第4章 激論!生徒会長選挙の展開④

4.4 反撃の狼煙

4.4.1 再起への第一歩

校舎の隅、普段は誰も来ない旧図書館の裏に、私たちはひっそりと集まっていた。


選挙戦はほぼ停止状態。


学校側からの理不尽な圧力により、茜陣営の活動は「不適切」とされ、ほぼ全面的に規制されてしまった。

明確な違反行為は何もしていないのに、「学校の秩序を乱す可能性がある」とか、「本校の伝統にそぐわない活動は慎むべき」だとか、そんな曖昧な理由で、ビラ配りも、演説も、何もかも禁止された。


「これ、もう詰んでるじゃん……」


詩がポツリと呟く。


「そんなの納得できないよ!」

琴音先輩が強く拳を握りしめる。


「……でも、どうするの? もう何もできないのかな……」


栞那が不安そうに呟くと、花音も沈んだ表情で頷いた。


私も悔しくてたまらなかった。―――


こんな不公平なやり方があっていいのか。

けど、怒りだけで突っ走ったら、玲華の言う「自由を履き違えたら、ただのわがままよ」って言葉が現実になってしまう。



これまでの選挙戦を振り返る。

最初は「ギャルになりたい!」ただそれだけの想いだった。

でも、たくさんの人と話して、いろんな考えを知って、少しずつ変わっていった。


そして、ママとの対話。


——私は、ただギャルになりたいだけじゃない。

——みんなが自由に自分を表現できる学校にしたいんだ!


ギュッと拳を握りしめた。


「……みんな、ごめん。私、ずっと“ギャル解禁”ばっかり言ってたけど……本当にやりたいのは、それだけじゃなかったんだ。」


全員が私を見つめる。


「この学校には、ギャルになりたい子だけじゃなくて、本当はもっと自分を出したいのに出せない子がたくさんいる。メイクが好きな子、ファッションを楽しみたい子、ちょっと派手にしたい子、逆にシンプルなスタイルを大切にしたい子……みんなが、もっと自由に自分らしくいられる学校にしたい。」


私の言葉に、栞那、詩、海悠が目を見開いた。


「そうだ……! 私、メイク好きだけど、バレるのが怖くてずっと我慢してた。でも、そんなの本当はおかしいよね……」


「私も。大人っぽいメイクがしたいだけなのに、どうしてこんなにビクビクしなきゃいけないのって思ってた。」


「みんなが自由に、自分を表現できる学校……それって、すごく素敵だよ!」


花音が嬉しそうに微笑む。


「そういうことなら、もっと本気でやるしかないっしょ!」


琴音先輩がニヤリと笑った。


「そもそも、私たちは何も悪いことしてない。選挙戦をちゃんと戦ってきたのに、こんな理不尽なやり方で潰されるなんてありえない!」


「うん……! 絶対に負けない!」



―――その姿を、遠くから見ていた教師がいた。


染谷明日香。


彼女は職員室での話し合いを思い出していた。


「生徒会選挙は、健全な学校運営のために行われるものです。あの子たちの活動は、本校の秩序を乱しかねません。」


教頭の厳しい言葉に、他の教師たちは黙って頷いていた。


でも、本当にそうなのか。


茜たちは何かを壊そうとしているんじゃない。

変えようとしているんだ。


(……私は、教師として何ができるんだろう。)


