第4章 激論!生徒会長選挙の展開②
4.2 公開討論会
4.2.1 討論会の幕開け
「生徒会主催の公開討論会を開催します」
朝のHRで担任の先生がそう告げた瞬間、教室内にざわめきが広がった。
「討論会って、生徒会長選挙のやつ?」
「やば! 舞凛先輩と茜ちゃんが直接バチバチやるの!?」
「ていうか、ギャル解禁なんてほんとにできるの?」
あちこちから飛び交う声を聞きながら、私は内心で拳を握る。
——ついにきた。
私の言葉を、みんなに直接届けられるチャンス!
ここまでの選挙戦では、学校側の規制が厳しくて、演説はおろかビラ配りすらまともにできなかった。
けど、公開討論会なら正々堂々と自分の主張を話せる。
生徒会の玲華先輩が仕組んだものだとしても、これは絶好の機会だ。
「うちら、めっちゃ盛り上げるからね!」
「ギャルの時代、マジで来るかも!」
選挙戦を支えてくれている仲間たちもテンションが上がっている。
……けど、琴音先輩だけは腕を組んで難しい顔をしていた。
「いや、絶対なんかあるでしょ」
「まぁ、玲華先輩が私に都合のいいことするわけないですからね」
「そ。生徒会がわざわざ公の場を用意してくれるってことは、茜の意見を潰すための場になる可能性大。……気を引き締めてかかりなよ?」
琴音先輩の言葉は、鋭くて的確だった。
でも——私は負けるつもりなんてない。
「どんな手を使われても、私は自分の言葉で伝えます」
自分を縛ってきたルールに、私はずっと疑問を持っていた。
その答えを、今度こそみんなに伝える。
この討論会は、ギャルを解禁するための決定的な場になる——
私はそう信じていた。
***
一方、その頃、生徒会室——
「あなたの役目は、北条さんの主張を論破して、『ギャル解禁=無謀』だと証明することよ」
玲華は静かに、けれど強い口調で告げた。
「……わかっています。ルールは、生徒のためにあるものですから」
舞凛は毅然とした表情でそう答えた。
玲華は微かに目を細める。
「北条さんは簡単に崩れる相手ではないわ。強い信念を持ち、それを言葉にする力がある」
「……承知しています」
舞凛は自分の手をギュッと握りしめた。
(私が、聖和の伝統と秩序を守らなければ——)
討論会は、単なる選挙戦の一部ではない。
これは、聖和女子学院の未来を決める戦いになる。
4.2.2 討論会スタート!
体育館の空気は、張り詰めたような緊張感で満ちていた。
壇上には、私——北条茜と、対立候補の永田舞凛先輩。
舞凛先輩は背筋を伸ばし、微動だにせずこちらを見据えている。
対する私は、手のひらをぎゅっと握りしめた。
舞凛先輩とは、これまで何度か顔を合わせてきたけれど、こうして公の場で真正面から討論するのは初めてだ。
体育館には全校生徒が集まり、先生方も壁際から見守っている。
ここにいる誰もが、私たちの言葉に耳を傾けようとしていた。
壇上の中央には司会の藤城玲華生徒会長。
彼女は凛とした表情を崩さず、冷静な口調でマイクを通して言った。
「では、これより生徒会選挙討論会を始めます」
体育館が静まり返る。
私は、前を向いた。
玲華会長が、淡々と続ける。
「今回の討論テーマは『自由 vs 秩序』です。お二人にはそれぞれの主張を述べていただきます」
自由と秩序——
この討論会の勝敗を分けるテーマだった。
私は深く息を吸い込む。
玲華会長が視線を向ける。
「では、まず永田舞凛候補からお願いします」
舞凛先輩はゆっくりと立ち上がった。
「皆さん、こんにちは」
先輩は静かで落ち着いた声で話し始める。
「私は、聖和女子学院の生徒会として、学校の秩序を守ることが最も大切だと考えています」
体育館のあちこちで、生徒たちが静かに頷くのが見えた。
「ルールは、私たちが安心して学び、成長するためにあります。厳しい校則も、伝統あるこの学校の品格を守るためのものです。それが聖和女子のアイデンティティなのです」
……やっぱり、そう来るよね。
私はじっと舞凛先輩を見つめた。
彼女の言葉は、聖和の「正しさ」そのものだった。
