魚
馬村 ありん
1
ヒトシの釣り竿にかかった魚はよほど大物であったらしく、最初は喜んでいるばかりの彼だったが、しだいに表情を緊迫させていった。
「やべえよ、どれくらいデカいんだこれ!」
「頑張ってヒトシ!」
力になろうと私も彼の竿をにぎりしめた。ぐいぐいと強い力で引っ張られているのが分かった。
「すごい……!」
「マグロでも釣れてんじゃないかコレ!」
ヒトシのこめかみからは汗がたらたらと流れていた。会社で見かけるスーツ姿の彼もいいが、こうしてスポーツに打ち込んでいる彼もすてきだなと私は心をときめかせる。
「おいおい、見つめてないで助けてくれよ」
岸にいたほかの釣り人たちが助けに入ってくれた。
彼らは、手慣れた調子で、ヒトシにリールを巻くように指導したり、竿を引くのを手伝ってくれた。
「こんな重たいやつは初めてだ」
釣り人たち――ヒトシを含む――はあれこれ手を尽くすのだけれど、相手は手強かった。このまま糸が断ち切られてしまうのではないか。
「頑張れ兄ちゃん、もうすぐだ!」
ややあって、水面には銀色に輝くものが浮かび上がってきた。釣り人が捕獲網を差し出した。
「なんだ、小さいな?」
大物かと思われた魚は意外にも小ぶりで、人間の頭くらいの大きさしかなかった。
「異様に重いぞ!?」
釣り人の額には玉の汗が浮かんでいた。セラミック製の捕獲網の柄は湾曲し、今にも折れ曲がりそうだ。
水揚げされたものの前に、その場にいた人たちはしばらく言葉を失った。その外見の異様さ、美しさに圧倒されたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます