第20話 依頼料


『少し付き合ってくれない? 二人に渡したいものがあるんだ』

『ん? ああ、もちろん』


 料理を食べ終えた頃。女性の霊は頼を連れて家を出た。その音声だけを聞きながら私はどこに向かうのだろうと考える。


「どこに向かっているのでしょう」

「さあ。どこだろうなぁ」


 ルイはまるで行き先をしているかのように、小さく微笑みながら私の隣にいた。


『あのさ、アンタのこと聞いてもいいもん?』

『何で死んだとかそういうこと?』

『まあ、そんなとこ』


 しばらく二人分の歩く音しかしなかったけれど、そこに頼の声が追加される。ずっと聞かずにいたけれど、頼は女性の霊のことが気になっていたらしい。「いいよ」と静かな声が続く。


『いいって言っといてなんだけど、覚えてないんだ。仕事行こーって思って駅に行って、階段降りてたとこまでは覚えてんだけどさ』

『記憶がないのか?』

『まあね〜。気がついたら真っ暗で、彷徨ってたら何かに引かれるような気がして……誰かと話をした、と思う。ずーっとぼんやりしてて夢見たいな時間だったな』

『それで、最終的に卓に辿り着いた』

『そんな感じ』


 そこまで話して、一人分の足音が急に止まった。木々が揺れる音がする。街からは少し離れた場所に移動したようだ。


『ここだよ』

『ここは……』

『さっき誰かと話をしたって言ったじゃん? 多分この辺で……あ。あったあった』


 ごそごそと何かが触れ合う音がして、何かが持ち上げられた。


『これはお礼。依頼料って感じかな。霊はこれでお礼するって聞いたから』

『依頼料?』

『クスクスロワイヤル代。材料と技術料的な。多分お釣りが出るくらいにはあるはずだよ。そう聞いてる。じゃあ、アタシいくから』

『おい、ちょっと』

『ありがと。超美味しかったし、久々に楽しかった』


 そう声が聞こえて私の視界が大きく揺れる。身体を返してくれるのだろう。依頼料。これまでも私にくれようとする霊ももちろんいた。


「ルイ。そろそろ時間みたいです」

「そうか。残念だがまた話そうか」

「はい。これ、ありがとうございました。おかげで貴重なものを聴くことができました」

「それは何より。ここに置いておくからこれからはいつでも使え」

「いいんですか……?」


 ああ、もちろんと言ってルイは傘を揺らして笑った。浮遊感に身を委ねながら、疑問が頭に浮かぶ。どうしてルイがあの万華鏡を持っていたのか聞きそびれてしまった。でも大丈夫、また会えるのだから。


「っ」

「……卓、なんだよな?」

「……ええ。あの霊は……」


 周りを見渡すが姿は見えない。


「(あの、まだ聞こえますか?)」


 脳内に語りかけても返事はない。身体も軽く、霊に取り憑かれている気配はなくなっていた。


「もう、消えてしまったようですね」

「そ……っか。あっけない最後だったな。こんな別れもあるのか」

「ええ。もちろん。霊も元は人間です。個性がありますから」


 自分はいてもいなくても同じだったと言った彼女は、その考えを抱いたまま消えてしまったのだろうか。聞こえていたのに、話せる距離にいたのに、彼女の抱える全部を救いきれなかった気がしてやりきれない。これまでもそんなことばかりだったけれど、悔しく感じたのは久々だ。

 霊との関わりがいつもより深くなっているからだろうか。


「あとこれ……どうしようか」

「そうですね……」


 頼の手の上には見たことがない文字が並ぶ紙の束が置かれていた。

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