第29話 告白
ディアネットの城内へ転移した。周りの人が驚き、慌ててグランツを呼びに行く。城中が大騒ぎになった。
輝とグランツが慌てた様子でやって来る。
輝の顔が見えた瞬間、体の底から温かい気持ちがこみ上げる。
輝が走って美久の方へ向かってくる。美久も待ちきれず駆けだした。
「美久! おかえり!」
輝が抱き着いてきた。背に回された輝の腕にきゅっと力が込められた。
美久も腕を輝の背へ回した。
輝に抱き着かれたことよりも、輝を見て安心したことが勝った。
「ただいま」
やっと、会えた。輝の体温が伝わる。心配してくれたのだろう。
輝の腕がほどかれ、彼女の手が美久の頬に触れた。輝の顔は真剣だった。
「うん、ちゃんと魔力も抜けてる。異常なし!」
「あれ? 何で知ってるの?」
「あたし、美久に会いに行ったんだよ。そりゃ覚えてないか」
「本当に来てくれたの? 夢じゃなくて?」
「夢じゃないよ。膝枕もしたのに」
夢だと思っていた。まさか、本当に会いに来てくれたなんて。
待って、膝枕?
輝にじっと見つめられる。その瞳は以前の眼差しと違い、熱が込められていた。
美久の両手が輝の手で包まれる。
「ね、美久はどうしてあたしを助けてくれるの? ずっと助けてくれたよね」
「それは……」
輝の綺麗な瞳に嘘はつけない、嘘をつきたくない。倒れた時、死んでしまっては想いは伝えられないと気づいた。伝えるなら、今だ。
「好き、だから。輝のことが好き……。一目ぼれしてずっと追いかけてた。だから、力になりたかったんだ。笑っていて欲しかった」
一度口に出した輝への想いは溢れて止められない。
「オシャレで、可愛くて、明るくて、美味しそうにご飯を食べるところも、寂しがり屋なところも、全部、大好き」
顔が熱い。きっと真っ赤になっているだろう。
「そ、そんなに……!」
輝も真っ赤になっていた。
「うん。その顔も可愛い」
「う~!」
顔を隠してしまった。が、すぐに手をどけた。照れていて頬が赤い。
「あ、あたしも美久が好きなの」
「えっ……」
今、輝は何て言った? 頭の中で反芻する。心臓が破裂しそうなほどにドキドキし気持ちが舞い上がっていく。
「美久がいなくなって気づいたんだよ。それに、怪我をしたときに失いたくないって思った。美久といると幸せな気持ちになるの。帰ってからもずっと一緒に居てほしい」
「私の好きは、恋人になる、ってことだよ……?」
「うん。恋人になって?」
もう美久の心臓は限界だ。目頭が熱くなり、喉が狭くなる。
「よ、よろしくお願いします……!」
掠れた声で何とか返事を絞り出した。
「やったぁ! よろしくね!」
再び抱き締められる。
「本当にありがとう。トラックから助けようとしてくれて。あの時手を伸ばしてくれて」
「うん……! 私こそ……ありが……と」
堪えきれず涙がこぼれた。
幸せだ。この人と恋人になれるなんて。幸せと愛が溢れてくる。こんな日が来るなんて思っていなかった。
輝も頬を染め、幸せそうに笑っていた。
パチパチと拍手が聞こえた。
「おめでとう。ミク、聖女様」
グランツが笑って拍手をしていて、アシュリーもクラウスも、続いて祝いの言葉を述べた。デヴォンも拍手をしてくれていた。
「みんな……ありがとう……!」
その後、グランツとデヴォンは話し合いへと向かい、美久と輝の役目はいったん終わりを告げた。
この先はグランツ達の領分だ。美久と輝は庭で紅茶を飲みながら、休むことにした。離れている間のことを話していく。
「美久、あたし日本に帰る方法が分かったんだ!」
「えっ本当に?」
いつの間に? と美久は目を丸くした。
輝の顔は自信にあふれていて、頼もしく見えた。レサドラに言ってる間に何があったのだろう。
「最初の魔法陣の部屋で帰る方法を探してたら、美久の声が聞こえた気がしたんだ。胸騒ぎがして、美久のところに行きたいと思ったら本当に行けたの。その時にコツがわかった」
あの魔法陣で来て、自分を助けてくれたのか。
輝曰く、魔法陣は選ばれた者しか起動できない。他の人間では何も起こらなかった理由がそれだ。輝は起動できる者だったのだ。
美久は感嘆を漏らす。
「美久のノートがあったから、すごく助かったよ。ありがとう」
起動できたのは輝の力だが、その土台には美久の支えがあった。二人でつかんだ帰り道だ。
輝がふにゃりと笑う。美久は手を輝の手に重ね、するりと撫でる。恋人になり、輝は嬉しそうに甘い顔をする。その顔に美久もうっとりと笑う。
「アレの起動はあたしができるけど、一人の魔力じゃ完全には帰ることはできないの。だからみんなの魔力があれば帰れるんだ」
「そうなんだ。よかった。輝のお母さんに会えるね」
「うん!」
輝は元気に言った。帰りたいと言ったあの日から、やっと帰る方法を見つけることができた。輝の願いが叶う。そのことが嬉しい。
「グランツが協力してくれるって言ってたんだけど、しばらくかかりそうだね」
「ね。まぁ仕方ないよ」
世界の状況が動くのだ。簡単にはいかない。こればかりは待つしかない。
☆☆☆
その後、異例の速さでディアネットとレサドラ・キーアライトの和平条約が無事に結ばれ、同盟が成立した。人間と魔族の争いは終結したのだ。美久も聖女として扱われ、二人の聖女の導きによって和平が結ばれたとされた。
その途中で他の国との会議は難航した。しかし、グランツとクラウスの手腕とデヴォンの誠実な対応でうまく進んだのだが、それは美久や輝の知るところではなかった。
ディアネットとレサドラの交易も決まり、食品や魔法の素材などが提供されるらしい。
レサドラの魔法の知識もディアネットに入ってくることになった。レサドラの魔法は人間のものと違う点もあり、魔族は魔力量が多く高度な魔法も発展している。それゆえ「新たな知識を吸収できる」「ディアネットの魔法が発展する」とグランツは嬉しそうにしていた。
これで、グランツも自分の夢に着手できるだろう。
クロはディアネット城で飼われることになり、美久と輝は安心した。聖女が大事にしたという事で可愛がられ、立派に成長し番犬として活躍することになるのはまだ先の話である。
「パーティ? 私たちが?」
「ああ、ディアネットとレサドラの同盟を祝し行われる。交流も兼ねているな。それで和平に導いた二人にぜひ出席してほしい」
「わぁ! 美久、出ようよ! ドレス選んであげる!」
「で、でも礼儀とか分かんないよ」
「それは気にしなくていい。最低限のマナーは教えるが、二人が主役だからな。よっぽどのことをしなければ大丈夫だ。いざという時は私たちがフォローをする」
「だってさ。行こ? 美久のドレス姿見たい」
「う、うん。緊張するな……」
礼儀は分からないが自分がドレスを着れると思うと心が躍った。それに、パーティでドレスを着た輝はきっと綺麗だろう。それをそばで見たいと思う。
さらに、終戦を祝し城下町でパレードも行われた。町の人たちは二人の聖女に喜びの歓声と感謝の声を上げていた。
そのことに二人は誇らしくなる。
まだ二人の仕事は終わらず、国王に謁見するなど、あわただしい毎日を過ごした。
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