馬村 ありん

 ヒトシの釣り竿にかかった魚はよほど大物であったらしく、最初は喜んでいるばかりの彼だったが、しだいに表情を緊迫させていった。

「やべえよ、どれくらいデカいんだこれ!」

「頑張ってヒトシ!」

 力になろうと私も彼の竿をにぎりしめた。ぐいぐいと強い力で引っ張られているのが分かった。

「すごい……!」

「マグロでも釣れてんじゃないかコレ!」

 ヒトシのこめかみからは汗がたらたらと流れていた。会社で見かけるスーツ姿の彼もいいが、こうしてスポーツに打ち込んでいる彼もすてきだなと私は心をときめかせる。

「おいおい、見つめてないで助けてくれよ」


 岸にいたほかの釣り人たちが助けに入ってくれた。

 彼らは、手慣れた調子で、ヒトシにリールを巻くように指導したり、竿を引くのを手伝ってくれた。

「こんな重たいやつは初めてだ」

 釣り人たち――ヒトシを含む――はあれこれ手を尽くすのだけれど、相手は手強かった。このまま糸が断ち切られてしまうのではないか。


「頑張れ兄ちゃん、もうすぐだ!」

 ややあって、水面には銀色に輝くものが浮かび上がってきた。釣り人が捕獲網を差し出した。

「なんだ、小さいな?」

 大物かと思われた魚は意外にも小ぶりで、人間の頭くらいの大きさしかなかった。

「異様に重いぞ!?」

 釣り人の額には玉の汗が浮かんでいた。セラミック製の捕獲網の柄は湾曲し、今にも折れ曲がりそうだ。

 水揚げされたものの前に、その場にいた人たちはしばらく言葉を失った。その外見の異様さ、美しさに圧倒されたのである。

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