明日香は、小さく息を吐きながら、考え始めていた。




4.4.2 新たな戦略

「このまま大人しくしてたって、何も変わんない!」


教室の隅で小声ながらも熱を込めて訴えると、周囲の仲間たちが真剣な表情でうなずいた。


選挙戦が激しくなるにつれて、先生たちの監視はますます厳しくなってきた。

放課後の教室での活動も制限され、選挙に関する話をしているだけで注意されることも増えた。


「けど、正面からぶつかるだけじゃなくて、もっと上手くやる方法があるはずだよね?」


そう言ったのは、琴音先輩だった。

彼女は腕を組みながら、いたずらっぽい笑みを浮かべている。


「うちらギャルの本領ってさ、ただ派手に目立つことじゃなくて、ルールの隙間を見つけて自由を楽しむとこでしょ?」


それは、そのとおりだ。

今の状況は、生徒会側が私たちの動きを封じ込めようとしている状態。

ならば、ルールの範囲内で、でも最大限に効果を発揮する方法を探せばいい。


「SNSを活用しよう」


「SNS?」と詩が首をかしげる。


「うん、校内での直接的な選挙活動は制限されてる。でも、ネット上はどう? 学校の公式ルールには『生徒のSNS利用は禁止』とは書かれてないよね?」


琴音先輩がすぐにスマホを取り出して確認する。


「たしかに、個人のSNSアカウントは禁止されてない。ただ、誹謗中傷とか、学校の評判を落とすような行為は禁止って書いてあるけど……」


「じゃあ、選挙活動をそのままやるんじゃなくて、うちらの『想い』を発信していけばいいんじゃない?」


私の言葉に、栞那がすぐに反応する。


「例えば、匿名で『校則に対する意見』を募集するとか……?」


「そう、それ! 『匿名アンケート』を使って、生徒たちの本音を集めよう!」


私たちの空気が一気に活気づいた。


「すっごくいい! 実際、どれくらいの生徒が校則を窮屈に感じてるのか、数字で見えたら、先生たちも無視できなくなるんじゃない?」


詩が目を輝かせる。


「でも、アンケートってどうやって集めるの?」


「Googleフォームを使えば簡単にできるよ。私、作れる!」


海悠が冷静に提案する。


彼女は普段クールだけど、こういう実務的な作業は得意だ。


「じゃあ、設問はみんなで考えよう!」


私は選挙活動用のノートに質問案を書き出した。


《匿名アンケート案》

Q1. 校則についてどう思う?(選択式)

①今のままでいい

②少し緩くしてほしい

③大幅に変更してほしい


Q2. もし変えられるなら、どの校則を見直したい?(記述式)


Q3. あなたにとって「自分らしさ」とは?(記述式)


「いいね……! これなら、生徒の声を可視化できる!」


「でもさ、アンケートのリンクをどうやって広めるの?」


栞那が慎重に尋ねる。


「それはSNSを使うの。私たちの名前は出さずに、共通のタグを作って、みんなに拡散してもらう。例えば『#聖和女子の本音』とか」


「それならバレにくいし、拡散力もある!」


「うちらでQRコードも作って、紙に印刷して、さりげなく生徒たちに渡すのもアリじゃない?」


詩がワクワクした様子で提案する。


「よし、役割分担しよう!」


私はチームを見渡し、それぞれの得意分野を生かした作戦を立てた。


《作戦分担》


◆ 海悠 → アンケート作成とデータ集計担当

◆ 栞那 → QRコードの作成&印刷係

◆ 詩 → クラスの子たちに自然にアンケートを広める係

◆ 琴音先輩 → 上級生にも情報を拡散する役割


「これは絶対に効果あるよ!」


「先生たちが禁止できない方法で、うちらの想いを広める……いいじゃん!」


琴音先輩が満足そうに笑った。


「それじゃ、早速準備開始ね!」


私は拳を握りしめる。


選挙はまだ終わっていない。

私たちの「自由への戦い」は、ここからが本番だ!




