過去転移走り屋

沢に椀

第1話 新入社員、過去に転移する。

 2026年、春。今日は僕の入社式の日だ。僕の名前は野村尚彦のむらなおひこ。ただの野村尚彦だ。今日から僕は国内有数の機械を製造している会社に勤めることになった。緊張しながら車に乗り込み、会社に移動する。僕の車はGRヤリスだ。僕の家は結構裕福な方だから、入社記念に両親が買ってくれたものだ。僕は昔から車に憧れていたから、MTの車を買ってもらった。始めて公道を走行するから緊張するけど、しっかり法定速度を守ってゆっくりと会社に移動した。

 しばらく移動して会社に到着した。移動には二十分ほどかかったけど、そこまで車通りの多い地方じゃないからか、スイスイ進むことができた。持ち物の確認をしてから車を降りて荷物を部署に運び入れる。僕が配属された先は営業課だった。いつも機械を買ってもらっている会社に物を売ったり、検討している会社に行って売ったりしているらしい。この会社は大きい会社だからと言って社長の話があるわけじゃないらしい。だからその代わりに部長の話があった。

「新入社員の皆さん。今日からよろしくお願いします。わたくし、部長の杉田と言います。どうぞよろしく。」

部長の話はすぐに終わった。てっきり中学校の時の校長先生ぐらい話すのかと思っていたけど、短くて助かった。午後からは、淡々と先輩に仕事を教わり、仕事内容を大まかに覚えた。やるべきことを忘れないようにメモを取ったり、実際に営業先に少し行ってみたりした。先輩の指導や教え方が上手かったから、1日で結構仕事内容を知ることができた。そんな感じに仕事をこなして、1日目が終了した。とっくに周りの人は帰っていたけど、残っているのは僕と先輩だけだった。

「それじゃあ野村くん帰ろうか。」

 仕事1日目は自分の中ではうまくいったと思う。そう思いながらカバンに荷物をしまい、電気を消して部屋から出る。

 会社から出ると、意外にも外は暗かった。僕は車に乗り込み、教習所時代に習った方法で安全確認をする。そしてライトをつけて発進する。

 会社を出てから10分。半分ほどきた時に、一台の古い車が対向車線を走ってきた。その車は異様なオーラを放っていて、とても早そうだった。おそらく、NSXのような車だったと思うが、ライトのせいでよく見えなかった。

「眩しいっ」

そう思って一瞬目を瞑った。すると、目を開けると、そこは見たこともないような光景が広がっていた。

「どこだここは、何が起こったんだ」

状況が読み込めなかった。山の中の小さな峠を走っていた。どこかみたことがあるけど、あんまり覚えていないから正確にはどこかわからなかった。なんとなく、山頂に休憩所があったような気がするから、記憶を頼りに少しずつ進んでいく。なんとか山頂に着いて休んでいると地元の走り屋みたいなやつに声をかけられた。

「兄ちゃんいい車乗ってるじゃないの。俺たちとバトルしねぇか?」

「え?あ、ちょっとそれは…」

曖昧な返事をしてしまった。そのせいで相手にOKと捉えられたかもしれない。

「おっ、ノリいいじゃん。」

やっぱり勘違いがされていた。でも僕には抵抗する勇気がないから、バトルするしかなかなさそうだ。仕方なくスタートラインに向かう。やるからには本気でやりにいく。それが僕だ。そしてスタートラインに立った。

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