「確かに、自由を求める気持ちは理解できます。しかし、自由を求めすぎた結果、学校の規律が乱れ、生徒たちの生活が不安定になったらどうでしょう? 校則は、生徒の皆さんを守るためにあるのです」
彼女がそう言い切ると、会場の生徒たちの間に「確かに……」という声が漏れた。
私は、歯を食いしばった。
やっぱり、ルールが大事って考えは根強い。だけど……
「では、北条茜候補」
玲華会長の声が、私を現実に引き戻す。
私は立ち上がり、マイクを握りしめた。
「……私は、ルールが絶対だとは思いません」
体育館が少しざわつく。
私は続けた。
「もちろん、秩序は大事。でも、それが本当にみんなを幸せにしてるのか、考えたことありますか?」
前列に座っていた一年生たちが、少し身を乗り出すのが見えた。
「例えば、メイクが禁止されてるのはどうしてなんでしょう? 髪を染めちゃダメなのは? みんなが学校で窮屈に感じてるルール、一つや二つ、みなさんにもあるんじゃないですか?」
「それは……」と誰かが小さく呟く。
私は続ける。
「今の聖和のルールは、本当にみんなが幸せになるためのものでしょうか? ただ『昔からそうだから』って理由で続けているのではないでしょうか?」
すると、生徒たちがざわつき始めた。
中には、考え込むような表情を浮かべる子もいる。
私は一歩前に出た。
「ルールは普遍じゃない。時代に合わせて変えていくものです」
玲華会長が、すかさず口を開く。
「では、質問です」
一瞬、空気が張り詰める。
「あなたの言う『自由』が行き過ぎたら、どうなると思いますか? 『自由』の範囲はどのように設定するつもりですか?」
玲華会長の鋭い視線が、私を射抜いた。
私は、言葉を詰まらせた。
……それは、私がずっと考えていたことだった。
自由が暴走すれば、それはただの無秩序になる。
だけど、自由のためにどこまでなら許されるのか——その線引きは?
私は、体育館を見渡した。
みんなが、私の答えを待っている。
どうする? どう答えれば——
ふと、前列に座る花音が、優しく微笑んでいるのが目に入った。
その隣では、琴音先輩が「アンタなら言えるでしょ」と言いたげに、腕を組んでいる。
……そうだ。
私は、この選挙を通して、自由の意味を証明しようとしてるんだ。
なら——
私はマイクを握り直し、前を向いた。
「……私は、ただ好き勝手に自由を求めたいわけじゃない」
私は一度、言葉を区切り、続けた。
「大切なのは、お互いのことを考える自由。みんなが、自分の気持ちを大事にしながら、相手のことも尊重できる自由。そのために、今のルールを見直していきたいんです」
生徒たちが、ざわつき始めた。
中には「それも一理ある……」と頷く生徒もいる。
舞凛先輩は、私の言葉をじっと聞いていた。
玲華会長は、少し目を細める。
体育館の空気が、二分されていくのを感じた。
——この討論会、まだまだ終わらない。
だけど、私は絶対に負けない。
4.2.3 追い詰められる茜
「ルールがなければ、学校は混乱します。」
舞凛の声が静まり返った講堂に響く。
彼女はマイクを握りしめ、冷静な口調のまま続けた。
「例えば、生徒が好き勝手な格好をし始めたら……制服の意味はなくなり、規律は乱れ、学校の品位も損なわれるでしょう。」
まるで教科書の一節のような発言に、会場の一部から小さく頷く姿が見えた。
「でも、その『好き勝手』っていうのは、誰が決めるんですか?」
私は即座に反論する。
視線を舞凛に向けながら、できるだけ堂々とした態度を崩さないようにした。
「髪を巻いたり、メイクをしたりすることが、なんで『好き勝手』って言われなきゃいけないんですか? 私は、みんなが自分を表現できる自由を大事にしたいだけです。」
私の言葉に、前列に座る琴音先輩が軽く頷いた。
味方はいる。
でも、舞凛は微動だにせず、さらに追撃を仕掛けてくる。
「では、あなたが『適切なルール』を作るとしたら、どのように設定しますか?」
「それは……」
言葉が詰まる。
適切なルール……?
