聖女のヒロインに婚姻を迫られる、悪役令嬢の私
海の向こうからのエレジー
彼女が私と結婚したいわけ
第一話 黒き氷の棺で眠りにつく
(**注意事項** この作品は百合がメインテーマですが、男性との絡み、それも肉体関係を持つような展開が含まれています。紹介文の最後にもう少し具体的、ネタバレ有りの説明があります。)
ようやくここまでやってきた。魔王城の玉座の間。その扉の前に私とオーリスタが最後の戦いへの準備をしてる。本来ならここにヒロインと攻略対象たちのスチルがある。このゲームの様々のルートを見たけど、この組み合わせで最終場面を迎えるのはないはず。攻略にも載せていない隠しルートでもなければ。
「あの、ヴィアンシアさま、こんな場所で念入りに準備しても大丈夫ですか?もし魔王が打って出ると危ないじゃありませんか?」
「大丈夫よ。魔王は玉座の間でバフ……じゃなくて、力を最大限に引き出せるから、劣勢の今ならきっとそこに籠城する。自分から出てくれたらむしろ楽に勝てるよ」
「なるほど。ヴィアンシアさまはホントすごいですね。どうしてそんなことまでわかるのですか?」
「ま、まぁね」
ここが乙女ゲームの世界だと知らないオーリスタに、ゲームからの知識だなんて言えない。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
二人のスキルとアイテムのチェックが終わった。これで完全勝利が約束されたようなものだから、私は自信を持って玉座の間の扉を開ける。
――30分後――
魔王の強烈な斬撃を捌いて、ダークインパルスの魔法は神聖属性を付与したシールドで弾く。あの魔法はマジでいやらしい。避けるのは基本的に不可能だから、回避を好むプレイスタイルの私は初見でここで躓いた。対策のために私は攻撃を捨ててシールドを装備。まぁ私の攻撃が魔王にヒットしても決定打にはならないしね。
そんな不毛な攻防を続けるうち、オーリスタの聖女結界にじわじわと力を削られる魔王がついに膝をつく。かなり時間かかったね。このラスボス戦に色んな攻略法がある。一番手っ取り早いのは玉座の間から引きずり出す、RTA御用のバフ剥がし作戦。しかしポジション取りが大事だからオーリスタには難しいかもしれない。それで私は一番確実、かつえげつない戦法を選んだ。この長期戦で行くならプレイヤースキルがほぼ不要となる。耐久装備の私が魔王の攻撃を防ぐ。オーリスタはただ聖女結界を維持すればいい。後ろで棒立ちしてもいいくらいだ。前衛の負担が大きいが、小さい頃から冒険者を目指してきた私にとってこれくらいへっちゃらだ。
「くっ、なぜだ……なぜ小娘二人相手に、この余が勝てん……」
私たちが部屋に入ったとき何も言わずに斬りかかってきた魔王が、ここで初めて言葉を発する。記憶の中と同じ、凛とする、孤高な感じの声だ。前回私が聞いたのはもう20年くらい前なのに、好きな声優さんだからか、まだ鮮明に覚えているね。
「わたし達人間は決してあなたに屈しませんから!あなたがいくら魔物の軍勢を集めても無駄です!」
答える必要なんてないのに、オーリスタは律儀に会話に付き合う。魔王とはなにを話しても意味がないと事前に教えたのに、ゲームのセリフをそのまま言ってしまった。この世界の強制力というやつかもしれないね。
「もうこんなことはやめてください!どうしていきなり人間の領域に攻め込むのですか?」
「話しても、なんの意味もなかろう……」
「意味があるかを一人で決めつけないでください。そちらになにか問題でもあるのですか?解決できれば、また昔のように人間と魔族が共存できる世の中に戻れるかもしれませんよ?」
意味がないその質問に、魔王は小声で答えるから、よく聞こえないオーリスタが一歩前に出て……しまった!さっきの戦いで消耗しすぎて、頭がぼんやりしてたから反応が遅れた。このままではゲーム通りの展開、しかもバッドエンドになってしまう!
「馬鹿め!共存など、最初から無理に決まっておる!」
煙の中で急速に崩れてゆく魔王の体からおぞましい瘴気が滲み出し、オーリスタに襲いかかる!あれは自分の血肉を呪いに変える、道連れの自爆技だ!いくら聖女の力があっても、あれを食らったらただじゃ済まない。
「ヴィアンシアさま!?」
気がつけばもう私はさっきまでオーリスタがいたところに立っている。彼女を突き飛ばして、代わりに瘴気を受け止めた。
寒い。まるで全身の血液が凍りつくような、骨身に染みる寒さ。一瞬で私の体力が奪われて、動けなくなった。
「どうしてわたしを庇ったの!」
オーリスタに返事しようにも、口がうまく回らない。頭の思考もだんだん鈍くなる。
「せい、じょの、ちか、らで……わた、しを、たすけ、られる、はず……」
そう。私が呪いにやられたらまだオーリスタが助けてくれる。でもオーリスタが呪われるともう誰も助けられない。だからきっと、これが正しいんだ。
「ま、まおう、は……?」
「もういなくなりました!でも、どうしてこの黒い氷が、まだ……」
オーリスタに言われるまで気づかなかった。瘴気が霧散したあと、私の体に薄い霜が付着した。この世のものとは思えない、禍々しい黒い氷だ。
「こ、れ……のろ、い……だか、ら」
目を開けたままだが急に何も見えなくなった。オーリスタの切実な呼びかけがだんだん遠のく。こりゃ、あかんやつだ……もう何も話せない。何も感じられない。何も考えられない。
(それにしても、寒いね……)
そして暗闇の中で私の意識までも凍りついた。
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