第18話 あたしのこと



<立花ララside>



 あたしの名前は立花ララ。アニメキャラみたいな名前と言われることがあるけど、パパとママが一生懸命付けてくれた名前で、あたしは大好き。名前の由来は、歌声の「la-la」から来ているんだって。あたしは特に歌が得意なわけじゃないけど、なんかかっこいいじゃない?


 この、那真栄なまえ高校に願書を出したのも、なんとなくが理由だった。あたしの学力にも合っているし、家からもそこそこ近い。ただそんな理由だった。


 あたしの家は、どちらかというと裕福で、進路の一つとしてアメリカに留学する選択肢もあった。だけど、あたしはコミュニケーションが得意ではない。海外って、社交的な性格が受け入れられやすいじゃない? グランマも「ララには那真栄高校の方が合っている」と言うから、ここにすることに決めたわ。あっ。最終的に行くと決めたのは、あたし自身だからね! 自分で納得して決めた方がしっかり責任が取れるじゃない?


 あたしは今まで、女の子の友達ができたことがなかった。だからと言って、男の子の友達はいた経験があるかと聞かれると悩むところだけど……。まぁ。喋るような相手はいたわよ! 男の子は私に対して恋愛感情がある人が多かったから、純粋な友情とは言えないわね。


 幼稚園の頃に仲良くしていた女の子とは、おままごとや砂場遊びをしていたわ。だけど、あたしを好きだという男の子が現れたことで全然仲良くしてくれなくなったわ。


 小学校の時にも一緒に話したり、グループを作ったりしていた子はいたわ。だけど、何故かしら。いつの間にか陰口を叩かれて、ハブられるようになったの。


「ララちゃんと一緒にいると、男の子みんな取られちゃう」


「ララちゃんって言葉きついよね」


「一緒にいるのやめて良い?」


 男の子から好意を持ってもらうことは簡単なのに、女の子といると、ことごとく嫌われてしまう。なんで、なんでと自分を責めた時期もあったわ。


 だけど、世の中には自分の思い通りに動かせないものがあると知って、気持ちが楽になったの。執着心を手放したら、心が軽くなったの。


 雑誌やSNSを見ていると、恋愛に悩んでいる女の子が多いことがわかったわ。「好きな人が振り向いてくれない」「ライバルの方とうまくいきそうで辛い」など、嘆く内容が多いと感じたわ。


 「友達ができない」という悩みもあるにはあるけど、あたしが見る限り、時間が解決してくれる悩みが多い気がする。そういう子に限って、結局、最後に友達を作れていたりするわ。


 強く欲しいと思うほど、手に入れられない時が悔しい。人生にはきっとどうにもならないことがある。ずっと欲しいまま生きていると、嫉妬に苦しむから、仕方ないと受け入れてしまった方が楽ね。


 あたしはかわいいものが好き。例えば、クマーヌというキャラクターもそう。癒し系のフォルムがたまらないわ。


 クマーヌのグッズの中で、今、入手困難と言われているマスコットキーホルダーがあるの。こんなあたしだけど、"欲しいものは必ず手に入れる主義"なの。


 「入荷しました」のメールを見逃さないで粘り強く張っている限り、クマーヌを手に入れることができるわ。これは努力に値する正当な成果と言えるわね。注文の受付が完了すれば、誰かに横取りされる心配もない。


 だけど、人間関係はそうじゃないじゃない。頑張れば頑張るほど、私の手に入らないものがあるとわかるわ。


 そういうものには蓋をすることに決めたの。ダサいかしら? ……だけどそうでもしないと、心が持たないの。


 無事、那真栄高校に入学することが決まった時も、無理に友達は作らないことに決めたわ。別に一人でいることは嫌いじゃなかったし、何かに振り回されたくなかったの。淡々とした高校生活を送ることができたら良いなと思っていたわ。


 入学式の翌日。教室で自己紹介をする時に、クラスの男子があたしに釘付けになっているのがわかったわ。無理もない、私はかわいいから。


 ……こんなことを実際に口にしたら、女子から嫌われてしまうことがわかっているくらいには、物事の分別はついているつもりよ。


 簡潔に自己紹介を済ませた後は、上の空でいた。早く家に帰りたい。レトに会いたい。そんなことばかり考えていた気がするわ。


「や、や」


 ーー突然、掠れた声が耳に入ってくる、その時までは。


 不意に目を向けると、目が泳いで、自己紹介をしている女子が目に入った。


「や、矢橋……真子、奈です。趣味はーー、えっと、読書です。よろしくお願いします!」


 おそらく緊張しているのだろう。無理もない。初対面に近いクラスメートの前で自己紹介をするのだから。誰だって平常心ではいられないはず。まぁ、あたしはいつも通りだったけどーー。でも、この子、緊張しすぎじゃない!?


 見ているこっちがハラハラするわ!


 その子は、今にも泣き出しそうな顔をしていたのが印象的だった。


「まこな……」


 あたしは、なんとなく口にしていた。


 ……へぇ、変わった名前。まぁ、あたしも人のことは言えないけど!


 矢橋真子奈ね。ふぅん。


 変わった名前と、緊張しているところが印象的だったからかしら。数あるクラスメートの中で、あなたのことを一番に覚えてしまったわ。


 でも、自分の名前のところで言い淀む人は初めて見たわ。もしかして、自分の名前が苦手とか? ……いやいや、考えすぎ。まぁ、話す機会なんて一度もないと思うから、確認のしようもないけど。


 あたしは頬杖をついて、レトのことを考えた。今、何しているのかしら。寝ているかな。それとも一人でボールで遊んでいるのかしら。あくびを噛みころしながら、あたしはゆっくりと目を閉じて、家にいるレトに思いを馳せた。

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