第45話 クラリス王女が語る
「そうは言ってもギヨーム、貴様何か考えがあっての行動なのだろう? 聞いているとエルンストを裏切り敵対しようとしているように思えるが。かと言って女神イシスへの信仰心など持ち合わせてはおらんだろうし」
腕組みしたままのシルビアさんがそう言う。
「うーん、裏切りってもなあ。そもそも俺はあいつの配下じゃねえし。他のガーディアンもそうだが、基本個人主義者の集まりだぜ。まあ、トビアスとマリーは魔王様との付き合いは長いみてえだがな。それでもあいつらは世の中が混乱してるのを
「はあ!? 俺? どうしてそうなるんですか」
聞いているうちに化け物どうしの大きな争いに巻き込まれた感しかなかった俺に、ギヨームさんは世界を救えと言う。
「知ってるか? この星の英雄の話」
「ああ、ライジンとかいう……」
「そうそう、だって少年はそのライジンなんだろ? だったら救わないと」
「言ってる意味がぜんぜん分かりませんけど……」
「たしかにアルベルトが伝説の英雄さまであるなら、これは」
シルビアさんまでよく分からない話の流れに乗っかってしまった。
「アル、それについては我が王家が詳しいのデアル」
話の流れを見守っていたマテオさんが口を開いた。
「王家がですか?」
「王位継承権などとうに捨てた私よりも、正統に受け継いでいるクラリスが詳しく知っているのデアル」
「はい、お父さまから城が落ちる前にこの世界のことについては聞いておりました。そして最後の希望はライジンさまであると」
クラリス王女が俺に向かって話し始める。もう、この国の王族はこの二人だけになってしまったのだろう。だが、彼女の瞳はたしかな光を宿していた。
「この星への植民の歴史も教わっております。恐ろしい兵器が使われ、長くこの東の地が死の大地となったことも知っております。その戦いが一旦終結したときにエルフの一団がこの地に訪れました。彼らが言うにはその大地を蘇生させる技術を持っていると、契約を果たすならば人の住める土地にして彼らも手を出さないと」
「えっと、その大昔の戦争には『核兵器』が使われたんですよね」
「その呪われた科学や兵器については彼らも通った道であると言っていたと伝わっています。オリジンたち、この星に入植後人びとを
「そのエルフたちのおかげで地球の人類がこの土地に定着したということですね。それで彼らとした契約というのは一体」
「ちょうどこの王国のある土地の地中深くに、彼らのいう災厄が眠っているらしいのです。ちょうど同じ場所に落ちてきたのが地球からの方舟であったと。その世界を恐怖させた魔物と英雄ライジンはともに最後、巨大な底なしとも言われる大穴の中へと落ちていったのだと言っています。現在は魔物が発生する大迷宮の場所がそうであり、最後の方舟はその大穴へ落ち蓋をするような形になっているそうです。アルベルトさまなら心当たりがあるのではないかと思います。私たち王家はその番人としてそれを見張るのが彼らとの契約なのです。ですが、このような状況になりその責務はもう果たせないかもしれませんけども」
「ああ……」
あの迷宮の底にそんな話があるとは。さらに底へと旅立っていたオジジさんは無事なのだろうか。
「そしてこの大陸東部の迷宮というのは、この大迷宮から枝分かれして地上に伸びているという特殊なもののようです。さらに西の彼らの土地にも迷宮はあるそうなのですが、この土地のそれは災厄とされた魔物の放つ
「で、でもそれって、随分昔の話ですよね」
「ええ、地球人類のこの星への入植が約千年前、少なくともそれより数百年は前だと考えられますが」
「なら、もう大丈夫なんじゃ……」
「いえ。現在も不定期ですが、何の連絡もなくそのエルフたちは姿を隠しこの地を訪れています。そして私たち王族に管理していることの感謝を述べて去っていきます。本当は感謝などしていないのでしょう。契約は継続しているということの確認なんだろうと思います。父の代に一度その彼らの訪問があったようなのですが、そのときに気になる言葉を残していったそうです」
「気になる言葉?」
「そう遠くない未来において、災厄の魔物とライジンはともに復活するであろうと。すでにこの封印の地は大きく
「教会にもそんな本が残されているって、シルビアさんも言ってましたね」
「ああ、するとあの言語は古い地球の言葉だったのか、それともエルフたちの言葉であったのか、その実際の話を書いたものかのかもしれんな」
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