私は何をどう変えようとしている?
「ギャル解禁」は、ただ単に「好きなことをやりたい!」って言ってるだけじゃないのか?
講堂の空気がざわつき始める。
私は答えを出せないまま、ただ立ち尽くしていた。
「つまり、あなたの『自由』には、具体的なビジョンがないということですね?」
玲華会長の冷たい声が追い打ちをかける。
「校則を変えたい、自由になりたい……あなたの気持ちはわかります。でも、学校は個人の願望を叶える場ではありません。あなたの『自由』が、他の生徒の秩序を乱す可能性があることを、考えたことはありますか?」
私の脳内が混乱する。
(みんなの前で負けるわけにはいかない。でも、私は本当に答えを持ってる……?)
ギャルが解禁されたら、みんなが自由におしゃれを楽しめる。
隠れギャルだって、堂々と自分らしくいられる。でも、それって……。
(ただの自己満足じゃないのか?)
私は、ただ自分がやりたいことを押し通しているだけ?
会場の雰囲気が変わる。
さっきまで私の話に耳を傾けていた生徒たちが、不安げな表情で囁き合っている。
舞凛が優勢になりつつある。
私は今、追い詰められている。
どうする?このまま押し切られるのか?それとも――。
(……私は、本当にギャル解禁を実現したいのか? そのための答えを、持っているのか?)
喉がカラカラに乾いていく。
でも、私は負けるわけにはいかない。
4.2.4 予想外の援護と反撃
討論会の終盤——。
私と舞凛先輩の議論は、完全に拮抗していた。
「ルールがあるからこそ、学校は秩序を保てるのです」
舞凛先輩がそう言い切ると、会場全体が静まり返る。
彼女の言葉には力があった。
確かに、秩序は大事。
でも、私は——。
「ルールが変わることは、決して悪いことではないわ」
——その時だった。
会場の端から、静かな、それでいて芯のある声が響いた。
え?
壇上に立つ私だけでなく、会場にいた生徒たちも驚いたように声の主を振り返る。
声の主は染谷明日香先生だった。
「先生……?」
小さなざわめきが起こる。
教師が公の場で意見を述べることは珍しい。
ましてや、校則の話となると、先生方は普段、規則の維持を第一に考えている。
「先生がそんなこと言うの、珍しい……」
「もしかして、茜派……?」
生徒たちの間に困惑と驚きが広がる。
「ルールが時代に合わせて変わることは、決して悪いことではない」
染谷先生は、落ち着いた口調のまま繰り返した。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中で何かが弾けた。
——そうだ。
私は、ルールそのものを否定してるわけじゃない。
ただ、“今のルール” がみんなにとって本当に必要なのか、問い直したいだけなんだ。
私は壇上で一歩前に出た。
そして、強く言葉を紡ぐ。
「私は、ルールをなくそうと言ってるわけじゃない! ただ、今のルールが本当にみんなのためになってるのか、見直す必要があるって言いたいの!」
会場にいた何人かの生徒が、はっとしたような表情を見せる。
「舞凛先輩、『ルールがなければ混乱する』って言いましたよね?」
私はまっすぐ舞凛先輩を見つめた。
「でも、今のルールで苦しんでる子がいるのは、どう考えますか?」
私の視線が、観客席の奥にいる”隠れギャル”たちを捉える。
栞那、詩、海悠——
彼女たちが、小さく頷いた。
「ルールがあるからこそ、学校は守られるんです」
舞凛先輩は、一瞬言葉に詰まったものの、落ち着いた声で返してきた。
