第7話 魔力の中抜き

「魔力が600?」


唐突な情報に、思わず耳を疑う。

おかしい。

今の自分にしては、多すぎる魔力。

数分前に確認したときは、270しかなかった。

この短時間で2倍以上になるのは、あり得ない。


......もともと600近い魔力があった。

それが表示されていなかった、と考える方が自然。


つまり、600は隠された魔力。

......不思議とその出所には心当たりがある。


「十中八九、元本のおかわりだろうな」


おそらく、それが蓄積した結果だ。


「まさか、スキルが魔力を中抜きしていたとは」


保有スキルが魔力を搾取――

そしてスキルのランクアップ。


「.....さて、中抜きの成果を確認してみるか」


ステータスを開く。


―――――――


リザヤ


ポイント残量

MP 255/283(+250)

HP 300/345(+245)


スキル:力の前貸し


ランク1:複数の対象に付与可能(new! バンスズ or リースズ)

ランク1:前借りと前貸しの同時使用可(new! リース&バンス)

ランク2:....................................................

ランク2:....................................................

―――――――


「...割とバランスの取れた設計だな」


スキルによる中抜きには、おそらく2つの目的がある。


1つは、弱点の補填。

MPやHPは通常、レベルアップで増える。

つまり前貸しのような、魔力を集めるだけでは増やせない。

そこを中抜きした魔力で補っているのだろう。

魔力をどう変換したかは不明だが。


2つ目は、能力の開拓。

スキルランクが上がることで、新たな力が解放される。

きっと今後も、ランクに応じて力が増す。

ポイント消費と同様に、魔力を対価として。


「...間接的にでも強くなれるのなら、中抜きもやむなし、か」


スキルの仕組みが、少しわかってきた気がする。

前借りは自分に、前貸しは相手に“元本のおかわり”が降りかかる。


スキルの代償を払うのは、自分か相手。


この能力は毒に近い。

使えば誰かが苦しむ設計になっている。

扱いを誤れば、自らを滅ぼすことにもなる。


だが、この毒は――復讐相手あいつらにも届くかもしれない。

天にかざした手を握りしめ、改めて誓う。


相棒を傷つけた者たちを、必ず葬ると。


――――――――――――――


「ここは……」


あたり一面、真っ白な世界。

目の前には1体のモンスター。

白くふさふさした毛並みに、つぶらな瞳。


「……フォン」


ありえない光景。

ここには、いるはずのない存在。

夢だと気づくのに、時間はかからなかった。


「……クォウ」


フォンが飛びつき、顔を舐めてくる。


――ああ

こんなふうに、以前も慰めてくれた。


大勢の人から罵声を浴びせられたとき。

ダンジョンで傷だらけになったとき。


どんな時もそばにいてくれた。

その存在が、生きる力をくれた。

苦しみを吹き飛ばすほどに。

今こうして生きているのは、きっとフォンのおかげ。

もし、いなければ――きっと、俺はもう…。


艶やかな毛並みに手をやると、フォンは気持ちよさそうに身を預ける。


「ありがとうな。ずっと隣にいてくれて」


フォンへの恩は、生涯をかけて返すはずだった。

だが――

今は隣にいることはできない。


「待っててくれ、黒幕を殺したら必ず会いに行くから」


――そこで夢から覚めた。


なぜだろうか。

夢の中のフォンの温もりが、まだ残っている気がした。


「――――」


起き上がり、周囲を見渡す。

洞穴の中は、昨夜と違ってわずかに明るい。


「……?」


足を踏み出した瞬間、何か硬いものに触れた。


「……これは……」


落とし物だろうか。

地面にポーションが転がっていた。

拾い上げて確認する。


「…まさか」


紫色のポーション。


通常のポーションは回復薬として使われる。

だが、紫色はその逆。

中身は致死性の毒が入っていて、暗殺に使われる。


手軽に毒を盛れるうえ、使用者の特定も難しい。

そのせいで、かつては毒殺事件が頻発した。

俺の周囲でも同様で、常に神経をすり減らしていた。


しかし、国王の暗殺を機に、毒物の所持は禁止される。

そして、今では世界中で製造・販売・所持・使用すべてが重罪になった。


「そんな物騒な代物が、なぜここに……」


毒ポーションは持っているだけで極刑。

今では入手手段も、裏社会を通さないと不可能だ。

しかも多額の金を積まなければならない。


だから、これを落とした人物は相当ないわくつきなのだろう。


目を凝らし、書かれた文字に着目する。

それにしても、このポーション――


「……文字が滲んでるな」


だが、まだ読める程度のもの。

つまり、文字を読めなくするような意図的な処理ではないということ。

恐らく手汗....で滲んだものだ。

相当長く握りしめていたに違いない。


容器の中は満たされており、未使用と判断できる。


「……?」


戻そうと下を見ると――

桃髪色の髪が落ちていた。

長さからして、おそらく女性のもの。


ということは、このポーションの持ち主は――桃髪の女?


「……いや、まだ断定はできないな」


パキッ、バキッ――!


突如、外から誰かが踏む音が響いた。



――――――――――――――――――――


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