令に従う。」

『敵行動、感知。妨害開始』

「…………『生命齎す過ぎ征く水 我が声に応えよ 我が身包み隠す 濃霧の現れとなれ』! 《幽隠霧ディープ・ミスト》!!」

 咄嗟にオレの唱えた【力ある言葉】に反応して、周囲が段々と深い霧に包まれていく。

「リョウ!! 手ぇ伸ばせ!! ノーム! 行くぞ!!」

「ひぇあ! あ、はいっ!!」

『……承知、撤退、遂行。』

 自分の掌すら見えなくなる程の霧を出す魔術だ。向こうがこちらの《生命探知》を行うにはそれなりに時間はあるだろう。

 オレは深くなる霧の向こうで精一杯に伸ばされた小さな手を掴むと、そのまま引き上げて空に向かって飛ぶ。

「わひ……っ!」

「声出すなよ、位置がバレるからな」

「すみませっ……でも、……怖いっす〜……!」

「我慢して!」

『イーハイ、空まで僅か』

 ノームの声が聞こえてから間もなくして、視界が一気に開けた。

「わ、わ、わ、わ……! す、すごいっす、自分で飛行魔法使うときとは違う恐怖がががが」

「しっかり捕まってろよな」

「言われなくてもそうするっす……! ってかむしろそれしかできないっす!!」

「いだだだぐぇぇ!! 気持ちはわかるが本気で首絞めるやつがあるか!!」

「怖いもんは怖いんすよ!! それより早く逃げるっす!! 国境付近であれば大丈夫かもっす、とりあえず離れるのが得策っすよー!!」

「国境? なるほど、目が厳しいからか」

「そゆことっす、というわけで移動はお任せするっす………」

「よし、任された」

 オレはとりあえず、リョウを抱えたまま国境付近の村に向かって飛ぶことにした。

「………イーハイさん」

「………何?」

「表情、戻ってよかったっす」

「…………! ごめん」

「良いっす。頼もしいと思いましたよ」

 その時ちらっと見たリョウの顔は、ちょっと嬉しそうだな、って思って気恥ずかしくなった。





 暫くして、漸く国境付近の村に辿り着いた。

 もう割と日は進んでいて、朝早くに前の街を出てたのもあってやや赤らみかけて既に夕方に差し掛かりそうな位置になっていた。

「あああ、地上っす……」

「お疲れ様」

「お、お疲れ様はこっちのセリフっす……ありがとうございました……」

「大丈夫か?」

「心では信じてはいたっすけど体は正直っす……めちゃくちゃ関節がこう、ぱきょぽきぇって言ってるっす……」

「せめてパキパキとかにしてくれ……色々生々しい」

「無理っす、体は正直っす」

「そっか………。とりあえず、ちょっと休んでてくれ。すぐそこで水汲んでる人がいたから貰ってくるよ」

「えっ。そんな、悪いっす、一緒に行くっすよ。そういうのは自分でお願いするっす」

「そう? 辛かったら手を貸すから言いなよ」

「う………。」

「どうかした?」

「なんか、助けてもらったり手を貸してもらったりばっかりな気がしてるっす……」

「何言ってんの。君は手を借りに来たんだろ。」

「そ、そうっすけど……」

「じゃ、それくらいはするさ」

「……………ありがとうございます。じゃあ、お水貰いに行きましょうか」

 二人で歩きだして程なくして、村の井戸の近くまで来た。

 そこで二人の男性が談笑していて、一人はこの村の人だろう年配の男性で、その隣にいるのは───あれ?

