第55話 逆転
『ガーッ、ピー、ガッ、ガッ。絶望するがいいアルベルト』
女神の声がさっきと違う。これは男の声? 俺の声に似ている気がする。
『お前は私のコピー、お前は私の模造品。私がオリジナルであり、唯一無二の存在。お前は不要、お前は邪魔、お前が憎い』
「何言ってるんだ……」
意味が分からないことを俺に向けて発する化け物。そのときアリエッタの声が聴こえた気がした。
幻聴? 彼女はもう……。
「――さま、――――こっちです。アルベルトさま、――足元を――」
足元?
一瞬、視界を落とすとそこには大きな水色の魔石の
「おおっ、気づいてくれましたか? 私です、私。超絶かわいいアリエッタちゃんですよ。あっ、攻撃です! 避けて!」
俺はそれを拾い上げると同時に大きく横に飛んだ。振り返ると俺のいた場所に巨大な女神の剣が突き刺さっていた。
「ナイス!」
「あ、アリエッタなのか?」
声のするネックレスに話しかける。
「こんなこともあろうかと、私の全情報が転送されるようにしていたのです。ちなみにジルたちに渡したものにも同じ機能があります。女神の管理から外れるための奥の手ですよ。あっ、またです! 回避を!」
俺はネックレスになったアリエッタを首からかけると女神の攻撃を回避して逃げ回る。
「このネックレスは特殊な鉱石を使っていて魔法耐性が激高なのです。まあ、アルベルトさまほどではないですけどね」
「お、おう」
とりあえずアリエッタがその姿どうであれ、無事だったことを喜ぶ。
「では、ここからのミッションをお伝えしますよ」
「ミッションて……、こんな状況なのに随分落ち着いてるんだな」
女神の振り下ろす剣も、俺をいたぶって楽しんでいるつもりなのか、集中すれば躱せないことはない。
「ええ、それはもちろん。何と言っても私が一番信用していなかったあのギヨームの予想というか、予言? それがことごとく的中していますからね」
「予言?」
「本人は占い程度だと言っていましたけど。いまのとこと言ってたことがすべて現実となっています。実は彼、未来視持ちなのかもしれません」
「な、なるほど。で、このあと俺はどうすればいい?」
「さあ?」
「はっ? さあって……」
「えっと、私が残念なことに女神にやられちゃて、それにも関わらずアルベルトさまと共にあるみたいな。私、この転送の秘密誰にも話したことないんですけど、こんな感じで大当たりです。それはそれですごいことなんですけど。ギヨーム氏
「おいおい……」
女神の攻撃の速度が増していく。すると離れた場所でマテオさんの姿が見えた。シルビアさんとギヨームさんに担がれて陥没した地面から運び出されているところだった。
「よかった。無事だった」
マテオさんは自分の足で立って歩けているように見える。
「あと忘れてませんか? カーリーちゃんもですよ」
「カーリー? どこ?」
さっきはあまりのショックで冷静でなかったが、彼女のことだ簡単に死ぬはずはない。
「ふふっ、よーく女神を見てください。何か気づきませんか?」
そう言われて俺は女神に意識を集中する。何だか女神が薄い膜のようなもので覆われている気がする。
「あれはカーリーか!」
「オデ! ガンバッタ! コイツタベラレナイケド、オサエラレル!」
カーリーの声が聴こえると同時に女神の動きが遅くなった。
『これは情報に無い。魔法攻撃無効。分解攻撃無効。分析……、不明。再分析…………不明』
「アリュ! ビリビリ、ブツケル! ビリビリ、キク!」
「アルベルトさま、カーリーちゃんの言う通りです。あの女神は生体兵器化していますが、内部は地球産の機械構造だと考えられます。強力な電流負荷をかけたらワンチャンいけるかもです」
「わんちゃん?」
「ああ、何も考えずにぶん殴っちゃってください!」
「おおっ!」
俺は全身にこれまでで最高のビリビリを巡らせ循環させる。いまだに自分の身体もこの不思議な力のこともよく分かっていないが、暴力的な何かが俺の中を動き回っているのを感じる。こいつを女神に叩きつける。
「カーリー、離れろ!」
「ワカッタ!」
俺は右腕を振り抜き、収束した暴風のような力が女神に襲いかかった。
『ガガガガッ! この模造品ガ、アアアアアアアーーーーッ!』
女神から離れたカーリーがもとのサイズになって俺のもとに戻って来る。
女神の全身を暴れ狂う稲妻が焼き尽くしていく。真っ白だった皮膚が黒く炭化してボロボロと崩れ落ちていく。アリエッタの予想通りその内部からは機械的なパーツが剥き出しになる。その身体を支えていた骨格も溶け出し、もう人型の形状をとどめてはいない。
「やったか」
「いえ、アルベルトさま。あの落ちた頭部、あの中に本体である人工知能イシスが存在しているはずです。あれを破壊してください」
胸にかけたペンダントからそうアリエッタの声がする。
「ああ」
頭部だった部分はほとんど焼け焦げてしまってはいたが、その中に銀色の金属の球があった。俺の身長ほどの高さのあるそれが女神の本体であるらしい。
「そのまま一気にぺしゃんこにしちゃってください!」
「うん。何だこの部分外せるのか?」
「いいですから、早く!」
アリエッタの声に彼女が少し
「ああ、分かった」
俺は拳に目の前の球を破壊できるだけのビリビリを込める。
「待つんだアル」
「ん?」
それはエル兄の声だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます