HTR

メメ

 昼休み、いつも通り社食は混み合っていた。

 席は特に決められているわけではないけれど、各々が大体いつも同じ席に座っている。


 トレーにラーメンをのせ、ひと通りうろついてはみたものの、やはり空いているのは、この人の周りだけだった。


 鷹巣部長に近寄る者無し。


 この地域一帯を統括する鬼。

 厳しいことで有名な部長の恐ろしさは、直接関わりのない外部の人間である自分の所まで轟いていた。


 このまま立っていても席が空く気配はない。

 仕方なく部長の後方のテーブルへ向かうと、座ろうと思っていた席へ他の人が先に着席した。

 唖然としているうちに右側の席が埋まり、モタモタしていると左側の席も盗られてしまった。


 結局、空いているのは部長の1つ前のテーブルで、真正面に向かい合う最悪の席だけとなる。


 渋々座るが居心地が悪い。

 

 まず部長の顔が恐い。

 恐さを上乗せする様な、色のついた眼鏡。

 レンズの奥がよく見えなくて恐い。

 それから、黒々と密集しているチリチリの髪の毛がブロッコリーのようで恐い。


 緊張ぎみの昼食は折角のラーメンも無味となり、早く終わらせようと黙々と食べ進めていく。


 その時、1人の勇者、神島さんが部長の前にゆっくりと座った。


 奇跡的にブロッコリーが見えなくなる。


 おお!神よ!神様神島様よ!と、肌色率の高くなっている神島様の後頭部に手を合わせる。

 なんと安らぐ後頭部だろうか。




 神島様のおかげで心穏やかにラーメンを食べ終えることが出来た。


 ポケットから黒いケースを取り出す。


 間違えて買ったスーパーストロングミントのハードパンチタブレットだ。

 1粒出す。

 1粒のつもりが3粒出て、戻すのが面倒なので3粒をそのまま口へ入れた。


 名前に偽りなし。


 スーパーでストロングなミントがハードに鼻をパンチしてくる。

 激辛ミントによって凍った鼻の突然の生理現象に、口元を押さえる間も無く豪快にくしゃみを放った。


 鼻スッキリ、喉スッキリ、口内もスッキリとミント3粒が消えてしまった。


 テーブルの上や床をザッと見たが転がっていない。


 顔を上げると、肌色率の高くなっている神島様の後頭部から、一瞬だけはみ出したブロッコリーにハッとした。


 ヒャッ ヒャッ ヒャッ ヒャッ という脳内BGMと共に、肌色の影から徐々に姿を現したブロッコリーのホラーな光景に血の気が引いた。


 乗っかってる。


 白い粒がブロッコリーに。


 あれは紛れもなく自分の口から放ったミントだ。


 慌てて目を逸らすと、そこからの行動は我ながら速かった。

 出来るだけ身長を縮めた低い姿勢で、内心グルグルになりながらも、とびっきりの平常心を装いスーッと食堂を後にした。

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