第25話

 さて、どうするものか。とナーナは考える。

「真っ向勝負じゃ負けるし、飛び降りてもリンは盗まれる……。下に降りても『善良な市民』を巻き込むだけ……」

 いい案が見つからぬまま、相手の矢と自分たちの体力が減っていく。

「上昇する……、いや、リンのことがわかんないし……。後ろに回り込めればなぁ」

「ナーナ、ブツブツうるさくて、集中できないよ」

「悪い。でも、この状況をなんとかしないと」

「上昇する、ですか」大将がナーナが口にした言葉をいう。「そして、後ろに回り込む……。いけますよ」

「マジで!?」「嘘でしょ!?」

 大将の予想外の言葉に、ナーナと花梨の声が重なる。

「ひねり込み、ですね。一般的には飛行機で戦うことに使われますが、リンでも行けると思います」

「飛行機の技を、リンで試すの!? だいたい、そんなのどうやって――」

「急上昇したあと、スピードが落ちる前に大勢を立て直して、相手の後ろに回り込む方法です」

「何その難しい方法」

 大将から聞いた方法に、花梨は絶句する。そんなこと、本当にできるの?

「だけど、今一番前にいるのは花梨だ。花梨にできると思うか?」

「うち無理だよ! やったことないし!」

「指示はしますので、花梨さん、やってみてください」

「嘘でしょ!?」

「嘘かどうかわかんねえけど、やるならさっさとやっと方が良い。もう相手の矢も鋭くなってるから」

 ごく、と息を呑む花梨。初めての飛行技術で緊張することもあるけどやるしかない。

「行きますよ」

 うん、と頷く花梨とナーナ。

「リン、急上昇して」

 キュウ、と一気に急上昇するリン。

「あ、結構キツイかも……」

「まずい……」

 三人は落ちないように必死にリンに掴まる。

「今です、花梨さん!」

「リン、体制を整えて!」

 大将の合図を得て、花梨はリンに命令をする。下を見ればミゴリが花梨たちの一歩前を飛んでいるのがわかる。敵が花梨たちに向かって弓矢を向けているが、当たらないことをわかっていて、矢を投げる気配はしない。

「そのまま急降下してください!」

「リン!」

 そのまま、リンはミゴリの後ろをついた。

「このまま真後ろにいれば大丈夫です。流鏑馬やぶさめと同じで、真後ろにいれば射手いての人は敵をうちにくくなっています」

「くそっ!」

 大将の言う通り、敵は体をうまく真後ろへ捻ることができず、悔しそうに顔を歪めた。

「大将、槍貸して」

「ナーナ、殺す気じゃないよね?」

「まさか。ちょっとつつくだけだよ。大将のいうことが本当ならば、ミゴリは体力がそんなにない。ならもう疲れているはずだろ?」

「……最低」

「どーも」

 褒めていないのに、ナーナはその言葉を花梨に返して大将から槍をもらう。そして、持ちての方――もちろん、刃のところは持たないけど――を向けて、ミゴリの後ろ足の付け根あたりを狙う。

「3、2、1」

 ミュウ、とミゴリが鳴いた。

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