「………あれ?」

「? どうしたっすか? イーハイさん」

「あれって……」

「??? とりあえずあそこにいる人たちからお水を頂くっす。………あのー! すいませーん! ちょっといいですかー!」

 リョウが小走りでその二人に近づいて行こうとしてるから、それに続いて近寄ってみれば。

 ………やっぱり、年配の男性と話していたのは。

「………クリス?」

「あれっ? ………イーハイさん!?」

 オレの仲間の一人の、クリスだった。

「んぇ? あれ、お知り合い……?」

「クリスさん、こちらは?」

 リョウと年配の男性がそれぞれ置いてけぼりを食らったような顔でオレたちに向かって声を掛けてくる。

「あ……。こちらは僕のチームのリーダーのイーハイさんです」

「おお! こちらがあの名高い『仮初探偵事務所』のイーハイさん……! まさか、そんな有名人がこんな辺鄙な田舎に来てくださるとは」

「辺鄙って……イーハイさんはたぶん、頼まれればどこにでも行きますよ」

「………なーんかちょっと引っかかる言い方だなー、クリス?」

「引っかかる言い方をしたんです。なんか嫌な予感がしたんで。」

「ぐっ………クリスくん、いつの間にそんな鋭く」

「何だかんだ、長くなりましたから。付き合い」

「それで、イーハイさん。我々にご用があったのでは?」

「ああ。井戸の水を貰いたくて。そこの女性に」

「はひぇ!? あ、はい……お願いできますか」

「そちらの方に? ああ、どうぞ。そこの水は丁度、旅の方にも飲んでいただいていいものですから。……少々お待ちを。今、椀くらいは用意いたしますので」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ」

 そう言って年配の男性は一度離れていって、近くの色々なものが置かれている棚の方へ歩いていった。

「えっと、それで……イーハイさん?」

「クリス、ずっと『さん』が抜けてないぜ。敬語も」

「え? あ、あー……無意識でし……だったよ。ごめん、イーハイ。それで、そちらの方は?」

「今回の依頼人。リョウ=ツクシさん」

「ど、どうも……」

「初めまして。イーハイの仲間の、クリス=アイラーンです。………それで、イーハイ……休暇じゃなかったの?」

「うーん、そうなんだけどね……」

「とりあえず、後で話を聞かせてよ。その様子だとまだ解決してないみたいだし」

「場合によっては手伝ってくれると助かる」

「勿論。僕で良ければ、協力するからね。」

「ああ、ありがとう。………リョウ? どうかしたのか?」

 何故か、リョウの方を見ると呆けた顔のままでクリスの顔をまじまじと見つめていた。

 んん? クリスの顔になんかついてるのか? 

 二人の顔を交互に見たけど、別に何かに注目してるようには思わないし、クリスも視線の意味に合点がいかないようで小首をかしげている。

 ややあって、ようやく固まってた状態から戻ったリョウがゆっくりと口を開けた。

「………………あの。もしかして……。クリス=アイラーンさんって……『あの』、クリス=アイラーンさん……っすか……?」

「ええっと……『どの』、でしょうか……?」

「『銀眼』の……?」

「ああ、えっと、………一部ではそう言われているみたいですね……?」

「ま、マジっすか……!? いや、あの、イーハイさんのお仲間ってことは聞いてましたが! まさかお会いできるとは思って無かったっす! イーハイさん、単独行動でしたしっ! いやー、なんていうか感動っす! 光栄っす!」

「あ、ありがとうございます……??」

「……なんか、オレの時と態度違くない? 君」

「すんません。なんていうかイーハイさんってもしかしたら変人なんじゃないかって構えてたところに本当に変人だったので」

「どういう意味だよっ!?」

「そのまんまの意味っすよっ!?」

「…………まあ、イーハイが変なのは今に始まった事じゃないけどね……」

「クリスぅ!? なんで今追い打ちしたの!?」

「ちょっとはいろいろ自覚してよ! 今回の休暇だって元はと言えばイーハイがいっつも無茶苦茶するからじゃないか! 生きて帰れてるだけマシだけど少しは僕たちの心配の事も考えてよ!」

「ぐっ……。………ごめんなさい」

「分かればいいよ」

「……なんていうか、アレっすね、イーハイさんってやっぱ普段からこんななんですね」

「普段からこんなですよ……。」

「オレの味方どこぉ……?」

「あの、こっちが命の危険に巻き込んだ側だから言う権利無いと思うっすけど、少なくとも今イーハイさんの味方はいないっす」

「普通に酷くない?」

「……命の危険って、イーハイ……またそういう依頼を受けたの?」

「そこはすみません。ちょっとこちらの事情……というか、うーん、何ていったらいいか……敵側の事情? ……的なものでイーハイさんが標的になってまして」

「……詳しくお話、聞かせてもらってもいいですか?」

「分かりました。とりあえず、お水頂けたら、宿の場所とか聞けないっすかね。イーハイさんを休息させてあげたいんで」

「え、オレそこまで疲れてな……」

「ああ、それなら僕が滞在してた宿があるので、そっちに案内しますよ。酒場もあるのでちょうどいいと思います」

「………二人ともー、オレの意見はー……?」

「「いいから休め!!」」

「………はい。」

 そこで、ちょうど年配の男性が戻ってきて水分補給を済ませて、オレたちはこの村の宿の方まで歩くことになった。


(続く)

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