4.4.3 『#聖和女子の本音』

選挙戦が本格化する中、私たちのSNS戦略がついに動き出した。

「#聖和女子の本音」のタグをつけた投稿が、じわじわと広まり始めている。


「本当はヘアアレンジしたい!」

「放課後だけリップ塗ってるけど、学校でもできたらいいのに」

「スカート丈をもう少し自由にできたらなあ」


匿名投稿が増えていくたびに、学校の“普通”の裏に隠れていた本音が可視化されていくのが分かった。


「やっぱ、みんな思ってたんだよね」

スマホの画面を見つめながら、詩が嬉しそうに言った。

「でも、こうやって書き込むだけじゃなくて、行動に移す子がどれくらいいるかだよね」

海悠が冷静に分析する。


「そこで、私たちの出番ってワケ!」

栞那が意気込むと、詩も海悠も笑った。


***


栞那・詩・海悠の三人は、それぞれのやり方で“隠れギャル”たちの気持ちをかき立てる作戦を始めた。



栞那の作戦:「学校OKギリギリのアレンジで魅せる」

昼休み、彼女はさりげなくヘアアレンジを披露し始めた。


「栞那ちゃん、それどうやってるの?」

「これ? シンプルだけど、オイルでツヤ感出すと大人っぽくなるよ」

「へえ……!」


普段は真面目な優等生として通っている栞那だからこそ、その変化に気づいた生徒たちが興味を示し始める。



詩の作戦:「放課後ファッション研究会(非公式)」

放課後、こっそりと集まるメンバーを増やし、ファッション雑誌を広げながら「もし校則が自由になったら、どんなおしゃれをしたいか?」を話し合う場を作った。


「えっ、みんなこんなに興味あったんだ!」

「やっぱり、誰かが声を上げれば、ついてくる子はいるんだよ」


詩のノリの良さと明るさで、隠れギャルたちが少しずつ表に出始める。



海悠の作戦:「“大人っぽギャル”の魅力を伝える」

彼女は「清楚=規律正しい、ではなく、大人の余裕を持つこと」というメッセージを発信し、SNS上で「ナチュラルメイクの魅力」「シンプルでも洗練されたスタイル」について語り始めた。