「確かに、ルールが息苦しいと感じる生徒もいるかもしれません。でも、ルールがあるからこそ、学校は混乱せずに済んでいるのではないでしょうか?」
その言葉に、再び会場は静まる。
——討論は、平行線のままだ。
玲華会長が、時計を見てから立ち上がった。
「以上で討論会を終了します」
玲華会長の声が響くと、会場は再びざわついた。
討論の決着はつかなかった。
でも、確実に何かが動き始めている。
観客席の生徒たちの表情は様々だった。
舞凛先輩の意見に納得した子もいれば、私の言葉に共感してくれた子もいる。
その中で、染谷先生の表情は、どこか優しく、そしてどこか誇らしげにも見えた——。
4.2.5 茜の葛藤と次のステップ
討論会が終わり、体育館を出た後も、私の心はざわついていた。
熱を持ったままの顔を冷やそうと、夜風を感じるために校舎の外に出る。
「……私の言葉、届いたのかな……?」
ぽつりとつぶやいた。
壇上では堂々と話していたつもりだったけど、舞凛先輩の論理的な反論に押されてしまった場面もあったし、玲華会長の「自由を履き違えるな」という言葉が、まだ頭の奥で響いている。
それに、会場の雰囲気——
私の話に頷いてくれる人もいたけど、どこか不安げな表情をしている子もいた。
「まあ、あの状況でよくやったよ。でも、これで終わりじゃない。」
琴音先輩が、私の背中をぽんっと叩いた。
その横で、花音がじっと私を見つめる。
「ねえ茜、本当にギャル解禁って、学校に必要なのかな?」
核心を突く言葉だった。
「え……?」
一瞬、言葉に詰まる。
「茜は『ギャルになりたい』って思いで選挙に出たでしょ? でも、それってこの学校にとって、本当に大事なことなのかな……?」
花音の声はいつもより少し真剣で、胸の奥がざわつく。
——私は「ギャルが好き!」って気持ちだけで突っ走ってきた。
でも、それだけでいいの?
「ギャル解禁」を掲げたのは、私自身がギャルになりたいから。
でも、それだけじゃなくて——
この学校のルールが厳しすぎることに、ずっと息苦しさを感じてきたからだ。
スカートの長さも、髪色も、メイクも、全部禁止。
「清楚で品格のある女性を育てるため」っていうけど、それって本当に、みんなのためになってるの?
私が求めてる「ギャル解禁」って、ただのファッションの自由じゃない。
みんなが「こうありたい」と思う自分になれること——
それが、本当の自由なんじゃないか?
「……ギャル解禁って、見た目のことだけじゃないんだよね。」
自然と、そんな言葉が口から出ていた。
琴音先輩が興味深そうに私を見つめる。
「ほう? 続けて?」
「私、ずっと『ギャルになりたい!』って思ってたけど、それは単に見た目を変えたいってだけじゃなくて……自分の好きな姿でいられることが大事なんだって、今気づいた。」
「なるほどね。つまり、自由ってのは『見た目』だけじゃなくて、『自分らしくいられること』ってこと?」
琴音先輩がにやっと笑う。
「はい……、 そういうことだと思います!」
そうだ、私は「ギャル解禁」を通して、「好きな自分でいる自由」をこの学校に作りたいんだ。
「じゃあ、それをどう伝えるかが次の課題だね。」
花音がにっこり笑う。
——次の一手を考えなくちゃ。
「ギャル解禁」=ただのファッション革命じゃない。
「自分らしくいられる自由」を、どうみんなに伝えるか。
私は、新たな戦略を考え始めた。
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