第6話 作戦勝ち
「...!?」
オークが一瞬ひるむ。
初めて俺が先手を打ったからだ。
だが、すぐに気を立て直し、迎え撃ってきた。
スッ!シャッ!
ズガンッ!!
最後に振るった攻撃が木にヒット。
オークは鉈を木から外そうとする。
その瞬間、腹に大きな隙が生じた。
「はあぁぁ!!」
ザンッ!!
敢えて攻撃ゼロの状態で剣を突く。
予想通り、剣は硬い皮膚に弾かれた。
サッ――
反撃される前に距離を取る。
攻撃ゼロの状態で剣を突いた理由は、MP消費を抑え、相手の油断を誘うためだ。
魔物の大半は相手の魔力(エナジー)を察知できる。
オークの視点に立つと...。
目の前の人間は、オークより魔力が少ない格下。
故に、格下のスピードが速かったのも、こう判断してたはず。
「こいつの魔力は速さに特化している」と。
その判断を後押しするために、攻撃ゼロでアタック。
俺は敵に値しないと、認識してくれればいいが....。
この策には一つの穴がある。
オークが仲間を倒されたことをどう捉えているかだ。
記憶力があれば、攻撃ゼロの人間がどう倒したのか疑問に思うだろう。
そこから、ステータス変動を見抜かれるかもしれない。
「さぁ、どう反応する?」
ニヤリ。
オークは余裕の笑みを浮かべ、何もせずにただ立っている。
そして—
ぽたぽたとよだれを垂らし始める。
俺を敵ではなく、餌として認識したようだ。
「賭けには勝ったか」
次の問題だ。
格上をどう一撃で倒すか。
奴の弱点は何だ?
奴の魔力はおよそ170。
平均で1ステータスあたり34。
だが、オークも生き物。
ステータスには偏りがある。
オークの攻撃は、凄まじいものがあった。
よって攻撃に魔力が集中していそうだ。
俺の魔力60を攻撃に振って、何とか対抗できる火力を持つ。
高く見積もって攻撃は60ぐらいか。
速さは60に到底及ばず、むしろ遅いぐらいだったので、20くらい。
魔法は未確認だが、打点となるならとっくに使っているはず。
つまり、他のステータスに寄っていると見た方がいい。
だから魔法は0と仮定する。
攻撃、速さ、魔法、3つ合わせて80程度。
守りのステータスはそれを差し引くから、防御、魔防の合計は90。
対して、俺の放てる火力は60。
もし、奴の防御と魔防のどちらかにステータスが偏っていたら....。
奴の弱点の方を突けず、一撃で倒すことができない。
.......ったく。
ここまで考えて最後は結局、運なのか?
どちらのステータスが弱いかを試すにもmpが必要。
だが、そんな余力はもう残っていない。
俺は......。
魔法か攻撃、どちらに
「...ブオォォォォォォォ!!」
空腹に耐えられなくなったオークが猛スピードで向かってくる。
オークの動きは、戦闘から狩りへと変化していた。
.....駄目だ、まだ奴の弱点のステータスが分かっていない。
今、近づかれるわけにはいかない。
俺は再び、オークから全速力で逃げる。
振り返ると、追手は餌を逃がすまいと血眼で迫ってくる。
――あれっ?さっきも似たような出来事が...
たしか....この森で最初に遭遇した方のオークとも追いかけっこをした。
あの時も、こんな風に距離を詰められて...。
ファイヤーボールを放ち、オークが動揺したおかげで捕まらなかった。
「.......そうか!奴は魔法を恐れていた」
つまり、魔法をガードする魔防が低い可能性が高い。
....魔法を恐れていたオークと今の追手は別個体だ。
だが、奴らと相対して大きな差異はなかった。
つまり、ステータスも似通っていてもおかしくない。
俺は立ち止まり、追ってくるオークと向かい合った。
近づくにつれて、奴は大きく口を開け迫る。
目の前に餌があるように感じていることだろう。
――今だ
魔法を決して避けられない、距離までひきつけた。
あらかじめ流動させていた魔力が、魔法のステータスに行き渡る。
そして奴の大きな口の中を狙って...
「ファイヤーボール!」
炎がオークの喉奥を焼き尽くす。
「お前の判断は正しかった」
ドサッ!
黒こげになったオークが倒れる。
「俺にステータス変動の能力がなければ…の話だが」
...指先が痺れている。
MPが尽きたせいだ。
魔力を使い果たした時の虚脱感が、全身を襲う。
しかし、何とか踏ん張ってオークに近づいた。
倒れたオークの負債プロンプトを見る。
もし利子が止まっていたら、すべてが無駄になってしまうが…
「...よし。気絶しても止まっていないな。」
ついでに相手の利子を確認したところ、まだ基準の数値には足りていない。
魔力のリターンを最大化するのなら――
「もっと利子を寝かすか」
...できればあと2時間は、利子を増やしたいところ。
なので少し休息を取ることにした。
▽
2時間が経過した。
「
かなり離れた場所から、漆黒色の魔力が流れ込んでくる。
「...この魔力、俺のと同じ色?」
なぜか、オークから同じ色の魔力が流れてくる。
オークの魔力の色は緑だったはず。
前貸ししたことで魔力の色が変化したのか?
「まだ謎が多いな、このスキル」
《回収完了いたしました。》
確認のため、ステータスを開く。
―――――――
リザヤ
Eランク
Lv1(永久)
魔力(エナジー) 164(+134
5大ステータス
攻撃 44 (+36
防御 22 (+18
魔法 27 (+22
魔防 16 (+13
速さ 55 (+45
ポイント残量
MP20/33
HP37/60
スキル 力の前貸し
―――――――
奪った魔力がステータスに反映されている。
これでかなり、戦闘が楽になるはずだ。
「今日中にもっと魔力を集めてやるか」
剣を握り締め、駆け出す。
.........................
............
...。
もうすぐ日付が変わる深夜。
魔物との戦いに限界だったが、運良く小さな洞穴を発見。
中に入ると、藁のベッドを見つける。
.....もう立つ力も無い。
藁のベッドを作った人には悪いが、利用させてもらった。
「ふぅ......」
ベッドに寝そべりながら、ステータスを開く。
ステータスに浮かぶ、俺の魔力は270。
目標の数値まで持っていけたため、安堵の息を漏らした。
「.........」
...それにしても、このスキル。
元本分の魔力がどこに消えたのか、全く見当がつかない。
さっきまでは、前借りした魔力は消滅するから、余分に負担するのだと思っていた。
しかし、どうやら違うらしい。
前貸しした力を回収した際、元本の魔力が最初に返ってきた。
予想が外れたので、貸した魔物の負債プロンプトの詳細を確認すると....。
だが魔物から奪ったおかわりの魔力は、俺のステータスには反映されていない。
一体、おかわりの魔力は回収された際、どこに――
《600魔力(エナジー)の回収が達成されました。基準値を満たしたため、スキルのレベルがランクアップします。》
――――――――――――――――――――
一つ目のメインイベント終了です。
次回、スキルの新たな特性が明らかになります。乞うご期待!
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