「清楚系ギャルっていうのもアリだと思うの」

「学校のルールを変えられたら、こんなスタイルもOKになるんじゃない?」


***


フォロワーは次第に増え、

興味を持つ生徒が増えていった。



―――「あなたも、もっと自分らしくいたいと思ったことはない?」


匿名アンケート結果が出た。


「校則がもっと自由になったら嬉しい?」

• YES:78%

• NO:22%


「……これ、思った以上に多いね」

花音が驚いた顔で画面を覗き込む。


「みんな、ずっと言えなかっただけなんだよ」

私はスマホを握りしめながら、確信した。


もう“少数派の意見”じゃない。これは、確実に学校全体に広がりつつある声だ。


「この勢いで、一気にいくよ!」

私の言葉に、栞那、詩、海悠が力強くうなずく。


「今まで静観してた子たちを巻き込めば、勝機が見えてくる」

「自分らしくいたいって思ってる子は、絶対にもっといるはず!」


次のステップは、“ただの賛同者”を“行動する仲間”に変えること。


隠れギャルたちは、もう隠れてなんかいない。

彼女たちが動き出した今、この選挙戦は、さらに面白くなる。




4.4.4 学校が揺れ始める

「ねぇ、見た?アンケート結果。」

「え、なにそれ?」


「『#聖和女子の本音』で載ってたやつ!『校則がもっと自由になったら嬉しい?』ってやつ。」


「えっ、そんなのあったの!? で、結果は?」


「YESが78%だって!」


「え、やば……!思ってたよりめっちゃ多いじゃん!」


「やっぱみんな、もうちょっと自由になりたいんだよ……!」


朝の教室に入るなり、そんな会話があちこちから聞こえてきた。


私の演説がバズったのに続いて、匿名アンケートの結果もSNSで広まり、学校全体がざわついてる。


「ねぇ、これさ……もし茜が生徒会長になったら、本当に校則変わるのかな?」


「え、ギャル解禁ってことでしょ? ちょっとメイクしてもいいってこと?」


「やば!リップくらいなら塗ってもいいってこと!? てか、今までどれだけ隠れてやってたか……!」


「スカートも、あとちょっとだけなら短くてもOK……とか?」


「それくらいなら、別に問題ないよね?」



ーーこんな会話、今までの聖和女子じゃ考えられなかった。


でも、今は違う。


机にバッグを置くと、栞那がスマホを見せながら駆け寄ってきた。


「茜、見た? 昨日からまたハッシュタグの投稿増えてるよ! しかも、投票の話題もめっちゃ出てる!」


「マジ!? ちょっと見せて!」


スマホの画面をスクロールすると、「#聖和女子の本音」のタグがついた投稿がずらりと並んでいた。


『アンケート結果見た……! こんなに自由を求めてる子がいるなら、マジで校則変わるかもしれない!?』


『今まで「ルールだから仕方ない」って思ってたけど……そうじゃなくて、「変えられるもの」だったのかも?』


『自由=秩序崩壊、じゃないよね。自分を表現するって、そんなに悪いことなの?』


『私もメイクしたいし、スカートもうちょい短くしたい! 茜ちゃん応援してます!!!』


「……すごいね、これ。」


スマホを見ながら、改めて実感する。


たった一つのアンケートが、たった一つのハッシュタグが、聖和女子の空気を変えている。


「ねぇ、茜。」


隣から、詩が興奮気味に話しかけてきた。


「昨日、トイレで先輩たちが話してるの聞こえたんだけどさ……『今まで隠れてリップ塗ってたけど、堂々とできる日が来るかも!?』って言ってた!」


「マジ!? それ、めっちゃ嬉しい!」


「でしょ!? てか、選挙ヤバくない? これ、本当に勝てるんじゃない?」



ーー確かに、空気は変わり始めてる。


でも、それは私たちだけが感じてることじゃなかった。


***


その日の昼休み、生徒会室。


玲華と舞凛の前には、選挙管理委員会のメンバーが数名座っていた。


「……つまり、ここ数日で『#聖和女子の本音』の投稿が急増し、校則についての議論が活発になっていると?」


玲華が静かに問いかけると、委員の一人が頷いた。


「はい。茜さんの演説が話題になってから、特に『ギャル解禁』についての意見が増えています。」


「アンケートの結果も、かなりの生徒が自由を望んでいることを示しています。」


「これまで、こういう議論はほとんど表に出ることがなかったのに……今では、教室でも普通に話題になっています。」


玲華は腕を組み、目を閉じた。


舞凛も隣で難しい表情を浮かべている。


「……どうするんですか? 玲華先輩。」


しばらく沈黙が続いた後、玲華はゆっくりと目を開け、冷静な口調で言った。


「……議論が増えたからといって、校則の必要性が変わるわけではないわ。」


「っ……!」


その言葉に、委員たちの表情が少し固くなる。


「自由を求める声が増えているのは事実。けれど、それで秩序が守られなくなったら意味がない。」


「私たち生徒会の仕事は、学校をより良い環境にすること。だからこそ、私は茜さんの主張が本当に『学校を良くするもの』なのか、見極める必要があると思っている。」


「つまり……?」


「まだ、静観するわ。」


玲華はきっぱりと言い切った。


「ただし、舞凛。あなたは選挙に出る立場。今後の討論会などで、しっかりとあなたの考えを伝えること。」


「……分かりました。」


舞凛は小さく頷いた。


***


放課後、職員室では染谷明日香が他の教師と話をしていた。


「……『#聖和女子の本音』、ご覧になりましたか?」


そう切り出したのは、3年生の担任を務めるベテランの女性教師だった。


「ええ。匿名とはいえ、正直な意見があそこまで出てくるのは珍しいですね。」


明日香は静かに頷く。


「私たち教師は、どう受け止めるべきでしょう?」


「正直、複雑です。規則を守ることは大切。でも……このままでいいのかと、私自身も少し考えてしまいます。」


「生徒たちの意見は無視できませんね。」


「でも、校則があるからこそ守られている秩序もあります。」


「……けれど、生徒たちが本当に望んでいるのは、ただの反抗ではなく『自分を表現できる環境』なのかもしれません。」


明日香は、小さく息をついた。


「教師として、私たちはどうすべきでしょうね。」


職員室の窓の外では、楽しそうに話しながら帰る生徒たちの姿があった。



校則についての議論は、確実に学校全体に広がっている。




ーー聖和女子が、少しずつ揺れ始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る