第2話 氷覆星の歴史

・地球外生命体

地球外の惑星や衛星、宇宙空間に生息している生命体。


   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆


「今日は暑いね。嫌んなっちゃうわ」

「ああ。日中の最高気温は45度になるってさ。だけどヴィーナス規模で寒冷化が進んでいるからな。それがVUGヴィーナス統一政府の公式見解だ」

「熱波の影響かしらねえ」

「ヴィーナス観測史上、最大級だからな。通り過ぎれば、また少しは涼しくなるだろう」

 そんな市井ののどかな会話の裏で、何が起きているのか。ヴィーナス統一政府Venus unified governmentがひた隠しにする事実がある。大気圏内の東西南北全域を合わせた平均気温は、年々上昇を続けている。太陽の活動が活発化しているからだ。地表・地層を長期間調査した結果、ヴィーナスは早ければあと千年、遅くとも2千年以内に、人間が住める環境ではなくなるという事実が判明した。その頃には、ヴィーナス全域の平均気温が60度を超え、地域によっては日中80度から90度にもなる。大気圏は窒素で満たされ、その後も年々、上昇を続けるだろう。

 そこで開発されたのが『気象兵器アトモスフェーン』。特定の風の強い海上で、人為的な上昇気流を生み出し、そこを中心とした台風を連続で発生させる。台風と熱風の大渦は、風に乗って移動し、代わりに冷気の壁が出来上がる。数ヶ月かけてヴィーナスを一周した熱波に合わせて、再び人為的な第二・第三の熱波を作り出すと、それは以前より大きな渦となってヴィーナス全体を覆っていく。こうして、「ヴィーナスの平均温度が上昇している」のではなく、「寒暖差の激しい異常気象だ」という風にマインドコントロールするのだ。

――何故、そのようなことを?

 現在の科学力では、宇宙空間で何千年も生き抜くのは不可能である。ヴィーナスを捨て、他の惑星へ移住するとしても、全人類を運ぶのは無理というもの。この『箱舟計画Project Noah』は、一般人の知らない水面下で密かに進行している。僅かな数の、選ばれた人類だけしか連れて行けない。PNを一般市民が知る必要はないのだ。PNを知るのは、既に要人がヴィーナス金星を脱出した後でなければならない。遠い遠い、氷に覆われた惑星。太陽活動が活発になった時、あと千年の後には、きっと人類が住めるようになる水と大気の惑星。地球テラへ――


 太陽の活動周期は地球換算でおよそ11年。それ以外に10万年単位の氷期と、最長でおよそ数億年単位の大氷河期を繰り返す。その時、地球以外に知的生命体が存在していた。それは、我々人類の一部である。

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