第30話 パーティと祝福
あっという間にパーティ当日になった。
輝と選んだドレスをデザイナーたちに着せてもらい、メイクをしてもらった。デートをした時よりもより本格的にメイクをされる。
プロにメイクをされるのは心地よく、手際の良さと技術に感心しっぱなしだった。
鏡に映った自分はとても美しく別人かと思うほどだ。
アイシャドウがキラキラと光り、おしろいとチークでいつもより肌が綺麗で血色が良く見える。唇もつやつやと潤っている。
「メイクってすごい……」
思わずつぶやく。自分の変化が楽しく、美久はまじまじと鏡を見た。メイクも輝に教えてもらおうかと思う。
そしてドレスはマーメイドドレスだ。輝と見て一番しっくりきたお気に入りのドレスだ。輝も似合うと褒めてくれた。
肩が出るデザインで、レースとフリルがついていて甘さも十分にある。
自分がこんなに綺麗に、可愛くなるなんて、と美久はワクワクする。
慣れないドレスに、躓かないよう慎重に歩き待ち合わせの場所へ向かう。足取りは軽く、飛んでいけそうだ。
「ミク、似合うじゃないか」
グランツも正装だ。普段のゆったりとした服ではなく、かっちりとした詰襟の服にサッシュとマントを着けている。それらを着こなし、気品にあふれる彼は王子なのだと改めて思う。背も高さも相まって頼もしく見える。
髪は撫でつけていて額を出し、端正な顔が良く見えた。最初の頃よりもずっと自信にあふれた顔をしている。この国の未来を背負っていくにふさわしい。
「グランツも似合ってる。かっこいい」
「お褒めに預かり光栄だ。向こうで聖女様がお待ちになられている」
「うん」
グランツを追い越し、先に進もうとした。
「ああ、待て」
引き留められ振り返る。
彼は美久が今まで見た中で一番優しい笑顔で言った。
「ミク、良かったな。本当に、おめでとう」
「ありがとう!」
心からの祝いに美久も飛び切りの笑顔で返す。
グランツに見送られ、待ち合わせ場所についた。
輝のドレスは薄いピンクのプリンセスラインのものだ。肩はパフスリーブになっていて可愛らしい。良く似合っている。
「お待たせ。ごめん遅れた」
「ううん。全然!」
輝はじっと美久を見る。
「凄く綺麗……! 良く似合ってる」
「へへっ……輝も、綺麗だよ。本当に」
褒めあう二人の胸元にはお揃いのペンダントが揺れていた。
「聖女様方、そろそろ入場です」
役人が声をかける。
「行こっか」
「うん」
扉が開かれる。
手をつなぎ、会場へ入った。
大勢の身なりのいい貴族たちが拍手で出迎えた。
今日の主役は自分たちなのだ。高揚感に包まれる。
一通りの挨拶が終わり、各々自由に食事や談笑を楽しむ。
食事は立食形式で豪華だった。
デヴォンとアシュリーが二人の元へやって来た。
「お二人ともお綺麗ですよ」
デヴォンとアシュリーは黒を基調とした正装で、アシュリーのドレスは背中が大胆に空いていて大人っぽく美しい。デヴォンはファーのマントが付いていて威厳に溢れている。
「聖女殿、ミク殿、まさかここまで友好的に和平が結べるとは思わなかった。感謝する」
畏まった礼に王族の気品を感じる。
「ああ、皆さんお揃いで」
クラウスとグランツもやってきた。グランツがデヴォンへ声をかける。
「デヴォン殿、プレナート領名産のワインです。いかがですか?」
「ああ頂こう」
「聖女様もミクさんもドレス似合っているね。ぶどうジュースも用意したから飲むといい」
「やったぁ」
みんなで乾杯をする。和やかな雰囲気だ。きっとこれからもうまく関係を続けられるだろう。
「美味しい!」
美久が飲んだのは白ぶどうのジュースだ。さっぱりとしたフルーティーな甘さが広がる。
食事も美味しく退屈しない。優雅な曲を聴きながらパーティを楽しんだ。
「これ美味しい~!」
「私も取りに行こう~」
輝の食べているパスタが美味しそうで、美久も取りに行く。すると他にも美味しそうなものが目に飛び込んでくる。ローストビーフ、チキンソテー、唐揚げも採用されていた。唐揚げはすっかり人気になった。
全部食べたい……。デザートも用意されていて、ついつい皿にたくさん盛ってしまう。
「ミク!」
ハルトだ。
「俺、アシュリー様とともにこの国との親善大使に任命されたんだ! これから、この国と手を取り合えるように頑張るよ」
ハルトは笑って言った。
「ハルトならできるよ。頑張ってね!」
「聖女様にも挨拶していいか?」
「もちろん!」
「おかえりー。たくさん取ってきたね!」
「つ、つい美味しそうで……」
パーティなのに取りすぎてしまった。少し恥ずかしい。
「あれ? 君はこの前の……」
「改めまして、レサドラ・キーアライトで騎士をしています。ハルト・Ⅾ・ディーリアと申します。この度親善大使に任命されました」
「すごーい! 頑張ってね」
「はい! それと、先日は助けて頂きありがとうございました」
「どういたしまして!」
ハルトは丁寧に礼をする。自分が倒れている間に少し話をしたらしく、親しげに話している。
こうしてゆったりとした時間が流れていく。
踊る人達もいて、まさにパーティといった感じだ。本当にこんなパーティがあるなんて。
「ねぇ美久、あたしたちも踊ろう!」
「わ、私踊れないよ!」
「あたしも踊れない!」
輝は無邪気に笑った。その笑顔を見ていると、「せっかくのパーティなのだ、楽しんだ方がいい」と思える。
「一緒だね」
手を繋ぎ、くるくると回る。輝が繋いだ手を高く挙げたので、それっぽく美久は一回転する。
踊れていないのに気持ちは高揚する。下手だとか関係なく、一緒にいるだけで楽しいのだ。
「すごく楽しい。夢みたい」
「ずっと言ってるね。夢じゃないよ」
手を強く握られる。手の感触は確かなもので、夢でも、妄想でもないことを知らされる。
「これからも二人でいろんなことをしようね」
頬を赤く染め、輝は目を細めて笑った。
「うん……。ずっと一緒にいて。大好き!」
美久は手を引き、輝を抱き締めた。
輝は美久の抱擁も言葉も受け入れる。
「あたしも大好き!」
拍手が起こった。世界の全てが祝福をしてくれているようで、胸の奥が熱くなり世界が輝いて見えた。輝も同様に幸せそうな顔を浮かべていた。
パーティが終わり、グランツたちも仕事が落ち着き、帰る日が決まった。
その日まで美久たちのすることはなかった。帰るまでの時間をゆっくりと過ごしてほしいという気遣いだった。
帰りたかったとはいえ、決して短くない時間を過ごした場所だ。思い出もたくさんある。
残された時間を大切に過ごした。
大事な友人である、ミーシャにも感謝の気持ちを伝えようと会いに行った。言葉を紡ぐ途中で涙が溢れ、つっかえた。そんな美久にミーシャももらい泣きをし、二人で抱き合って泣いた。
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