第5話

「コドリを持っておるな、お嬢さんたちは」

 おじいさんは花梨とナーナの後ろにいるリンを見ながら言う。

「なんか文句あるんですか?」

「いんや。でもそれだと盗賊に狙われてしまうぞ。……ああ、それで武器か。ちょっと待っておれ」

 そういっておじいさんは家の中に入っていった。

「な? いいじいさんだったろ」

「たまたまでしょ」

 花梨はまたため息を吐く。ナーナの行動は呆れるものばかりだった。

「ほら、これ。ちと古いが使い勝手がいい太刀じゃ。使い」

 家からこっちに戻ってきたおじいさんの手には2本の少し錆がついている太刀があった。

「ちょうどいいな。遠慮なく貰ってくぞ、じじい」

「ちょ! すみません、ありがとうございます」

 ナーナの口の悪さに花梨は慌てて頭を下げる。国王に頭を下げさせるような口の悪さってどんなのよ。

「いえいえ」

 一礼をして太刀を背負う。そして2人で並んで歩き出す。

「口の悪さ、どうにかなんないの?」

「なんねえな」

「太刀、貰ってよかったね」

「使ったことあんの?」

「あると思う?」

「ま、国王だからねえよな」

「ばっ、ちょ!」

 ナーナの発言に驚いた花梨は慌てて辺りを見渡して、人がこっちを見ていないことに安心する。

「誰が聞いてるかわかんないんだから!」

「別にいいだろーが」

「良くないから言ってるんでしょ」

「あたしは太刀とかやったことあるけど」

「勝手に話をそらすな」

 ナーナの自分勝手な振る舞いに花梨ははぁー、とため息をこぼす。

「ため息吐くと幸せ逃げるけど」

「うっさい!」

「んで? 太刀はねえんだな?」

「そうだけど。ナーナは?」

「あたしはある」

 ナーナは当然のように頷く。

「リンって今乗れるか?」

「乗れるけど」

 花梨の言葉を肯定するようにリンはキュウ、と鳴いた。

「一気に中央山まで行く。行けるところまで行く」

「はあ? 何ふざけてんの?」

「嫌な予感がするだけだ」

 ナーナの言葉に花梨はますます顔をしかめる。

「どういうこと?」

「貿易が起こる」

「貿易?」

「不定期開催なんだ、その貿易は。でもたぶん今日行われる」

「なんでわかるの?」

「勘だ。あたしの勘はよく当たる」

 ナーナはリンの背中の上に乗る。そして手を花梨に向かって差し出す。

「貿易ってなんの?」

 その手を渋々とりながら、花梨は訊く。『土地勘』をもっているナーナを信じたほうがいい、と判断したからだ。

「本当に何も知らねえんだな。何年目?」

「3」

「だったらしょうがねえか。最近なかったんだし。最後は……、4年前か」

「前置きはいいからさっさと言って」

 ナーナの後ろに乗って、花梨は荷物を膝の上に置く。

「貿易してんのは――つーか、貿易って言うのか怪しいところだな――まあ、人だ」

「……はっ?」

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